13.Na
「アイ、その……体調どうなんだ?」
「うん? 平気だよ! 心配してくれてありがとね」
なぜだかアイを見てると不安になる。
恋愛感情とかやましい気持ちとか、そんなんじゃなくて……か弱い妹のような。
とにかく守ってあげたくなるような存在だった。それはこんな危機的状況で出会ったからなのかも知れない。
さっきの事にしても俺の判断がもう少し早ければアイを苦しめる事もなかったし、もう少し遅かったら二人とも……。
俺は両手で頬を叩き、次の扉「11/1.6」に向かおうとした。
「しばし待たれぃ! おぬしらの身体から負のオーラが駄々漏れしておるぞ」
急に変な声がしたので振り返ってみると羅盤を抱えた女の子がいる。
「わらわは元素第3周期16族16、硫黄である。今のお主らの状態で先に進むことは危険極まりない」
「そう言われても……先に進むしかないんだが。一体どうすれば……」
「案ずるでない。わらわの力を持ってすればそのオーラを払拭することなどたやすいわ」
「なんかやけに凄みがあるな……。じゃあ、よろしくお願いします」
「御意。ではお主はこれを被って行きなされ」
そういって手渡されたものはプラスチック製のヘルメット。
そしてその頭頂部にサングラスを掛けた向日葵の花がついていた……。
「お主の場合、不当たりのオーラが際立っておる。だがしかし! それを被ればたちまち皆の人気者に!
そして僅かな音でもキャッチして向日葵が踊りだすというハイテク使用」
「アイ、行こうか」
そう言って俺はヘルメットを捨てて扉に向かおうとした。
「ちょっと待てや!! 捨てることないやろ!!」
「こんなもの被って人気出るとしたら、相手は子供か冷やかしのヤンキーぐらいじゃねーか」
「お前全然わかってへんやんけ。これめっちゃ流行ってんねんで。この世界ではそれ被ってる奴マジモテモテや」
「……キャラ崩壊してる時点で怪しさしか感じられないんだが」
仕方なく俺はヘルメットを被ってみることにした。
「あははっ……。でもやす君似合ってるよ。見てて面白いっ。あはははっ、やだっ。こっち見ないでっ」
アイがクスクス笑いながらお腹を抱えている。
「ほら見てみぃ。もう彼女のハートを鷲掴みや」
頭の上で向日葵がカシャカシャと音に反応して動いている。俺にとっては笑いものにされてる気がして腑に落ちないが
アイの笑顔を見てると飽きるまで我慢しようかなという思いに変わった。
「彼女はこれ掛けて行き。直感力ガチで上がるよ」
そう言われてアイはいたって普通の黒縁メガネを渡されていた。
「なんかアイの普通でいいな……」
「そ、そうかな? 変じゃないかな? 普段メガネかけないから恥ずかしいよ……」
こうして俺達はナトリウムの部屋に入ったのだが、歓迎してくれたのはクラッカー音じゃなく爆発音だった。
アイは怯えて俺の袖を掴んでいる。何処で爆発が起きたのかは分からないが
部屋全体にボーンと言う音の余韻と向日葵のカサカサ動く音が響いていた。
俺達が立っている床はくるぶしまで水が浸かっていて、何処まであるかわからない天井は暗くて認識できない。
「何だったんだ今のは……。何かが爆発したようだったが」
「上から何か落ちてきたのかしら?」
「かもな。それ以外は何もないし……でも上って言われても暗くて全くわからないんだが」
「さっきの硫黄さんにもらったメガネで見えちゃったりして。……ごめんなさい。そんなことなかったです」
「それただのダテメガネじゃないのか? そもそも直感がどうとか言ってたし……」
「あーっ! きっとそれだわ! 直感で落ちてくるのが分かっちゃったりとか」
「メガネで直感があがるなんてそんな馬鹿な……」
「ねっ! あそこっ! 」
アイは何の変哲もないところを指差した。すると丁度その真上から小さく光るものが見えた。
その物体が水中に落ち、水面からオレンジ色の炎が上がる。その直後爆発が起こり白煙が立ち込めていた。
「マジなのか……。直感が目視出来るなんて化学的にありえない……」
「でも見えちゃうんだもん。それでさっきの落ちてきたのって……」
「そうだな……オレンジの火とあの爆発からいくとここの回収元素のナトリウムって事になるが……でもどうすればいいんだ? 」
「……う~ん。そうよね。これだけ離れていれば大丈夫だけど近くであの爆発は危険だわ」
「そして運良くキャッチ出来たとしても素手じゃ危ないし、それに酸化されても面倒だ」
「やす君! ここからすぐ離れましょ! また落ちてくる気がするの」
俺はアイの言うとおり今いた場所から少し離れて様子を伺った。
するとアイの直感通りさっき俺達がいた場所に先程と同じ現象が起こる。俺は認めたくはなかったがこの短時間で二度も当てられると信用せざるを得ない。
それに最初の時よりも落下の間隔が縮んだ気もする。
「その直感の精度ってどのくらいなんだ?」
「はっきりここっては言えないけどこの周辺てしかわからないの……」
「そうか……じゃあ後は俺がなんとかするから次の落下地点わかったらすぐに教えてくれ」
そう伝えた次の瞬間、アイのすぐ後ろの方でまた光るものが落ちてきた。
俺は咄嗟にアイの腕を掴み、この場を離れようとする。
だがあまりにも近すぎたため水面に触れてしまったナトリウムは爆発を起こし、その爆風により二人とも飛ばされてしまう。
「くっ……アイ……大丈夫か? ――ケガは? 」
俺はすぐさま起き上がり、アイの元に駆け寄る。
「……うん。服濡れちゃったけど身体は平気だよ」
幸いにも水がクッションになりお互い怪我などはなかった。
またもや危険な賭けになるがゆっくり考える時間もなさそうだ。
俺は鬱陶しいヘルメットを外し、その中に炭素と水素で作った石油を入れる。
このボール代わりにした石油入りヘルメットでナトリウムをキャッチ出来れば酸化もせず回収出来るはずだ。
「あっ!! やす君! 私達の今いる場所に落ちてくるわっ」
「アイ! すぐここから離れろ! 」
俺は力強く目を開き、集中して暗闇を凝視する。
一瞬キラっと光ったものが見えた。だが落下速度が予想よりも速い。
くそっ! ここで失敗したら確実に終わりだ。汗ばんだ手の平は動揺を表していた。
ナトリウムが目前に近づいてきた。間に合うかっ……。
俺は石油をこぼさないようにと気を取られすぎてしまった。
不覚にも落下物はヘルメットの縁に当たり水面へと向かう。
頭の中が真っ白になり一瞬で全身から血の気が引くのを感じた。
その刹那、無意識に反応した右足が落下物を捉える。
ボールを蹴ったかのように落下物は飛んでいき、離れた場所で爆発を起こした。
今頃になって激しい動悸が押し寄せてくる。
「やす君! またその場所に落ちてくるよっ!!」
間髪をいれずまた次の落下物が。今度こそしくじる訳にはいかない。
俺は瞬発的に反応できるよう身体を柔軟に待機した。幸いにも落下場所は俺の立ち位置付近。
さっきと違い余裕を持って落下物をヘルメット内に収めることが出来た。
安堵の胸をなでおろす間もなく次の爆発が起こる。俺はすぐさまアイの元に行きヘルメットの中の元素、ナトリウムを二人で回収して部屋を後にした。




