第3話『分け前』
ショウヤ達は北区画にある冒険者ギルドへ引き返していた。
冒険者ギルドは中央区画に近い場所にあるので、それ程時間は掛かっていない。
ギルド館の一階は依頼掲示板や事務カウンターがあり、他にも軽食や酒を出すテーブル席がある。
ギルドの発足が荒くれ者達が集まるバーだったらしく、その名残といわれている。
建物は三階建てだが、二階に上がる広い階段をショウヤは昇ったことが無いので、一階以外は知らない。
ゴブリンの右耳を換金し、ショウヤの手元には銅貨59枚がある。
「また南区画へ向かうんすか?」
「いや、その前に。ジルの手持ちは幾らだ?」
「……銅貨43枚っす」
「俺と余り変わらないじゃねえか! よく俺からスリやがったな」
「ボンボンに見えたって言ったじゃないっすか。……それに盗れる時に盗らないと、後で飢え死にするっすから」
「まあ、飢えの苦しさは俺も知ってるしな……。今までにお前の被害にあったのは俺じゃねえから良いか。……一旦その43枚、後で返すから全額貸してくれ、運が良かったら倍にして返すから」
「ちょっ! これが無くなったらアタシ、飢え死になんすけど!!」
「大丈夫だ。騙すとかしないから。ここは信じとけって」
「本当っすね! 絶対に返してくれるっすね」
「あぁ、絶対だ」
渋るジルから銅貨を受け取ると、ショウヤはギルド館内の片隅で開かれている蚤の市に向かった。
蚤の市のスペースは狭く、扱われている商品は二束三文の衣服類が殆どだ。
剣や鎧の手入れに使うボロ布にするような物が多い。
休日の暇を持て余した冒険者が、友人に掛け合って集めたのだろう。
だが中には、まだ使えそうな物や、質の良い物もある。
そういった品は蚤の市にしては値が張るが、手入れされて売られていない分、他で買うより安い。
ショウヤは目当ての物を見つけ、購入する。
「マ、マントに銅貨90枚使うとか……、正気っすか?」
「冒険者が暇潰しでやってる市だから、無理に値切ろうとすれば、他で買えと言われて終わりだからな。まだ十分使える品だから、銀貨1枚から銅貨10枚値切るだけで一杯一杯だ。ほい、取り敢えず12枚返しとく」
「ア、アタシの生活費が……」
「どうだ、このマント。大きい動物の鞣し革を使用した一枚物で、裏地には厚布を当てた丁寧な造りだ。これは中古だから焦げた痕や傷、シミはあるが、そこがポイントでもある」
「……ポイントって何すか」
「ちゃんとした店で買った中古の革は、手入れされてるからテカる。今買って来ましたと言わんばかりだ。だが、このマントを俺が羽織ると、長旅をして来た異邦人に見えるだろ? マントを羽織らない旅人なんていないしな」
「だったら何すか」
「そう膨れるな、今に分かるさ」
ショウヤは不機嫌なジルを連れて冒険者ギルドを出る。
考えている事全てをジルに説明すれば、少しは落ち着くと思うが、面倒臭いから実践で説明しようとショウヤは考えていた。
中央区画の傍を通り抜け、南区画に入る。
ショウヤは初めて南区画に来た為、北区画との造りの違いに驚いた。
初めに目に付くのは、中央区画傍にある広場だ。
エンダルの道には何所も石畳が敷かれているが、この広場の石畳は一段と大きく一つで50センチ四方はある。
その石畳が窮屈に見えない程に広場は広い。
有事の際には数千人規模の兵士や騎馬を整列させる事を想定しているのだろう。
そして広場の奥には、大通りに面した商店街の裏側へと続く倉庫街が見える。
人の出入がある広場や兵舎、商店街は大通りに面して建っているが、出入の少ない倉庫街は裏手にある形だ。
歓楽街とそれ以外という大雑把な造りの北区画と比べると、区画整備の違いは明らかである。
商人の方が重視されているのか、とショウヤは卑屈な気持ちに成りながら先に進む。
次いで見えてくるのは、広場の隣にある兵舎だ。
冒険者ギルド館と比較しても引けを取らない大きさで、それが大通りを挟んで2つある。
そういえば、とショウヤは辺りを見渡す。
普段は衛兵として街を巡回している兵士だが、訓練の様子をショウヤは見た事が無い。
今も公園や兵舎からは、剣戟の音は聞こえない。
(代官の小城に訓練場があるのか? 住民を不安にさせない配慮かもな)
兵舎の前を抜けると、商店街だ。
中央区画に近い場所は一等地という感覚なのだろう、店と呼ぶより館と呼んだ方がシックリくる大商人の商店がまず建ち並ぶ。
その中でも目に付くのは、一際大きい商人ギルド館だ。
身形の良い商人達が引っ切り無しに行き来しているので、繁盛しているのが見て取れる。
オットーの店は南の城門近くとショウヤは聞いていたので、まだ先だが、その前に高級店ではなく一般の古着屋で今来ている服を売るつもりだった。
店構えを物色しながら商店街を歩くと、ショウヤは南大通りの中程で良さそうな店を見つけた。
大きくもなく小さくもない店構えで、客も数人いる。見た感じ庶民価格な古着屋だ。
だが、開けた入り口から奥を覗くと、壁に絹の服が数着吊られているのが見える。
この世界の絹の服は、高価で実用性の無い見栄えだけの物だ。
一般住民が求める品ではない。
身なりを気にする必要がある客層を取り込みたい、という店主の声がショウヤには透けて聞こえる。
「あそこが良いな。ジル、少し頼みたい事があるんだ」
「? 何をっすか?」
「俺より先に店に入って、買い物をしてくれ。お前が会計をする時に俺が入って行くから、『異国のボンボンか?』と店主に聞こえるよう独り言を呟くんだ。実際、黒髪と黄色い肌はこの辺じゃ見ないしな」
「はあ、何が何だが分からないっすけど、ここまで来たら嘘でも信じるしかないっす」
「それで良い。あと、このバッグも持っていてくれ。エールの筒も入ってるから壊さないようにな」
ショウヤはエールの入った小筒とパンが入った小さな物体をジルに手渡す。
『錆びた剣と釘』にあった使われていないテーブルクロスを拝借して、風呂敷の瓶包みの要領で肩に掛けれるよう包んだ物だ。
それを背負ったジルが店内に入るのを、ショウヤは見送った。
■
商品を手にしたジルが店主に近付くのを見て、ショウヤは店に入った。
棚に置かれた商品を眺めながらジルの独り言を聞くも、視線は向けない。
店に並ぶ商品は綿の服が多いが、中には麻の服もある。
そういえば大学の友人が麻の服を着ていたな、と思い。ショウヤは手に取るが、肌触りがすこぶる悪い。
ショウヤの友人が着ていた麻のカーディガンとは大違いだ。
(製法の違いなのか? 俺では見た目の違いはそれ程分からないけど。服に金を掛ける奴なら違って見えるのだろうか?)
今、ショウヤが着ている上下の上着も合計で四千円程だ。
無地のカジュアルシャツ。二千円。
ゆったりとしたチノパン。二千円。
(Tシャツと靴やベルトも入れたら、もう少しするけど。貧乏学生だったから、高い服を買うなんて理解出来なかった)
俺の服一式買えるTシャツを着てる奴も居たが、気が知れん。と思い出しながらショウヤは麻の服を棚に戻す。
他のも手に取るが、概ね大雑把な造りという印象だ。
ミシン等が無く、高品質な大量生産品が作れない中世ヨーロッパ風の文化ならば、当然といえる。
ショウヤが商品を手に取っては戻す動作をしていると、店主が近寄ってきた。
人間の中年男性で、人の良さそうな笑顔を浮かべている。
表情に出ないようショウヤは気合を入れた。
「お求めの物は御座いますか? 教えて頂ければお持ちしますが」
「ん? 店主さんかな。旅の途中で、予備の服を入れたバッグを魔物に燃やされてね。代えの服を買いに来たのだよ」
「それはとんだご災難で、お気の毒に存じます。予備の服全てと成りますと、何着程をお考えなのでしょう?」
「そうだな、肌触りの良い上質な綿の服を上下2セット欲しい。やはり汗を良く吸収する綿が旅には最適だ。あるかな?」
「もちろん当店に御座います。しかし察するに、お客様は遠国からの長旅のご様子。多少お値段は張りますが、前に冒険者の方から買い取らせて頂いた実用性の高い商品が奥にあります。どうでしょう、ご覧になられますか?」
「興味があるね。見せて貰おうか」
ショウヤは、裕福な家の出の旅人をイメージして演じる。
ただの買い物をしに来た訳じゃないので、マントを開きシャツとチノパンが見えるように心掛けた。
相手の触手が動くか不安なショウヤだったが、不安がる必要は無かったらしい。
物腰丁寧に接客をする店主だが、時折ショウヤが着ている服に視線が流れている。
(ダメだったら冷やかしで終わらせて、次の店を探すつもりだったが一軒目で済みそうだ)
しばらくして、店の奥から店長が持って来た上下の上着をショウヤは手に取る。
厚手の布で色は黒色、肌触りはジーパンに似ている。
特徴としては、肩、肘、膝の周り計6箇所の部分に鉄色の鱗革で補強してある。
アイアンスネークという蛇の革で、魔物を除く動物の中では最硬な素材に名を連ねると店長は説明した。
「鎧を着ることを想定して、カバー出来ない箇所を補った造りで御座います。鎧を召され無い場合でも、関節をお守りになる事は重要だと存じます」
「たしかに、実用的な造りだ。肌触りも文句無い。上下セットで幾らになる?」
「銀貨3枚になっております」
「3枚か……。同じような冒険者仕様の服があれば、それも買うので2セットで4枚に負けれないか? 出費は出来るだけおさえたい」
「他にもお客様の体格に合ったサイズの商品もありますが、銀貨4枚にですか……。ふむ、どうでしょう。お客様が今召されている御洋服を当店にお売りになるというのは? それならば、御無理を言ったお詫びに4枚に致しますが」
ショウヤは内心ホッとした。
この世界の文化基準ならシャツとチノパンは高値で売れるはずだが、自分から買取り願いを切り出せば足元を見られる。
だが脈がありそうなこの店を逃すのも惜しい、多少足元を見らるのを覚悟で、いつ切り出そうかタイミングを計っている所だった。
「この服か……。なるほど、この辺りでは見かけない物だからな。店主には珍しく見えるか?」
「えぇ、はい。御見かけした時から気になっておりました」
「気になるのも無理は無い。この服は故郷特産の布を使った値打ち物でね。綿だが、絹のような見栄えだろ?」
「確かに。絹を染めたかのような綺麗な糸で御座います」
「手触りは驚く程に良好で、綿だから汗も良く吸い取る。細かい特殊な織り方をしているので収縮性もあり、強い生地になっている。試しに引っ張っても良いぞ?」
「宜しいのですか、では……。おぉ、確かに綿のようですが複雑な編み方のせいか手触りも良く、薄手な布なのに生地も強い。この細かいうえに規則正しい編目。どれ程の腕の職人が何ヶ月かかって拵えたのか……」
製造機とミシンです、とは言えない。
店主が生地へ関心を持った事に、ショウヤは満足した。
(手作業の機織機がこの世界では主で、単純な編目が主流だろう。大いに高級品だと勘違いしてくれ)
御託を並べるような会話には疲れるが、もう一頑張りとショウヤは気合を入れなおす。
嘘と誇張を混ぜて吹かし、高く売り付ける。
これしかない。
「近くで見れば見るほど優れた品だと分かります。お国はどちらかお聞きしても?」
「東の果てにあるニホンという小国だ」
「東ですか。この国の東にある隣国、ドライル帝国より東となりますと大森林や山脈が広がり、その向こうは獣人達の国だと聞き及んでおりますが」
「……そう。そのさらに東にあるのがニホンだ。孤立した土地にあるゆえ他国に干渉されず、目立たない事で平和を維持している国でもある。店主が知らないのも当然だ」
「長い旅をなさっておられるのですね。……そこまで遠いとなると交易は無理そうですな」
「この服が気に入ったみたいだな、店主。自国の特産品を褒められて悪い気はしない。適正な値段なら手放すのも吝かではないぞ」
「そうですな。銀貨3枚でどうでしょう?」
銀貨3枚。上等な綿の服上下である事で0.7枚、珍しさで0.3枚、性能で1枚、手の込んだ造りという事で1枚、内訳はそんな感じだろう。
適正な値段と言える。
だが、それはショウヤの目指す金額ではない。
ショウヤは一つ咳をする。
「店主は一つ勘違いをしている。たしかに銀貨3枚は適正な値段だろう。だが、その値段に希少性が含まれて居ない。貿易も儘ならぬ祖国の物で、今後この国に入る可能性はゼロに近い。それに――」
ショウヤは一度言葉を区切り、店の壁に飾られた絹の服に視線をやる。
「――貴族様方は見栄えのする絹の服を好んで着られるが、皆が着る有り触れたデザインでは、どれも同じというもの。綿でありながら絹のような見栄えで、真似が難しい織りの技巧美。そして誰も持っていない異国の渡来品でもある。話しの種になると思うが?」
庶民的な店なのに、客層の無い絹の服を飾るという事は、いつかは客層を限定しないで手広くやりたい気持ちの表れだ。
貴族や金持ちも人間には変わりない、中には珍しい物好きもいる。
売れなくても、希少な渡来品が入荷したと伝えれば、見せに来いと言われるはず。
そこからツテを作れるかは、この店主の腕次第だ。
「会う口実にはなる。そして、そこから先は商人の特技だろ?」
「……わかりました。それで幾らでの買取りをご希望なのでしょう?」
「銀貨20枚」
「それは高過ぎます。銀貨20枚は言い過ぎです。仰った付加価値を含めても銀貨9枚がやっとです」
「なら9枚でいい。その代わり、背負いバッグをサービスで付けてくれ」
「承知しました。そのように致しましょう」
その後、ショウヤは店の奥を借りて、アイアンスネークの革で補強した服に着替えた。
そしてシャツとチノパンを店主に渡し、もう1セットの服が入ったカバンと銀貨5枚を受け取り、店を出る。
(初日に、こうしておけば良かった……)
セールで買った安物の普段着が、高値で売れるなど自分では思いも付かない事だが。
ショウヤはこの8日間を思い、そう思う。
店を出ると、ショウヤの入店と入れ違いに出ていたジルが、駆け寄ってきた。
「冒険者らしい服を着てるという事は、あの服を売ったんすか?」
「まぁな。お前に言われるまで高値が付くとは思わなかったが、上手くいったよ。これはお前の取り分だ」
ショウヤはバッグから冒険者用の服上下を取り出し、銀貨1枚と共にジルへ渡した。
「女性用が欲しいと言えば、プレゼントだと勘違いされて高価な物を出される可能性があったからな。でも、俺と背丈があまり変わらんお前なら着れるだろ」
「……良いんすか。貰って」
「ボロ着姿のお前を連れて冒険者を続けたら、どんな風評を受けるか分からん。必要経費だと割り切るしかないな。その辺の路地で着替えてこい」
「貰えるのは有り難いんっすけど……、今着替えると臭いが移るかもなんで、後で体を拭いてから着替えるっす」
「そうか。どうだ、俺を信じて良かっただろ?」
「そう……っすね。この3年で人を信じて報われたのは、今回が唯一っす。……大事に使わせて頂くっす」
3年の間、人を信じても騙されたと言うジルに、どんな事があったのかショウヤは聞きたくなる。
だが悲しそうなジルの顔に、戸惑い諦めた。
渡した服を抱きしめ無言でついて来るジルを連れ、ショウヤはオットーの店へ向かう。
南の城門から100メートル程の距離の場所に『サンドル武器店』はあった。
こじんまりとした店構えだが、オットーが我が店と言うだけあり小綺麗にしてある。
ショウヤが店に入ると、客がおらず暇をしていたオットーが商品の剣を磨いていた。
「小綺麗にしてあるが、閑古鳥が鳴いてるな。オッサン」
「ん? ショウヤじゃねえか。あの服は売ったのか? 見かけない素材が使われている割に、性能は普通と変わらない珍妙な服だったが」
「ああ、そうか《鑑定》で見てたのか。売ったぜ、銀貨9枚になった」
「はあっ! マジか!? そんな価値があるようには見えなかったが……」
「スキルに頼りっぱなしだという証拠だな。オッサンが早く気付いて俺から買ってたら、俺の貧乏生活も短く済んだんだがな」
「まあ良いさ。俺は武器屋であって服屋じゃねえ。それにお前の貧乏生活なんて知った事じゃねえな。……それで、纏まった金が入ったから客として来たのか? それに、そこの嬢ちゃんは?」
ショウヤから見れば外国人の顔付きだが、外国人同士なら中性的な顔でも判断が付くのか。それとも商人としての技術ゆえか、オットーはショウヤと違い初見でジルが女だと見抜く。
話題に上ったジルは貰った服を抱きしめたまま、ショウヤとオットーの会話を観察するだけで、一言も喋ろうとしない。
お喋りな印象があるジルにしては珍しいと、ショウヤが代わりに紹介した。
「コイツはジルだ。色々あって拾った」
「ちょっ、そんな紹介酷いっす」
「……良くは分からんが、練習相手って所だろ。すると槍を買いに来たのか?」
「そうだ。練習相手だけじゃなく冒険者の仕事にも連れて行くが」
「嬢ちゃんは確かに《槍術》を持っているが、体力が低そうだから短槍か棍がオススメだな」
「そこはジル本人に任せるさ」
「あの……、無視しといて丸投げは止めて欲しいっす。それに何で、この人はアタシのスキルを知ってんすか?」
「そうか説明はまだしてなかったな。教えていいか?」
「かまわんよ、さっきお前も口走ってたしな。それに商人で《鑑定》持ちは信用され易い。大いに広めてくれ。という訳で、嬢ちゃん。理解したかい」
「はぁ、《鑑定》持ちっすか。便利なスキルを持ってるんすね」
「ジル、なんかお前。まったく驚いて無いな。警戒心が足らないのじゃないか?」
ショウヤは昨日、自分が見せた警戒心バリバリの態度と比較して言う。
ここまで、すんなりと納得されては自分が滑稽に思えたのだ。
「はははっ。昨日のお前は、どこの野犬かって態度だったな。あそこまで警戒されたのも久しぶりだったぜ」
「《鑑定》のスキル自体は知ってたんで、それを持ってるって言われたら驚きはしないっす」
「ちっ、面白くねえな。オッサン、後は頼んでいいか? ジルが長時間振り回せそうな軽い長モノを持って来てくれ」
ショウヤが頼むと、オットーは槍が並んだスペースに向かった。
後の事はオットーとジル本人に任せるとして、自分はどうしょうかとショウヤは考える。
武器は昨日貰った片手剣が十分使えると朝に証明されたし、鎧を着る必要がある魔物とはまだ戦うつもりも無い。
今日は冷やかして帰るかと、ショウヤは決めた。
オットーが幾つか持って来るから、後は自分で選べとジルに言い。
ショウヤは商品の武具を見に、店内をぶらつく。
両手剣のトゥハンドソードやクレイモア等が壁に掛かり、中には両用であるバスタードもある。
片手剣は店内に並ぶ立掛け棚に陳列されている。シミター、スティレット、カトラス、多種多様だ。ショウヤがオットーに貰ったグラディウスもある。
鎧も重装、軽装、鉄に革と様々。
「お前はどうするんだ? 何か欲しい物はあったか?」
ショウヤはオットーに声を掛けられる。
オットーの後ろを眺めると、幾つかの短槍を持ち替えては悩むジルが見えた。
「いや、今日は冷やかして帰るよ」
「そうか。軽装の革鎧なんか安いのもあるが?」
「必要になったら、ここに来るさ」
「まあ、その服があったらゴブリン程度なら十分か。それで、あの嬢ちゃんはどうするんだ? 見ため孤児のようだが、金に困ってるお前に余裕あるのか?」
「手先の器用さや逃げ足、身の潜め方も俺の身をもって知れたし、鍛えれば程々にはなると思うんだがな。いかんせん俺が素人だから、良く分からん。結局は唯の気分だ」
「話した感じ性根は良さそうだったが、そうかスリをやってたか。……飢えは辛いよなぁ」
「なんだ? 飢えた事がありそうな発言だな。店を構える商人様が」
「あまり言いたくないが。この世じゃあ、魔物に家族を殺された孤児ってのは珍しくない。俺は自分と同じ境遇の奴らと一緒に冒険者になったんだ。誰も助けてくれなかったしな」
湿っぽい話しになり、ショウヤとオットーは無言のままジルの葛藤を眺める。
悩むより、笑い飛ばすほうが性に合っているショウヤが沈黙を破った。
「まあ、俺が歓楽街で豪遊する資金集めの為に拾ったんだ。アイツにも分け前は分けてやるさ」
「ふっ、そうしてやれ」
お読みいただき、ありがとうございます。
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異世界の言語に対する設定を変更しました。
『日本語では無くショウヤの知らない文字だが、書けずとも読める。異世界の言語に困らずに済んでいるので、ショウヤはその現象に感謝していた。』
という文章を1話の中程に加筆致しました。
混乱を招く事をして、申し訳ありません。