15.Zn
これで現状の回収してきた元素は14個。うちヘリウムとアルミニウムはいなくなってしまったので、このクロクラの中に入っているのは12個というわけか。
目標の20個までにはまだまだだな。それに……アイと初めて会った時から気になっていたことがある。
それはアイが大切そうに抱えている本のことだ。
一体何の本なのか。そんなもの持ちながら行動するなんて邪魔じゃないのか。もしかするとここの攻略のヒントなどが書かれているとか。
などと考え、アイに問いかけようとしたが丁度同じタイミングでアイの方も話しかけてきた。
「ねぇやす君、なんかいつもと違う感じしない?」
「えっ? あっ、うん……。言われてみるとなんとなく部屋の雰囲気が変わったような……」
注意して見ないと気付かないが、今まで部屋全体が真っ白だったのに対しわずかだが赤みを帯びた様に見える。
そして足元の感触もいつもはアスファルトの様に固かったが、今はまるで砂浜の上を歩いている感じだ。
この僅かな変化は何かを意味しているものなのだろうか……。
俺とアイは不思議に感じながらも次の扉に向かう。
「こ……ここは……」
暗闇を抜け明るみに出た俺は自分の目を疑った。
次の元素回収ステージは俺の小学校の教室の中とそっくりだった。
「……どうかしたの?」
「ああ……、ごめん。なんかこの教室、俺が小学の時通ってたのとそっくりなんだ」
「そうなんだ……。わたしのもこんな感じだった。ふふっ、懐かしいね」
アイは軽く微笑みながら言った。
まぁ確かに教室なんて何処も似たようなものかもしれない。正面に大きな黒板があり、その左右にはお知らせや時間割り表などが貼ってある。
教壇の上に教卓があり、きれいな間隔で整列している子供机。一番後ろには体操服を入れるロッカーや掃除用具入れなど。
俺は自分の置かれている現状を忘れ、懐かしさのあまり後ろの席に座ってみた。
今となっては身体が大きすぎて窮屈に感じるこの机も当時なら大きく感じていたのだろう。
誰しも子供の頃の時期を良く思うのかもしれないが俺もその一人だった。あの頃に戻れたら……。
その時の俺には気付くはずもないが子供の時からもっと努力をしていればこんな将来になっていなかったはず。
そこに気付けば未来を変えることも。
変えなきゃいけないのは変えることの出来ない過去じゃなく現在なのに。
分かっていてもその問題と本当に向きあおうとしなかった自分。
根底では昔から何一つ変わっていないのかも……。
「……やす君」
俺はアイの声で我に返った。いつの間にかアイは隣の席に座っている。
「ごめんごめん。つい懐かしくて椅子に座ったら昔のこといろいろ思い出しちゃって」
俺は今の情けない自分を悟られない様に明るく返した。
「ふ~ん、そうだったんだ。ごめんね。せっかく思い出に浸ってたとこ邪魔しちゃって」
「ははっ。大丈夫だよ。ところでアイは小学校の思い出どんなのが印象的だった?」
気軽に聞いた俺の予想と全く正反対の言葉が返ってきた。
「……わたしね、みんなと合わせる事が出来なくて一人でいることが多かったの。でもね、そんなわたしをずっと気にかけてくれた人がいたんだよ。
……すごく嬉しかった。ただ……わたしを庇うことでその人までイジメられちゃうんじゃないかって。
他人に迷惑かけちゃいけないってずっと言われてたから……だからもういいよって言ったの。
それでもね……その人最後までわたしの傍にいてくれて……」
アイは少し涙を浮かべているようだった。でもその横顔はすごく幸せそうだ。
「それでね……その人は転校して県外に行っちゃったの。元々持病で休みがちだったわたしはそれからはほとんど病院にお世話になって」
「そうだったんだ……。無神経な質問しちゃってごめん」
「いいの。気にしないで。……やす君知らなかったんだから。わたし生きててもみんなに迷惑かけてばかりで……だから……」
「おやおや、女の子を泣かせちゃダメだよー」
突然の声に俺は変な声が漏れそうになった。いつの間にか教壇の上に女の子が立っている。
いかにも先生といった格好で指差し棒をペシペシ叩きながらこっちを見ていた。
「あなた、名前は?」
「えっ!? 俺? 泰千代だけど」
「泰千代君ね。よろしく。私は元素第4周期12族30の亜鉛よ。私の事は先生と呼んでね」
先生はにこやかな表情をしながら教卓に手をついた。
「はい、それじゃあ今からあなた達にいくつかの簡単な問題を出します。問題の意味が分からなかったらその都度聞いてくださいね。
その結果あなた達の仲間になるかどうか判断させてもらうわ」
……一体今から何が始まるのか。俺は少し緊張していた。
「第三問。泰千代君の所持している元素の中で一番軽いものは?」
何故に三から……それにあまりの簡単さに拍子抜けしたが、俺はクロクラを取り出し水素を呼び出した。すると先生は不敵な笑みを浮かべ
「はい不正解」
「はっ!? おかしいだろ。水素より軽い元素なんて聞いたことないぞ」
「比重に関してはそうですね。でも先生が聞きたかったのは一番頭が軽い元素。この場合だと炭素ね」
「……頭が軽いなんて聞いてなかったぞ!」
「それはそこを突っ込まない泰千代君のミス。一番軽いと言っただけで勝手に質量と思い込んだのでしょう」
何も言い返せない自分が悔しかった。
「世知辛い世の中だねー。あんまり落ち込むなよー」
水素が気を使って声を掛けてくれる。
「それでは第四問。アイさんの所持している元素の中で電気伝導性や熱伝導性の高いもは?」
「銀かな……あっ、銀は持ってないから銅になるのかな」
「アイさん。すばらしい! 正解です」
アイはホッとした表情を見せた。
「それでは第五問、泰千代君。先生の好きな食べ物当ててみて」
「んなもんしらねーよ! アイと俺の問題格差ありすぎじゃね!?」
「答えないとまた不正解になるわよ。ヒントは先生の特徴をよく考えてみて」
くそっ……亜鉛の好きなモノか……。そういえば亜鉛て体内で不足すると味覚障害を引き起こしやすいと聞いたことがあるな。
つまり味覚がないってことは好きなものも嫌いなものもない。ふふっ……そういうことか。
「先生の好きな食べ物は……ない!!」
「はい不正解。答えは亜鉛が多く含まれる牡蠣でしたー」
「そっちかよ……」
「では次アイさん第六問です。宇宙で一番最初に生まれたと言われ、宇宙で最も多く存在する元素は?」
「水素だと思います」
「アイさんは完璧ね。もういいわ。ただ泰千代君には少しがっかりね……」
「いやいや、アイの方ならともかく俺の問題分かる奴なんて……」
「答えなんてどうでもいいの。ただあなたのハゲが気に入らないのよね」
「問題かんけーねじゃん!! そんなの先に言えよ!」
「だって初対面でいきなりそんな事言うのも傷つくかなと思って」
「回りくどいわ! それにハゲじゃなくて人よりおでこが広いだけだ」
「……しょうがないわね。今回は特別に仲間になってあげるけど、あまりその頭見せないでね」
何なんだコイツは。相変わらず元素にろくな奴がいない……。
亜鉛を呼び出すのも必要最小限にとどめようと心のなかで呟いた。




