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静まり返った部屋で俺はコアの中に手を入れてみた。
「……あるわけないよな」
もしかすると共感の粉がまた用意されているのかと期待したが感触は何もなかった。
何度耐えれるかもわからないこの状況で序盤に失ってしまったのはやはり致命的なのだろう。
俺は深く溜息を漏らし、ゆっくりと周りを確認する。
扉の数は先程と同じで四つ。ただ銅を手に入れた正面の扉の数字が「7/1」に変わっていた。
それに俺が見落としていただけかも知れないがコアの浮いている真下の床に小さく「34」と書かれている。
数字に何の意味があるのかまだわからないが、先程と同じ流れで記号のない「19」の扉を選ぶことにした。
扉の先の暗闇の通路を通り抜け、突き当たりの扉を開けて室内に入る。しかし足元の不安定さに盛大にコケてしまった。
「ぐぬぬっ! おもっきりケツを打ってしまったではないかっ。しかも冷たっ! 床が凍ってるのか!? 」
俺はケツをさすりながら立ち上がると後ろのほうで声が聞こえた。
「きゃっ! いったぁーい」
「……お前いつ出てきたんだ?」
「てへへっ! 何かお手伝いしようかなと思って」
「手伝うって言っても……生まれたての子鹿みたいになってるぞ」
室内の床の見渡せる範囲はすべて凍りついていて前方に進むほど傾斜がついている。
平面で立ってるのもままならないのに傾斜なんて無駄にコケにいくようなものだし。
「きゃっほーい」
滑ることを楽しんでいるコッパーを見て殺意が芽生えそうになった。
この氷上で自由に動くには……コッパーに銅で滑り止めの金具を作ってもらうとか……。
「ヤス~、なんか落ちてたよー」
「なんだこれ? やたらデカくて重そうだけど」
「あっ! 後ろに融雪剤って書いてある」
「……分かりやすすぎじゃないかい」
俺は袋の中の白い粉を撒き、氷が解けるのを確認しながら傾斜を登っていった。
するとそこには一人の女の子が椅子に座っていた。
「ようこそ。よくここまで辿りつけたね」
「……ようこそじゃねーよ! バカにしてんのかっ」
「ふふっ、どうぞそちらにおかけになって」
「俺はそんな余裕ねーんだよ。早く元素を探して回収を……」
「私の事でしょ。元素第4周期1族19、カリウムと申します」
「そ、そーなのか。だったら回収させてくれないか?」
「その前にあなたを試させてもらっていいかしら」
俺は眉をひそめた。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。私は野蛮なモンスターじゃないから。
だたあなたとお茶を飲みたいだけよ。青酸カリ入のね」
「殺るきまんまんじゃねーか」
そう言ってカリウムは俺の前に2個の紅茶を用意した。
「あなたに青酸カリ紅茶が見分けられるかしら」
「たやすいことだ。よしコッパー行け」
「えっ!? あたし! やだよぉ。……善玉菌が増えちゃう」
「善玉菌増えるならむしろお腹に優しいじゃねーか! 一体どんな構造してんだよ」
カリウムはじっと俺を見つめている。何かを見守るような、それでいて冷たくも感じる視線。
「この勝負に勝ったら回収させてくれるんだろーな?」
「ええ、快く」
俺は身につけていた指輪を外し、一つの紅茶を選んだ。
カップを両手で持ち暫く眺めた後、グイッと飲み干した。
「ふふっ、運も実力の内かしら」
「運じゃないさ」
俺はティーカップをカランっと鳴らし、中から指輪を取り出した。
「この指輪、シルバーで出来ているんだ。普段ずっとつけてるからくすんでるけど。
もし俺の選んだ紅茶に青酸カリが入っているのであれば、この指輪の表面は解けて輝いてたはず」
カリウムはクスっと笑い、満足そうに俺に手を差し出した。
するとコッパーは引きつった顔で
「ヤス……ずっと着けてた指輪を入れた紅茶って……すごく汚いと思うの」
「冷静なツッコミするんじゃねーよ! 毒飲むよりマシだろーが」