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bio element  作者: 桃月
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23.Escape

俺が意識を取り戻した時、目の前にいたのは呼び込みの女の子だった。

どうやら俺はカーテンをくぐった先の通路で倒れていたらしい。

入場してから30分経過後に巡回するのが規定らしくその時に発見されたそうだ。

そして俺は意識を取り戻してからおかしなことを口走っていたらしい。

ここの廊下は長く窓が左右についていたとか、この廊下の先に白い部屋があったとか。誰かを助けなきゃいけないとか……。

確かに俺の言っていることはおかしいことばかりだ。なぜならカーテンをくぐった先の廊下に窓は1つもなく、薄暗くはなっているが5メートルほど先に扉がみえている。

つまり俺が最初に通った廊下とは全然違うのだ。それに扉の先は白い部屋でもましてやコアの存在もなく、いかにも脱出ゲームという凝った作りになっていた。

そして一番不可解なのは時間だ。俺が入場してから30分というが決してそんな短い時間ではなかったはずだ。俺が異世界で過ごした時間は。

だが女の子の腕時計を見せられ、時刻は18時過ぎになっている。

俺がここの店に立ち寄る前に確認した時刻は17時くらいだった。そうなるとこの女の子の言っていることに間違いはなかった。

俺は訳がわからないまま店から出ることになる。

自分の記憶がおかしいのか……。

本当に異世界に行っていたのか?

それにアイの存在は一体……。

店の外はいつも通りの人混みで、ちょうど夕日が沈みそうになっていた。

俺があの異世界に向かう途中の窓から見えた夕日の様に。


それから俺は街をぶらついた。

とても家に帰る気分にはなれず目的もないままただ呆然と歩いていた。


携帯で話しながら歩いている人。3人でワイワイ騒ぎながら歩いている女子高生。スーツケースを持って時間を気にしているサラリーマン。

すれ違う人を横目に、俺は財布から小銭を取り出し自動販売機でコーヒーを買った。

ありふれた日常の光景を目の当たりにするとさっきまでの出来事が嘘のようにも思えてくる。


「本当に俺は夢でも見ていたのかも知れないな……」


飲み込んだコーヒーが空腹に染み渡る。

鞄から煙草を取り出し一服すると立ちくらみがして、俺は自動販売機の横にしゃがみ込む。

俺は遠くを眺めるように人の流れを呆然とながめていた。


「亜衣~今日のテスト難しくなかったぁ? あたし全然分かんなかったから寝ちゃってたんだけど~」


通り過ぎる高校生の何気ない会話だったが、名前に反応してしまう俺がいた。


「あいってなんだよ。紛らわしい名前呼ぶんじゃねーよ」


俺は卑屈になり心の中でそう呟いた。

だがその時、頬を強く叩かれたような感覚に陥る。

この世界……何かがおかしい。

いや……違う。おかしいのは俺の方だ。信じてしまっている俺の方が……。

俺はポケットから携帯を取り出そうとすると何かが落ちていった。




「てんちょ~、わたしもう呼び込み疲れちゃいましたぁ」


「ぬぁにを言うかっ! バイトの分際でっ! 開店早々こんな客数じゃ給料も出せんぞ」


「ええっ!? そんなの困りますぅ。きっとここの場所が悪いんですよ~。一人でお留守番してるとたまに変な声聞こえてきますし~」


「ぐぬぬ……。ま、まぁ破格の家賃で借りた場所だからな」


「きっと何か取り憑いているんですよぉ。だからさっきの人も……」


「さっきの客は関係ない! 奴はただこの超難解脱出ゲームに迷い込んでしまっただけだ」


「迷ったんじゃないと思いますぅ、わたしが確認の巡回に行った時には居なかったのですから……」


「うるさーい!! お前はそんなことよりも早く客を呼び込んでこんかっ! 

もっとこうセクシーな路線で客を掴むんだ! 衣装もこっちの過激なやつに変更してだな……」


「きゃっ! やだっ! 猫耳付いてるじゃじゃないですかぁ。こんな格好恥ずかしいです。……やっ、触らないでくださいっ」


バタン!!!


「この嘘つきどもがぁぁぁ」


俺は先程の脱出ゲームの店に戻り、勢い良くドアを開けた。


「あ、あんたはさっきの……」


「答えろっ! 何故俺を騙す必要があった? お前たちの目的は一体何なんだ」


「目的って言われましても……その……」


「早く言え! 時間がないんだ! 俺がここに居たのは30分なんかじゃない。丸一日だ。なぜあの時にそれを教えなかった!」


「ひぃぃぃぃっ。お客さん暴力は駄目ですよ。わ、わしは開店早々変な噂を流してほしくなかっただけで――。だからおねげぇします。この事はどうかご内密に……」


「何なんだその自己中心的な考えはっ! お前のせいでアイは……」


俺は胸ぐらを掴んでいた店主を振り払いカーテンの先にある廊下に向かおうとした。


「お、お客さん! 入場される場合はお代金を……」


俺は紙幣をテーブルに叩きつけ


「いいか。今からここは俺の貸し切りだ。誰も中に入れるんじゃないぞ」


そう言って俺は廊下へと向かう。

しかし廊下は先ほどと同じでとても異世界に繋がるような雰囲気ではない。

左右に窓はなく、突き当りの扉も充分に目視出来ていた。

俺はさっき携帯を取り出した時に落ちたリボン、つまり異世界から持ち帰ったアイのリボンを握りしめ強く願った。もう一度、もう一度異世界に行けるようにと。

ゆっくりと目を開けたが回りの状況は何も変わっていなかった。

ただ刻々と時が過ぎていくだけ……。

こうしてる間にもアイの生体元素が……。

考えろっ! 何かが駄目なんだ! 異世界に行くには何かがっ……。

俺は必死に思考を巡らせた。

さっきと違うことといえば……時間?

もしくは一日に一回とか?

かといって明日まで待つ余裕もない。そういえば俺が異世界に行くために書いた紙は……

ポケットの中に入っていた紙を取り出すとその紙は丁度半分に切られていた。



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