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bio element  作者: 桃月
24/25

24.Truth

『相谷おとり。あなたの元素は現在で3つ消滅しています』


『…………』


『当初の計画通り病気を治すのであればここの脱出することが条件ですが、あと1つ元素を失えばあなたは人体として生存することが困難になります』


『病気はもう治さなくていいです』


『そうですか。ではあと一度失敗したその時は、こちらであなたの生体元素と精神で、また新たな生命体を作らせていただきます』


『……構いません』


『では最後の挑戦を頑張ってください』


そっかぁ……。

わたしまた最初の場所に戻っていたんだ。

やす君が見当たらないって事は、ちゃんと元の世界に戻れたんだね。


良かった。

本当に良かった。

よかったって……喜ばなきゃいけないのに涙が止まらないよ。

短い時間だったけど些細な光景がとても貴重な時間で……その一つ一つを思い出そうとするたびにわたしの心は寂しさで蝕まれていく。

泣きわめいて子供のように素直に想いをぶつけることが出来ればどんなに楽だろう。

そうすればまた一緒な時間を過ごせたかもしれない。でもそれはきっと一瞬の幸せなんだよね。また誰かに迷惑かけちゃうんだよね。

みんなそれぞれの自分の行き方、自分の時間があるから。それを寂しいからって自分の想いだけを押し付けちゃダメだよね。

この世界に来た時は病気を治せるんだったら頑張ろうって思った。

でもわたしの存在は邪魔者でしかなかったんだよね……。

この世界に来て一回目に失敗した時の事をわたしは思い出していた。




――わたしは塩素を回収する為に見慣れた廊下を歩いている。


真っ直ぐ進んだ左側のドアに入り、中の光景を目の当たりにしたわたしは胸が痛くなった。

古ぼけた小さな病室。その部屋にはベッドが1つあり、その横で椅子に腰掛けているお母さんがいた。

お母さんは咄嗟に立ち上がり


「おとり? おとりなの??」


そういってわたしの方によろめきながら歩いてきてくれる。

わたしは涙を浮かべながら


「お母さん!!」


と叫び、抱きつこうとした。

だけどわたしの声が虚しく響き、わたしの身体はお母さんをすり抜けてしまった。


「えっ!?」


何が起きたのか分からなくなり、またお母さんと叫んだ。

しかしお母さんは開いたドアの付近に誰もいない事を確認するとがっかりしたように椅子へと戻っていった。


「なんで見えないの!? お母さん! わたしだよっ!!」


叫んでも聞こえず、触れることも出来ないお母さんの前でヘタヘタと座り込んでしまう。


「そっか――ここの世界はわたしの印象に強く残ってる空間が出現するだけで、そこにいる人に触れたりは出来ないのね」


待ってて、お母さん。

ここを出ることが出来ればわたしの病気が治るって言ってくれてたから。

そしたらもうお母さんに迷惑かけなくて済むんだよ。そして今度はわたしがお母さんの為に……楽に出来るよう頑張るからね。


「バタンッ」


急にドアの開く音が聞こえた。


「……お、お父さん」


父はこちらに近づき、わたしの寝ていたベッドに目線を一瞬だけ向けたと思いきやお母さんに向かって話し始める。


「っったく、病人のくせにいったいどこをほっつき歩いてやがるんだか」


母はすぐさま立ち上がり、父を部屋の隅へと連れて行く。


「あなた……もうここには来ないでって言ったのに。……出て行ってください」


「娘の見舞いに来たってのにひでぇ対応だな。まぁ心配しなくても長居するつもりもねーから」


「…………」


「だから早く出せよ。わざわざ来てやったのに手ぶらで帰るわけにもいかねぇよなぁ」


「……もう、あなたに渡せる余裕は……ありません」


「俺だってなぁ……助かる望みがあるなら賭ける価値は有ると思うさ。だがこんな病院じゃ絶望的だろう。だから諦めろとまではいわねぇ。

こいつを助けたいなら大金を用意し、ちゃんとした病院で診てもらうしかねぇんだ。このままほっとけば確実に金が底をつき指をくわえて死を待つしかなくなる。

そうなった時にコイツが助かる可能性は0%だ。だが俺がその金を元にギャンブル投資をすれば大金が手に入る可能性は50%。例えるならコイツの病気が一発で治る薬がある。

だがその成功率は50%だ。それを飲ませてやるのか、やらないのか。そう考えると合理的だろう?」


「……もうあなたの言葉は信じられないし、そんな考え聞きたくもありません。これからの治療費もわたしが何とかします」


「くくっ、お前の金の出どころ知ったらコイツはどんな気分だろうなぁ」


「うっ……、ううっ……。本当なんですっ。今はもうあなたの借金の返済とこの子の治療費しか残ってないんです。ですから……お願いしますっ。お引き取りください……」


「はぁぁ!? そんな戯言いいから早くしろ! 何回も同じ事いわせるんじゃねーよ!!」


泣き叫びながら必死にしがみつく母親を振り払い、男は鞄を奪い立ち去っていった。

病室は言い表せないほどの悲しみに埋もれ、お母さんのすすり泣く声がしっとりと響きわたっていた。

ただ呆然と立ち尽くしていたわたしの視界はいつしか意識とともに遠ざかり、気付いた時にはまた最初のステージに戻っていた。

それがわたしの一度目の失敗……。


その出来事をみてしまったわたしは現実の世界に戻る事は出来なくなった。

お父さんにも嫌われ、お母さんには想像できないほどの迷惑をわたしはかけていたんだ。

わたしがこんな身体じゃなかったら、わたしが生まれていなければ、お父さんとお母さんはもっと幸せに暮らせていたのかな……。

少なくともわたしはもうあの病室に戻ってはいけない。ここで居なくなったほうがみんなに迷惑かけなくてすむんだ。

だからわたしはここで自分自身が消滅することを受け入れようとした。


でも……


でも……あなたと過ごした時間が楽しくて、嬉しくて……幸せすぎて。

その気持ちを正直に受け入れようとすればするほど涙が止まらなくなるの。

どうしてなのかな……わたし……。


「アイッ!!」


「やっ、やす君!? なんでまたここに! もしかして出られなかったの!?」


「アイのお陰で現実世界に戻ることが出来たよ。でももう一度異世界に戻ってきたんだ」


「ばかっ!! ばかばかばかばかばかーーーーっっ!! なんでっ、なんでまた戻ってきたのよっ」


「だって一緒にここから出るって約束したじゃん。それにサラダバイキングも一緒に食べるって約束したし」


「そんな事……、失敗してここからもう出られなくなっちゃうかもしれないんだよ」


「その時はずっと一緒にいてやるよ。おとりと二人でここに」


「ばかぁぁぁぁぁーーーーー」


「それと……同級生を置いていくわけにはいかないからな」


泣きわめくおとりをそっと抱きしめ温かい時間が流れた。


――アイ、相谷おとり。

あれはたしか小学の時だった。


「俺さぁ昨日すげーモンスターゲットしたんだぜ。学校終わったら萩野にも見せてやるよ」


「まじかー! じゃあ学校終わったらお前のうち遊びに行くわー」


クラスの女子がヒソヒソと話しているのが聞こえる。


「ねぇねぇ、まだ相谷ちゃん給食食べてるよー」


「もうお昼休みなのにね。あの子嫌いなもの多すぎなんだよ」


クラスの女子がヒソヒソと話しているのが聞こえる。

小学校の教室で給食の時間はとっくに終わりお昼休みになっていた。

相谷おとりは給食で出された魚を食べれず残しているようだ。


「おーい、萩野~。ドッジボールやりに行こーぜ」


「おー。わかった。ちょっと先に行っててー」


俺はそう言っておとりの席に近づいた。


「魚嫌いなのか?」


「嫌いっていうか……あの……生き物を食べるっていうのが出来なくて……」


「なんだそれ。じゃあ俺食べてやろーか? 給食足りなくてまだ腹減ってるんだー」


「えっ!? あっ……でも……」


おとりは困ったような顔をしていたが俺は遠慮なく残り物を頂いてしまった。


「ごちそーさん。また残す時あったらくれよな」


「……うん」


そういっておとりは赤面し下を向いてしまった。


あの頃の記憶を思い返すと幼いころの面影がある。

あまりにも小さいころだから断片的にしか覚えていないが俺はおとりと同じ小学校だった。

もう10年以上も前の話になるわけだし、それ以降に会うことなんてなかったから気付けなかったのか。

まさか久しぶりの再開がこんな形になるなんて。

だが俺は必ずおとりを連れてここから出てやる。そして現実世界に戻っておとりとふたりで暮らしたい。

この異世界に来て俺自信が本当に気付けた事。それが俺の本気になれる唯一の事なのかもしれない。


だからこんな所に長くいるわけにはいかないんだ。

しかしおとりはかなりの元素を奪われているようで、もう歩くことすらままならない。

おそらくおとりはこれ以上元素を失うことは許されないのだろう。つまりノーミスで乗り越えないと。


「おとり……立てるか?」


よろめくおとりをささえながら俺とおとりはコアの中からクロクラと共感の粉を取り出す。


「お願い……もうわたしに構わないで、これ以上迷惑かけられない。それにわたしはもう……」


「そんなこと気にすんな。もう攻略のやり方はしってるんだから簡単なものだよ」


俺はそう言っておとりを無理やり背負い、再び元素回収の扉へと向かうことになる。

多少警戒はしたものの、元素回収の流れは前回と全く同じだった。

おとりの状態は変わらないが俺が元素を回収できる状態まで進めておとりと一緒に回収する。

何の問題もなく進めるはずだった。

しかし終盤である塩素のステージでその悲劇は起こった。


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