少女ルイス
「ナニコレ。あなた、どこかのおぼっちゃま?成ってない商売は身を削るだけよ。」
ふと声の方に目線を上げると、1人の少女が俺の手に商品を持って見てみた。
「…なんだよ、文句あんのか?」
「ありまくりよ。こんな高いの誰が買うのよ。ま、日用品を狙ったところは悪くないわ。」
コトリ、と少女は商品である“ロウソク”を元に戻した。
生産が安定して、日常的に使うもの。そんな物は限られている。
ただし、俺が売っているのはただのロウソクではない。
『王族愛用』のロウソクだ。火があまり揺れることもなく、そして使用時間が長いのが特徴だ。が、その代わり希少な“アンダーク”(俺はそれが何だか知らない)という物を使うらしく根がはった。
「はっ、まぁ庶民にはこのロウソクの価値が分からないだろうな。」
「そうね、そんなもの興味無いわ。ある人は貴方みたいなぬくぬくと過ごした人だけね。」
「………お前…」
「まぁ、見ておきなさいよ。私が売ってあげる。」
カチン、と頭に来たがここ2日間で1つも売れてない自分では、何も言えなかった。
そこで大人しくすみの方に腰をかけた。
「みなさーん!この高い高いロウソク、今なら格安ですよー!」
俺が紙に書いた値段を消すと半分より下の値段を書いた。
……いやいやいや、何やってんだ、コイツ!!
「…っお前!それじゃあ利益が出ないだろーが!」
俺はとっさに彼女の手を引いた。
「ちょっとだまってなさいよ。意地張って売れないよりマシだわ。」
そう言って俺の手を払い落とす。
初めて女に振られ、少しばかり動揺した。
いつもは女が俺にくっついていた。それが当たり前だと思っていたのだ。”俺がモテてないはずがない“と。…………どうしてだ、どうしてコイツは俺に媚をうらないんだ?
「…………ねぇ、ちょっと聞いてる!?」
「…ん、あ、あぁ、なんだ?」
どうやら深く考えすぎていたようだった。気づけば眉間にシワを寄せた少女が目の前にたっている。
「手伝ってって言ってるの。ほらもうすぐ無くなるわよ。」
彼女が指を指した場所はロウソクを並べていた台だ。しかし、肝心のロウソクは見当たらない。
「ルイちゃん、これいただくわ。」
「あ、はーい。」
最後の客に彼女は笑顔で対応する。
どうやら、知り合いらしい。それに、どこかの店の娘だろうか、対応になれていた。
「うん、これで終わりね。」
ロウソクが無くなった場所を見つめて、それから俺の方を向いた。
「どう?凄いでしょ。」
無邪気な笑顔の彼女は満足そうにお金の入った巾着を俺に持たせた。原価より値段を下げているから赤字であるのは目に見えている。だけど、手に持った巾着(お金)はなんだかとても重く感じた。
2日かかっても売れなかったのに、彼女はたったの半日で売り切った。そこは、慣れというものがあるかもしれない。けれど、俺はすごいと感じた。
「……あぁ、お前凄いな。ありがとう」
素直に褒めると彼女がポカン、とした表情になる。
「お礼、言えたのね。」
「……はぁ!?そのぐらい言えるわ!」
言い返すと、彼女がふふッと笑った。
「私はルイス、よろしくね」
「ネン……いや、アーシャネットだ。」
こうして、俺に知り合いができた。