12.S
「ふっふっふ」
コアの部屋に戻ると、俺のクロクラから勝手に出てきたまがねが不気味な笑いをしていた。
「一体どうした……会社再建を諦めて頭が壊れはじめたのか?」
「し、失礼なっ! そんなことありません! 実はですね……朗報がございまして」
「朗報!? ここから出れる方法でも?」
「いいえ。そのようなことではありません」
「じゃあ何が朗報なんだよ。もったいつけずに言ってくれよな」
「ふふっ……、萩野さんが我が社に入社された場合月々のお給料が……な、ん、と、100万になるかもしれませんっ」
「ひ、ひゃ、百万!? 年収一千万超えるじゃねーか! ほ、ほんとにそんな大金もらえるのか??」
「もちろんです。我が社に二言はございません」
「す、すげぇ……。まさかここに来てそんないい話が待っているとは。ただ仕事内容がまったく不明だがその金額ならなんだって耐えれそうだ」
「さらに経営が軌道に乗れば更なるボーナスも付与です」
「くふぅ~、たまらないぜ! 脳からいろんな汁が出まくってるよ! 本当に信じがたい話だが……そもそも何故そんなに資金が?」
まがねはニヤニヤと笑いながら一枚の紙を俺に見せてきた。
「何これ小切手?」
「違います。なんとこれは超絶キャリーオーバーのロト7の一等当選チケット! 賞金は12億でございます!!」
「じゅ、じゅうにおくだと……!? 凄すぎる」
「これを資金に人材を集め、資金をやり繰りすれば企業再建も目前です! 萩野さん! わたしと一緒におむつ業界を震撼させましょう!!」
「でもさ……なんでこれ申し込み用紙なんだ? 窓口のおばちゃんに貰った正式な紙は?」
「えっ!?」
「えっ!?」
どうやらまがねは自分で選んで印をつけた申込用紙を大切に持って帰り、正式に宝くじ購入はしていなかったらしい。
真実を知ったまがねは喪失感を露わにしクロクラへと戻っていく。
なぜだか俺も憂鬱な気分になってしまった。
さよなら……毎日高級料理食べ歩き、札束の風呂でおねーちゃんとの記念写真、ゲーム機の大人買い……。
おかえり……牛丼紅しょうがてんこ盛り、週一風呂、無料アプリのリセマラ地獄……。
サヨナラ、俺の一瞬の妄想。
力一杯ほっぺをグーで殴り、気を取り直してアイに話しかけた。
「そういえば俺は一度失敗した上にまた共感の粉がない状態なんだけど、アイはまだ失敗した事ないの?」
「わたしも失敗してるよ。ドジだからつい……。今回はまだ共感の粉残ってるけど」
「そーなんだ。お互い油断はできないな」
「うん。でもね、もしやす君が危険な目に合いそうになったらわたしが助けてあげるから心配しないで」
「それはこっちのセリフだよ。女の子に助けてもらうなんて出来ないって」
アイは少し寂しそうな表情を見せたがすぐにニコッと笑ってくれた。
「よーし、じゃあ次は16だから硫黄かな。回収に必要な元素は水素と炭素、それに酸素か……アイもここで大丈夫?」
「大丈夫だよ。じゃあ一緒に行きましょ」
そして俺達二人は「16/1.6.8」の扉を開いた。
「あっ……」
二人の声が重なる。部屋の中は今までとは全く異なり、図書室そのものだった。
そんなに広くは無いものの、左右から突き当りの壁までびっしりと書物が収められている。
ただ異様なのは全てにフェンスのようなものが張り巡らされており、本を手に取ることはできないようだ。
「すごい量の本だな」
「うん。でも本の背表紙どれも滲んでるね。どうしてかな」
「風化したから? でもこのフェンスがあるかぎり、本を確認することは出来ないな」
俺とアイは何か部屋に怪しいところはないか探索してみた。
フェンスや床、本棚の木材など変わったところはないか探していた時、俺の鼻は猛烈な臭気に反応した。
これは……ひどい腐乱臭。稀に変なものを食べた時に出る屁の臭いだ。
いや待て待て――俺は今日ほとんど何も食べてないし、そもそも屁をこいてはいない。
てことは……アイ?? しかも無音……。
俺は目を合わせないよう、チラチラとアイの方を見た。
――明らかに挙動不審であった。
「アイ……何か変なものでも食べたのか?」
「しっ、失礼なこといわないでよっ!! わたしは何もしてない! てっきり、その……やす君かと」
「じゃあこの臭いって……硫黄によるもの?」
「……そうかも」
「それってもし硫化水素だったら……かなりやばいんじゃないのか」
「ねぇ……なんだか少し目が痛くなって……」
「まずいっ! アイ、フェンスに登って少しでも高い所に行くんだ!!」
すでにアイはよろめいている。俺はアイを支えながら出来るだけ高い位置に避難した。
だがこのままでは何の解決にもならない。とにかく硫化水素の発生を止めなければ。
俺は辺りを見回したが、何処から発生しているのか皆目見当がつかない。
くそっ! 何か、何か方法は――水素、炭素、窒素……!!
「もくたん! 特大の活性炭を出してくれ! 今すぐ頼むっ!!」
辛そうにしているアイを離さないよう支えながら俺はクロクラを振り下ろす。
出現した特大活性炭に硫化水素は吸収され少しずつ臭気も薄まっていった。
「アイ大丈夫か!? まだ目は痛むのか??」
「……ううん。だいぶ楽になってきたよ。ごめんね、また助けてもらちゃった」
笑顔が戻ったアイを見て俺はホッとした。
けどまだ元素を回収したわけではなので油断出来ない。さっさと次の作業を進めないと。
残るは水素と酸素で過酸化水素を作り、発生し続ける硫化水素を分解。
硫黄が単離したところを俺とアイは元素回収する。
そして活性炭の効果が弱まらないうちに俺達は部屋を後にした。




