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bio element  作者: 桃月
18/25

18.Mn

「良かった……まだ残ってる」


アイが小声で何か呟いていた。


「どうかしたのか?」


「ううん! 何でもないのっ! さっ、次行きましょ」


次の部屋は「25」と書かれた部屋だった。


それはまるでアパートの中にでも入ったような感じだった。

入ってすぐの小さいスペースにキッチンがあり、その奥にも部屋があるようだ。


「なかなか斬新な作りのアパートだな」


「うん。でもお客さん来たらお料理しててもすぐ対応できるね。火事の心配もなさそうだし」


「お客さんのうろたえる姿が目に浮かぶのだが……」


お世辞にも綺麗とは言えないが物が全くない分すっきりはしている。

キッチンと言ってもコンロや給湯器などはなく、ただ流し台があるだけだ。

その他には目につくものがなかったので俺達はさらに奥の部屋に向かう。

窓から差し込む光はぼやっとしていて曇りガラスの様に全く外の景色が伺えない。そして相変わらず何もない部屋でガランとしている。

窓を開けてみようとしたが鍵などはなく固定されたように動かない。ガラスは炎天下にさらされているかのように熱を持っていた。

天井からぶら下がっている古ぼけた照明も全く反応なしだ。何をしてい良いのか分からず辺りを見回していた。

その時俺の目から涙がこぼれ落ちる。

それは感情ではなく痛みからくるものだった。この部屋に入った時からうすうす感じていたが目の痛みが酷く開けることさえも困難になりそうだ。

アイのことが気になり声を掛けようとしたが、俺の腕をグイッと引っ張り隣の部屋に連れて行かれた。

部屋にはいるとアイはすぐドアを閉め


「勝手にごめんね。あの場所にいたらすごく気分が悪くなっちゃって」


「いや……俺もなんだ。途中から目が痛くて開けられないくたいだったから」


「キッチンからガスが漏れてたのかしら? でもそんな臭いしなかったし、目が痛くなるなんてあまり聞いたことないわね」


「それにこの部屋に入ってからはそんなに痛みを感じない……」


俺はふと聞き慣れた音を耳にする。辺りを見るとこの部屋は今までと少し違った。まだ生活感がある感じだ。

といってもあまりにもシンプルすぎる女の子の部屋。

木製のシングルベットにクマのヌイグルミとクッションが置いてあり、小さい小窓にレースのカーテンがついている。

あとは壁掛けの時計。聞き慣れた音の正体はこの時計の刻む秒針だった。

なぜかアイはモジモジしていたが……よく考えると誰かが住んでいるかも知れない部屋に入り、

勝手に女の子の部屋にまで入ったとなると申し訳無さそうにするのも分かる気がする。でもまぁ人は住んで居ないだろう。

そもそもここは普通の世界ではないはずだ。それよりも本題としてどこでマンガンを手に入れるかだが……。

俺は一通り部屋を調べてみた。だが怪しいところは一切見当たらなかった。

するとさっきの部屋で何か見落としが?

いや、本当に見落とすところもないくらい何もなかったはずだ。ただあるのは不快感だけ……。


「やす君、なんだかお腹すいちゃったね」


何を急に言い出すんだと思ったが確かに俺も腹は減っている。

だがそれを口にしてもどうすることも出来ないから考えないようにしてたのに。

正午に軽く食べてそのままだから、あの時計の時刻があっているのなら丁度12時間くらいは何も口にしてない。

しかし俺よりも長くいるであろうアイは俺よりももっと辛いはず。

その時俺ははっと気付き時計に近寄った。


「もしかするとこれで元素を回収できるかも……期待値は低いが試してみるか」


俺は壁掛けの時計を外し裏面から電池を取り出した。そしてまがねにニッパーの様なものを作ってもらう。

電池の外装の鉄をニッパーで破り、中の黒粉を取り出す。

この黒粉はほぼ二酸化マンガン。これに亜硫酸ナトリウムでマンガンの単体が出来ると思うんだが。

ナトリウム、水素、硫黄、酸素で亜硫酸水素ナトリウムを作り二酸化マンガンの還元を試みた。

俺とアイのクロクラは反応しマンガンを回収することに成功する。


「やったぁ~! さすがやす君。今回も元素ゲットできたね」


「ああ。アイが変なこと言ってくれたお陰で気付く事ができたよ」


「変なこと? 何か食べたいって? だってほんとにお腹空いてたんだもん」


「まぁ確かにそうなんだけど。じゃあここ出たらお祝いに焼き肉でも食べに行くか」


「もぉ……わたし野菜しか食べないっていったのにぃ。いじわる」


「あれほんとの事だったんだ!? てっきり冗談かと」


「冗談じゃないの。昔からそーなの」


「そっか。じゃあサラダバイキングを腹いっぱい食おう」


「ふふっ、無理してわたしに合わせなくてもいいのに」


アイは申し訳無さそうに言った。


「でもまずはここを出ましょ。さっきのあの部屋も気をつけないといけないし」


そして俺とアイは出口に向かう。目の痛みを感じた部屋を通るのは気分が進まないがそこしか行く道がない。

だが扉を開けた瞬間先程と比べ物にならないくらい刺激臭と熱気がこもっていた。

痛みで視界は塞がれ呼吸すらままならない状況で強引に突破することは不可能に近い。

扉を開けただけでそんな状態になった俺は反射的に扉を閉め後ずさった。


「ゴホッ、――ゴホッ。なっ、何なんだあの部屋。さっきよりも酷くなってやがる」


アイも吸い込んだみたいで酷く咳き込んでいた。


「ホルムアルデヒド」


どこからか声が聴こえる。辺りを見回すと女の子がいた。


「あ、あんたは……?」


「さっき君達が回収したんじゃない。元素第4周期7族25、マンガンだよ」


「別に呼び出した記憶はないんだが……。それよりホルムアルデヒドって……」


「シックハウス症候群とか聞いたことあるよね? 隣の部屋でそれが発生してるんだよ。室温の上昇で軽く50ppmは超えてるんじゃないのかな」


「よく分からないが……入ったらヤバイって事か。じゃあ一体どうすれば……」


「そんな時はマンガンにお任せ! この二酸化マンガンでパパっと除去できるよん」


「ほ、本当か!? じゃあ早速それを……」


俺は二酸化マンガンを隣の部屋に投げ込みすぐ扉を閉めた。


「1分もあればほとんど除去出来るから待っててね」


マンガンは嬉しそうに言った。今の状況だとマンガンが天使の様に見える。

これでここから出れると思い指定の時間が超えた辺りで俺はそっと扉を開ける。


「ぐをぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!! 目っ、目がぁぁぁーーーっ」


全く変化していなかったホルムアルデヒドをモロに喰らった俺は痛みのあまり転がりだした。


「やだっ、やす君大丈夫!?」


心配そうにしているアイの声が聞こえる。

それと同時にマンガンの笑い声も聞こえてきた。


「ちょっとマンガンさん! ひどいでしょう! 人が辛そうにしてるのに笑うなんて!!」


アイの怒った声を初めて聞いた。


「あはっ、……あははっはっ。ごめんごめん。つい面白くって。どうやら使用量が足りなかったんだねぇ。

楽しませてもらったお返しに今度はちゃんと除去してあげるよ」


そう言ってマンガンは隣の部屋に入っていく。

アイは本当に俺を心配してくれたようだ。幸いにも俺の視界は徐々に回復し痛みも少しずつひいていた。


「……ありがとう。だいぶ楽になってきたよ」


「本当!? 良かったぁ! じゃあ今度はわたしが確認してくるから、やす君はここで休んでてね」


止める間もなくアイはすぐ扉に向かい隣の部屋を確認する。

俺は目を覆いそうになったがアイの様子からいくと本当に除去出来ているようだ。

ゆっくりと立ち上がり隣の部屋に行くと大量の黒粉が山を作っていた。熱気は相変わらずだったが刺激臭などは無くなっている。

結局マンガンの企みが分からないまま俺達は出口に向かうことになった。


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