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bio element  作者: 桃月
25/25

25.Passing

「じゃあおとりはここで待っててくれ」


俺は元素回収状態になるまでおとりに入り口付近で待っててもらうことにした。

ここのステージはここの廊下の突き当りにある塩素系洗剤を手に入れて、それに酸性洗剤を混ぜれば塩素ガスが発生。

それを水素で冷却して回収。このまま無事にここのステージを出ればおとりと二人でこの世界から脱出できる。

もう少しだ。俺は気を引き締め掃除用具入れのところまでつくと洗剤を手に取った。


「少し危険だがこれをおとりの近くまで持って行って、そこで元素を発生させてすぐ回収するしかないな」


その時だった。廊下中におとりの悲鳴が響いた。

一体何故悲鳴が……!?

もしかして人喰いバクテリア!?

俺は急いでおとりのもとへ駆けつけようとする。


「待ちなさいっ! それ以上行ったら危険よ」


今まで聞いたこともないような声で水素が叫ぶ。


「なんなんだよ! 一体! おとりに何かあったんだ! すぐに戻らないと」


「そのまま戻ったらあなたも死ぬわよ。彼女の回りから発生しているのは毒ガスだわ……おそらく有機リン系の」


「そ、そんな馬鹿な……」


「悲観してる暇なんてないわよ。すぐにでも水を撒いて辺りを無毒化しないと」


俺は水素のいわれるがままクロクラを使って大量の水を撒いた。


「結構な量ね……早く解毒してあげないと手遅れになるわ」


俺は焦りながらも水を巻き続ける。辺り一面は水が滴るくらいに溢れ、そこら一体に水たまりが出来ていた。

ようやくおとりの姿が確認できたがぐったりと倒れていて微動だにしない。


「おとりーーっ!!」


俺はすぐさま駆け寄り抱き上げたが反応は全くない。


「プラリドキシムヨウ化メチルが解毒剤になるけど……間に合わなかったみたいね」


「さっきまで大丈夫だったのになんで……一体どこから毒ガスなんて出てきたんだよ」


悔しさのあまり床に向かって勢い良く拳を叩きつける。


「なぁ水素……これってもう避けられない運命なのか」


俺は怒りをこらえながら言った。


「あともうちょっとだったじゃねーか。それなのに俺が油断したから……。そもそもさっきはこんなのなかっただろ……」


俺はやけくそになり塩素系洗剤に酸性洗剤を混ぜあわせた。

水素が無言で塩素ガスを冷却してくれる。

俺はおとりの手を取り、元素を回収しこの部屋から立ち去った。



コアの部屋に戻った俺は背負っていたおとりをそっと床に寝かせ、ふらふらとへたり込んでしまう。


「ねぇアンタ……無茶しすぎだよ。有毒ガスがまだ残っていたのに」


水素が気を使って声をかけてくれる。


「おとりが危険なのに呑気に待っていられるかよ! それでもおとりを助けることは出来なかった」


「何あんた。少しは見込みあるのかなって思ったけど、そんな事ないみたいね」


「いちいちうるせーよ! 俺は別にこんな世界に興味があるわけでもないし、あんたらに気に入られようとも思わない」


「別にあたしもアンタに気に入られて欲しいなんて思ってないわよ。ただアンタよくそんな状態でこの子を助けようなんて思ったね」


「目の前に困ってる人がいたら手を差し伸べるなんて普通だろ」


「綺麗事を言えばね。でもアンタを見てると見えたものだけを感じて行動してるようにしか取れないわね」


「それのどこが悪いんだよ」


「悪く無いわよ。ただアンタ、この子を助けたとしてその先どうするの? こんなことで腐ってるようじゃお互い幸せなんて程遠いわ。

あんたに振り回される位ならここで消滅させてしまった方がこの子の為よ」


「ぐっ……」


「そんな気持ちでこの子を救っても感謝されるなんて大間違いよ。自己満足も甚だしいわ」


水素に言われたことが正論だと分かっていた。

でも俺の中で認めることができず、引くことができず、子供の様に言い返していただけだった。

ここまで頑張ってきたのに……おとりを助けようと必死だったのに。

知らずのうちに俺は、自分を変えてくれそうな熱意に期待するばかりで周りのことを全く見ていなかったのかもしれない。

そんな風に思うつもりもなかったのに……共感の粉を失ってしまったおとりの姿を見た俺の精神状態は崩壊してしまっていた。


「やす君……もういいよ」


不意におとりの声が聞こえた。


「おとり……俺は……」


「わたし、やす君が優しいって知ってるから。私の事や周りのこと……みんな考えてくれてるって……知ってるから」


おとりはもう心身ともにぼろぼろだった。それは言葉や行動にあらわれている。

それでも笑顔を作ろうとするおとりを俺は直視出来ずにいた。


「だからね……もういいの。わたし居なくなるつもりだったから。……それでやす君が元の世界に戻ってくれたら」


「……やだよ」


震える声で俺は答えた。


「ここにおとり一人は置いていけない」


俺は共感の粉を取り出しおとりの傍に近寄る。


「だめっ……こないで! そんなことしたら――」


「集めなきゃいけない元素の残り1つ。セレンで造られたこの共感の粉なんだろ。

心配しなくても大丈夫だ。おとりは先に戻っててくれればいい。俺はもう一度やり直すけど30分もかからないから。だから大丈夫だ」


「それがさ……大丈夫じゃないんだよね」


水素が口をはさむ。


「おそらく彼女は気づいているんだろうけど、この世界は彼女の記憶の中身なの。それを元に作られている並行空間」


「記憶の中身だと? 空間? それはいったい……」


「つまりね、彼女がここにいる間はこの空間は成り立ってるけど、元の世界に戻ったら消滅してしまうってわけ。30分なんて到底ムリよ。おそらく5分」


またなのか……俺は何度絶望を感じただろう。

最初のモンスターに殺られた時、アイの失踪、元素の未回収……数多くの記憶が溢れ出てくる。


「だからね、アンタに残された選択肢は自分を犠牲にして彼女を元の世界に戻すか。

それとも彼女の想いを汲み取って一人で元の世界に戻るか。残酷だけどそれしかないの」


俺は何も言えず俯いてしまう。

二人で脱出しようと頑張ってきたのに……。

俺は涙がこぼれそうになったがそんなのおとりには見せられない。

震える肩もおとりに気付かれてはいけない。

感情が絡みあい大声を出して叫びたくなる。

これでもし最後になるとしても俺が自分の選択を変えることは絶対にしちゃいけないんだ。


俺は大きく深呼吸をして


「おとり、決めたよ」


俺はおとりがクロクラを持っている手にさっと共感の粉を近づけセレンを回収させた。


おとりは目を大きくさせ驚いた表情で瞬きを繰り返していた。

表情を隠しながら泣き喚くおとりの声は俺の心の奥にじわじわと溜まっていくようだった。


「俺が出した結論だ。だがおとりをひとりぼっちになんかさせない」


「じゃあ、どうするつもりなの」


今までと違った表情で水素が問いかける。


「5分で集めてみせる」


「……はぁ、アンタのバカ発言には付き合ってらんないわ」


「じゃあやす君がもう一度ここに戻ってくるまでわたしはここにいるっ」


「それはダメだ。おとりはすでに危険なんだ。もしおとりの生命に危機が訪れたら本当に終わりになってしまう」


「そんなこと言われても素直に返事出来ない。誰かを犠牲にしてまで生きたいなんて思わないっ」


「頼む……おとり。わかってくれ」


泣きじゃくるおとりに俺は自分の悲しみと不安を悟られないように必死だった。


「必ず。必ず元の世界に戻っておとりを迎えに行くから」


俺は無理やりおとりの手を取りながらコアへと向かった。

おとりのクロクラはコアに吸収されおとりの身体は粉のように宙に溶けていった。

ここから5分……俺の最後の戦いが始まる。


「ちょっとそこのバカ」


俺がコアにクロクラを入れようとするのを遮るかのようにまた水素が横槍をいれてくる。


「なっなんだよ、時間がないから急がないといけないんだろ」


「やらなくてもわかるよ。5分ですべて集めるのは不可能よ」


「――そんなこと。それでもやれるまでやってやる! おとりのために!!」


「ふふっ、まぁいいわ。あたしとしてもアンタ達が回収されちゃったら困るから。だからアンタにもここを出てもらいたいの」


「出てもらいたいって……じゃあ何か方法が?」


「元素回収以外でもこの空間から弾かれる方法がね」


「それは……」


「……ヒントだけね。ここに来た時言われたはずよ。あなたは招かざる客。あともう一つ言っておくわね。

アンタがこの後に必要な物は真贋の目。物事を表面じゃなく真相を見極めて」


そう言い残して水素は消えてしまった。




         ※※※




「……っん……うーんっ」


わたしが目を覚ました時いつもの病室のベッドで横になっていた。

辺りはいつもと違って綺麗に片付いている。

ベッドの隣でお母さんが俯きながら座っていた。わたしはお母さんって叫びそうになったが咄嗟に言葉を飲み込む。

眠っているお母さんに聞きたいことが1つあったけどそれを口にすることは出来なかった。

それは多分わたしは知らないほうがいいことなのかもしれない。

結局わたしはまたお母さんに迷惑をかけて生きていくことになる。

わたしの治らない病気のせいでこれからも辛い思いをさせてしまう。

そんな表情を全く見せないお母さんだから今まで全然気が付かなかったよ。

お父さんもきっとわたしが居なくなることを望んでる。

一人ぼっちは寂しいよ。ほんとは死んじゃうのが怖いよ。

でもこうして何も出来ないのに迷惑かけて生きてるのがもっと辛かったの。

だからやす君にもきっと……!?

わたしは目を閉じ、もう一度あの世界に行けるように願った。



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