10.C
「はぁ……まだ元素回収出来たの8個目なのにいろんな意味で疲れてきた」
俺はコアの部屋で溜息をつく。前回のステージで回収した元素は鉄。どーせこの元素も普通の子じゃないんだろうな……。
次のステージで使うから予行演習として召喚してみたいんだけど、へたに元素呼び出して喋るとまた窒素に何か言われそうだし……。
だが緊急事態で揉めたりするのは困る。よしっ、やっぱり召喚してみるべきだ。
そう思い、俺は鉄を召喚した。
「ようこそ~! 我がホゲホゲピヨピヨグループへ。平素からホゲホゲピヨピヨグループの商品やサービスをご愛顧いただき、
誠にありがとうございますっ。弊社グループでは紙おむつから弾道ミサイルまで手広く事業を展開し……」
「……事前に召喚しといてよかったよ。緊急事態にそんな登場されたら確実に死んでたね」
「えっ? 我が社に興味があってわたしを呼んだのでは……」
「ないわ! それに事業展開ブレッブレじゃねーか!! そもそもそんなグループ初めて聞いたし」
「そ、そんな……。でもでも、これしきのことで挫けたりしないわ!
わたしのご先祖、ほげ田ぴよ助会長が築き上げた会社を再建し、もう一度HOGEHOGEPIYOPIYO CORPORATIONの称号を獲得するまではっ!!」
「……もういろいろとふざけてるでしょ」
「ふざけてなんていません! わたしはいつだって本気ですっ!! 一刻も早く優秀な熱き人材を集めることがわたしの使命なのです!」
「そ、そーなのか……。だけど今の俺は生きるか死ぬかの瀬戸際みたいなものだし。
とにかく君に協力してもらい、ここを出ないとどうすることも出来ないんだが」
「それもそうですね。部下の悩みはわたしの悩みでもあります! なのであなたがここから出れるように全力で協力いたします。あっ、申し遅れました!
わたしは元素第4周期8族26、まがねといいます。不束者ですがどうぞよろしくお願いします」
何故もう俺は部下になっているのか……だが今は変に逆らわないほうがいいだろう。内容はともあれ目的意識がしっかりしてる分、まともな子なのかもしれない。
俺は気持ちを切り替え、次の扉に向かうことにした。
幸い「6」としか書かれていない扉が出現したので、元素を召喚せずに回収できそうだ。
まじか……まじなのか……。
部屋の中は疑いたくなるくらいシンプル。というか部屋のど真ん中に黒色の塊が落ちてるだけ。
そしてこのステージは原子番号6の炭素、これであの塊がグラファイトなら回収して終わりというボーナスステージ。
むしろクロクラのチュートリアルじゃねーか。まぁそんな簡単なステージなら普通最初にでてくるよな。
てことは物理的トラップ? 床に落とし穴とか、天井からトゲトゲのブロックが落ちてくるとか!?
よし、ここは元素を召喚して身代わりに……って待てよ。もしかして元素召喚した途端、何かの化学反応で爆発というのも考えられる。
だからあえての召喚なしなのか。扉の数字も炭素の6しかなかったし……。
「何さっきから難しい顔してるの?」
「うおっ!? コ、コッパーか。てか勝手に出てくるなとあれほど――」
「まぁいいじゃなない。そんな固いこと言わなくても。私なんて呼ばれたことすらないんだけどねぇ」
カリウムの威圧感が半端無く伝わってくる。でも召喚する云々は俺のせいじゃなく、ここの扉の法則だと思うのだが……。
「おーっ! なにこれ? さっきまで黒かった物が真っ白になっちゃった」
アクシーの声がしたので見てみると黒色の塊が真っ白になっている。
「それって……炭素をアクシーが触ったからドライアイスになったんじゃないのか……」
「あ、あら……そうだったの? じゃあこれ回収しちゃえばいいじゃない」
「いいわけないだろ。もう化合物になってしまったし」
俺は呆れながらアクシーに答えた。
「そんなの大丈夫だって! やってみればなんとかなるでしょ……ってあつっっっ!! 何これ!? 触ったら手にくっついたんだけどっ」
なんでこうも障害ばかりが起きるんだ……。とにかくドライアイスから炭素を取り出さないと。
二酸化炭素の場合、分解はかなりのエネルギーがないと出来ないから、マグネタイトで加熱分解、そして回収出来ると思うんだが。
俺はクロクラ内で鉄と酸素でマグネタイトを作り、アルミン嬢を召喚して加熱分解。そして炭素の単離に成功した。
「ルンルルンルンルンル~ン――あっ、こんにちはぁ、もくたんだよぉ~! ねぇねぇっ、もくたんは何の元素か当ててみてっ」
「……木炭」
「ブッブー! すっごくおしかったよっ! ヒントはねぇ~全部で三文字で最初の文字が『た』、最後が『そ』なの~。これでわかっちゃったかな??」
「……木炭」
「残念でしたぁ! 正解は炭素でした。ちょっと難しかったかなぁ~」
俺は元素を回収出来たので無言で立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってぇ! 置いてかないでよー」
「ごめんな。お嬢ちゃんと遊んでる場合じゃないんだ。俺は早く元素を集めないと」
「そんなぁ……遊んでくれる人が来てくれたと思ったのに……。遊んでくれないとこれから協力してあげないんだからぁ~」
元素回収したんだからもうそれでいいじゃないのか?
と思ったが今にも泣き出しそうな表情を見ると俺は仕方なく付き合うことに。
「……わかったよ。じゃあちょっとだけだぞ」
「うんっ!……えへっ、じゃあねぇ~バランス崩しやりた~い」
「まさか……二人向き合って両手を押し合うやつ??」
「そうそうっ、あの駆け引きがワクワクして楽しいんだよっ」
なぜ俺はこの歳で、しかもこの状況でそんなまったりした遊びをしないといけないのか……。
だがしかし、ゲームや遊びで相手が子供といえど本気を出すのが礼儀。そして何よりも勝負事に負けたくない俺は、すでに勝利に繋がる算段をしていた。
お互い適度な距離を取り戦闘態勢に入る。
俺は腕を張り過ぎないようにフェイントで力んでいるかの様にみせ、膝を少し曲げ相手の押しに対しての柔軟性を最大限に持たせる。
そして密かに相手の呼吸を測り、攻撃のタイミングやクセを綿密に分析する。
「きゃはははっっ!! やっぱり楽しいねっ」
仕留めるタイミングを図る寡黙な俺と、定期的に攻撃を続ける笑顔のもくたん。
俺はもくたんの油断した攻撃の初動を見逃さなかった。さも今から押そうという瞬間をねじ伏せてやる!!
と思い勢い良く出した両手はもくたんの柔らかいものを押してしまった……。
「きゃっ!! わわっ……」
よろめきながら尻もちをつくもくたん。俺は焦りながら
「ご、ごめん。わざとじゃないんだ……。ほんとにごめん!!」
「あ~あっ、もくたんの負けかぁ~。悔しいけどすっごく面白かったよん」
……なんでそうなるんだ。どう見ても俺の反則負け……てか胸ェ……。
「どーもありがとぉ。またもくたんと遊んでねっ。待ってるからねっ!!」
「お、おう……」
甘酸っぱい幼少の頃をふと思い出す。
先のことは考えずただ毎日を遊び尽くしてきた。学校が終わってみんなで秘密基地に集まり、
日が暮れるまで騒いでもまだみんなと居たい……そんな感じ。
俺はなんて言っていいか分からなかったが、こんな遊びならいつでも大歓迎だ。
そしてこの手に残る感触……。心の中でありがとうと呟いた。
「ねぇ……ヨダレ出てるよ。それに……私が居ないのになんでそんなに幸せそうな顔してるの?」
「ぎゃはぁっ!? ち、窒素……。いつからそこに!?」
「ついさっき。それにその手つき……まさか……他の女の胸なんて触ってないよね……」
俺は慌てて両手を隠す。
「ま、まさかそんな……ははっ。窒素ので充分だよ」
焦りのあまり俺は訳の分からないことを口走ってしまった。
「えっ!? えっ……そ、そんな……恥ずかしいよ。もう……いきなり変なこと言わないでよ」
「あははっ、ごめん。そうだよね~」
「……でも」
「……」
「恥ずかしいけど……泰千代なら、……いい……かな」
またもや何なんだ。この状況は……。そりゃあ体つきに見ても窒素は魅力的だがそんなことしていいのか!?
だが待てよ。ここで何もしないのは窒素に対して失礼に当たるのではなかろうか!?
据え膳食わぬはなんとやらで――彼女の勇気に答えてあげねばならぬ。致し方ないことだ!
俺は手の構えを先ほどの状態に戻す。そしてこの震える手をそっと――
「ねぇ、泰千代」
俺の手が寸前のところで止まる。
「泰千代は……私だけのものだよね?」
わ、私だけのもの!? この一線を超えると俺は窒素と付き合うことにでもなるのか……
「もし浮気なんてしたら……どうなると思う?」
「ど、どうなるのでしょう……」
「うふふふっ、あなたを私で埋め尽くしちゃうんだから……」
「それって……」
その時、ゴスンという音と共に後頭部に激痛が走り、俺の意識は少しずつ遠のいていった。
どこかでたらいの落ちる音が聞こえたような気がする……。




