16.I
「アイ……俺ってそんなに禿げてるかな……」
「そ、そんな事ないと思うよ。それにホラ、最近てふりかけみたいなの使えば分かりにくくなるってテレビで言ってたし」
「ふりかけて……俺そんなにやばいのか……」
「そういえば良い事じゃないんだけど、わたしここに来て失敗して元素失った時から身体に変化があったような気がするの……。
だからやす君の気にしてるのもそれが原因かもしれないね」
「そうなのか……。まぁあまり気にしないようにするよ。てかアイ、身体大丈夫なのか?」
「うん。全然平気だよっ。いつもいつも心配してくれてありがと」
「無理するなよ。俺じゃ頼りになんないかもしれないけど」
「そんなことないよ……」
彼女は照れくさそうに言った。
出会った時から可愛いと思っていたが、時間が経つにつれその感情は恋愛へと変化していきそうだった。
こういう状況だからこそより一層思いが強くなる気がする。
俺はしばらくアイを見つめていた。
アイは目が合うと下を向き、頬を赤らめているようだった。
「や、やす君! 次行きましょ」
「あ……うん。そうだな」
あまりの沈黙に耐えかねたのかアイが次の扉へと向かっていった。
この扉を開け、暗闇に飲み込まれる体験をするのは何度目だろう……。
最初の頃は気に留めなかったが暗闇の中にいると体内に何かが侵入してきそうな感じがする。
暗闇の先はまたもや室内ではなく屋外だった。
どこかの路地裏だろうか。人影はなく目の前にあるのは木造の2階建てアパート。外観からすると相当な築年数だろう。
そして豪雨ともよべるような雨が降っていた。その環境は全体像がはっきりしないまでも現実の世界にいるかの様にも思えてくる。
俺達は豪雨から避難するためアパートの屋根の下に入り込んだ。
「雨……すごいね」
アイがポツリと呟く。
「ああ。最近流行りの異常気象かな。ゲリラ豪雨ってやつ」
お互いの会話も聞き取りにくいほど一定の量で降り続いている。
「ここのどこで元素を回収するんだ? アパートの部屋の中とか?」
取り敢えず一階の部屋を確認することにしたが扉にはすべて鍵がかかっていた。
インターホンなどはついてないので一応ノックすればいいのだろうか。
「あっ、やす君あそこ……」
アイが怯えたように俺の袖を掴む。アイの目線の先には傘を持った女の子がしゃがんでいた。
アパートの横に見える空き地のようなところだ。
「……うん。きっとアレだ。声掛けたら『わたし綺麗?』って聞かれてぱふぁってなるやつ」
「やす君……なんかそれイロイロ混じってるよ」
「とにかく危険なものは置いといてまず二階を調べねば……」
「でもほっとけないよ。辛いのかもしれないし。それじゃあわたしが声かけてみる」
「わかったよ。俺が行くから。アイはここで待ってて」
俺はアパートの壁に立てかけてあった傘を拝借し降りしきる雨の中、女の子の元へと警戒しながら近づいた。
「もしもーし。どうかされましたか~」
「…………」
へんじがない、でも屍ではないのは確か。
女の子に隠れていて分からなかったがどうやら足元に子猫がいるようだ。
子猫は動かない親猫の元で弱々しく鳴いていた。その猫達を豪雨から守るように傘をさしている。
「猫好きなんだね。君がお世話してたの?」
「……僕が殺しちゃったんだ」
その言葉の意味は残酷そのものだったが、女の子の感情は真逆に感じた。
「ははっ……まさか。君がそんな事するような感じには見えないけど」
「本当だよ。この子が死んだのはきっと雨のせい。そしてこの雨は僕のせいなんだ……」
言ってることが理解できなかったが、この子がもし回収元素のヨウ素だったとしたら……。
ヨウ化銀で人工雨を降らせることができたはず。その濃度が高ければ生物にとって有害。
だから自分のせいだと思っているのか? その報いのためにここでずっと傘を……。
「君は……元素だよね?」
「……うん。元素第5周期17族53、ヨウ素。僕が外に出るといつも雨になるんだ。
この子たちはいつも外で元気に遊んでいたのに雨に濡れると元気がなくなちゃうんだ。
それでも気付かずに僕はこの子たちに会いにいっていたから。そしたら親猫が……」
「でもそれだけで自分のせいって決めつけるのは考え過ぎじゃないのかな?
それにほら、猫って濡れるの嫌いっていうじゃん。だから死んじゃうまで雨に濡れるってことは考えにくいと思うんだ」
「うん。わたしもそう思うよ。だってそのお母さんすごく幸せそうな顔してるもの。きっと辛かったとかじゃないと思うの」
いつの間にかアイが俺の隣にいた。
「……もし、もしそうだとしても僕はここから離れたくないんだ。このままこの子達をほっておけない」
俺はクロクラを取り出し亜鉛とまがねにトタン製の猫小屋を依頼した。
「ずっとここでそうしてるわけにはいかないだろ。猫達の前にお前がまいっちまうぞ」
そういって俺は雨風を凌げる小屋を設置した。
「わぁ~。いいお家出来たねっ。ささっ、ネコちゃんたちお入りなさい」
アイがあやすように子猫たちを誘導する。
「フギャーーーッ」
その瞬間俺達は一斉に声をあげた。
死んだと思っていた親猫がブルブルと身体を震わせおもいっきり背伸びをしている。
「……寝てたの?」
俺はあっけにとられてそう呟いた。
「えっ!? そうなの!? もぉっ!! ほんとに、ほんとに死んじゃったのかと思ってたんだからぁぁ」
ヨウ素は泣きながら子猫たちに擦り寄っていた。
「うふふっ。良かったね、ヨウ素ちゃん」
アイが嬉しそうに声をかけた。
「うん。お兄ちゃん達、本当にありがとう。これでもう僕は思い残すことはなくなったよ」
「いやちょっと待てーや。お兄さん達元素を回収しなきゃいけないから、どうしても君の力が必要なのだよ」
「そーだったんだね。僕で良ければ協力するよ。これからよろしくね」
こうして俺達は14種目の元素を無事回収した。




