仕入れ
「確かに、一つの物を売るのは単純で簡単だと思うわ。だけど、他の物も売ったほうがお客さんが来る確率はぐんと大きくなるのよ。」
ルイスは俺の許可もなしに明日に向けての仕入れをしていた。
いわゆる俺はただの荷物運び。
「アーシャネット、ちゃんと周りを見ていて。特に値段ね。変動するから一番安い時に買うほうがいいのよ。」
しかし、ルイスはわざわざポイントを教えてくれる。この商品は今の時期がおすすめとか、もう少しあとの方がおすすめだとか。
ありがたいことだし、感心するばかりだ。
「あ、これはね。」
ルイスが手に持ったのは一つの容器。半透明でカラフルで、綺麗な容器だが割れやすい“カーント”というものだ。
「国王様が職人さんに資金を補助してくださっているおかげで今心にあるのよ。国王様には助けられてばかりよ」
ルイスは見たこともない国王を想像していた。
…どうやら父親は国民から慕われているようだ。
「ここの人は、ルイスみたいに慕っているのか?」
「んー、そうね。ここはお城から最も近い下町だから、他の所より国王様に感謝していると思うわ。」
「…そうか。」
その一言で会話は終わり2人は沈黙した。
が、しかしそれはすぐに破られた。
「あらやだールイスちゃん!お隣の方はどういう関係なの?ふふ、デート?」
な、なんだ、このテンション高い人は。
俺はであったこともないタイプに驚きをかくせない。
「あ、ロジーナさん!いいえ、そんなんじゃないですよ。」
「なんだぁ、ルイスちゃんに春が来たのかと思ったのに。……あ、貴方。間違ってもルイスちゃんを襲ってはだめよ。」
「…襲わねーよ。」
「もう、ロジーナさん!」
赤面したルイスはロジーナのからかいに軽く受け答え、それから3人は別れた。
「…アーシャネット、ごめん。」
まだ真っ赤なルイスが項垂れながら俺に謝る。
「なぜ謝る?確かにちょっと驚いたが、お前が悪いわけじゃないだろ。」
そう、正論をルイスに突きつけたら彼女は驚き、いくらか瞬きをした。
「………正論も言えるのね。」
「お前の中での俺はどんなだ。」
「そりゃもちろん、『極悪非道のおぼっちゃま』」
「…………………。」
多分、こんなことを正直に言える人は彼女だけだろう。笑顔で本人の悪口を言うぐらいだ。ルイスはある意味タフだ。
「いいじゃない、あくまでも私の中でのあなたのイメージなんだから。」
俺の反応をみて、少しご立腹気味のルイスは歩き出した。その姿にすこし可笑しくて笑う。
「っ……今笑った…!?」
「…お前の反射神経素晴らしいな。」
「どうもありがとう。」
そんなやり取りをしていると俺の仮家についた。仕入れた物を中に仕舞ってゆく。あとは店に並べて値段を決めるだけ。
「値段はまた決めよう?私そろそろ帰らないと行けないし。」
「…ああ、分かった。じゃあ、送ろう。」
流石に俺もそこまでひねくれてはいない。基本、俺はレディーファーストを心掛けているし、勝手に女が寄りかかってくるから周りの男よりは気くばりはできる。
「ううん、要らないわ。」
「は?」
俺の予想とは違う返事にドアを開ける手が止まった。
「どうして要らないんだ。日がおちてきてるぞ?」
太陽が傾きだし、光が弱くなっている。もちろん、夜が近い。
「私、親に内緒で来ているのよね。だからこっそり帰らないと行けないのよ。」
という、彼女は視線がキョロキョロしていていかにも怪しかった。が、それを見ないふりして俺は彼女の言うとおりにした。
「分かった。そんなことなら俺は何も言えないからな。」
「うん、明日も来るからさ!私が必要でしょう?」
うまく嘘を付けたからか目を輝かせた笑顔で俺に迫る。
「あーうん、必要必要。じゃーな。」
「棒読み…!?もー、また明日ね!」
しばらく彼女の後ろ姿を眺めていたが、彼女は駆け足で一本道を突き進んで行くだけだった。
しかし、あいつはどこに住んでいるんだろうか。
そんな疑問を頭から消し去りボロボロの家に向き合った。