20.Ca
コアの場所に来てもアイの姿は見当たらない。
「もしかするとさっきのステージで……いやそんな縁起でもないこと……それに失敗しているのなら出口が出ているはずがないじゃないか。
アイはきっと何かの事情で先を急がなきゃいけなかったんだ」
今の俺はそう思うことで自分を落ち着かせるしかなかった。
「アイはきっとどちらかの扉に入ったはずだ」
そこには「17」と「20」の扉があった。だがアイがどちらを選んだのか俺には分からない。
しかし「20」の扉のノブに何か付いているのが見えた。近づいてみるとそれはアイの付けていたリボンだ。
俺はこれがアイからのサインだと知り一気に気持ちが軽くなる。
「アイは無事なんだ! ああっ……ほんとうに良かった。きっとこの部屋に入ったという目印に違いない」
俺はリボンを外してポケットにしまい「20」の部屋に入った。
暗闇を抜けるとそこはどこか建物の屋上だった。
霧雨が降っていて薄暗い雲から淡いオレンジのなめらかなグラデーションがどことなく追憶的な雰囲気にさせる。
遠く離れたフェンスに人影が見えた。
俺はアイの名を叫びながら走って行ったが近づくにつれ別人であることに気付く。
息を切らしながら俺はその子に問いかけた。
「はぁっ……、はぁっ、あ……あのさ、ここに女の子来なかったか? ……君よりちょっと背の高い黒髪の」
「いいえ。誰も来てないわ」
「……そ、そうか」
アイが付けた目印はここに来いっていう目印じゃなかったのか……。
それともこの子が嘘をついているとでも……、いや――ここに入るまでにそんなに時間は経っていないはずだ。
その短時間で元素を回収してここから出るっていうのも無理な話。
「あなた……あの子を探してるんでしょ?」
「アイの事知ってるのか!?」
「もちろん。ところで、あの子を探してどうするつもりなの?」
「そんなの決まってるじゃないか! この世界から二人で脱出するためだ」
「あなたは何に責任を感じているのか分からないけど、あの子の口からそうしたいって言ったの?」
「そんなの聞かなくても普通そうだろ! だれがこんなところで苦しい思いをしたいっていうんだ!」
「別にあなたの主観は聞いてないわ。本当にあの子がそれを望んでいるのかが知りたいだけなの」
「あんた、アイのこと知ったように話すじゃねーか。一体何を聞いたんだよ」
「ふふっ、そうね。少なくともあなたよりはあの子の状況を知っているのかもね。あたしが知る限りあの子はもう現実世界に戻りたいなんて思ってないわよ」
「そんな馬鹿な……とにかく俺はアイに会って確かめる。その為にも早く追わないといけないんだ」
「吹いたら消えてしまうようなその情熱……どんな終わり方になるか楽しみね」
「だったらさっさと回収させてくれ。あんた元素なんだろ」
「そうよ。わたしは元素第4周期2族20、カルシウム。手伝って上げるのは構わないけど、わたしからプレゼントがあるの」
そう言って渡された物は元気のない植物のプランターだった。
「それをあなたの力で元気にしてあげて」
元気にって……雨で水分はあるだろうし日光もあたっているはず。じゃああとは肥料か……。
俺は窒素、リン酸、カリを与えてみた。するとみるみるうちに植物は成長し葉は青々と、そして鮮やかな花が咲いた。
その花はトランペットのような形をしていて垂れ下がっていた。とても豪華にみえるがこれを俺にどうしろと言うのだろう。
「うふふっ、この花の種子をあなたにあげるわ。使い方次第で薬にも毒にもなるから」
カルシウムは不敵な笑みを浮かべていた。
「次の元素は塩素でしょ。ふふっ、早くわたしを連れてって」
アイの事が気がかりで仕方ない俺はすぐさまカルシウムを回収し出口へと向かった。




