第一章 惚れてしまったが運の憑き
コップが、浮いていた。流しの上、電灯の下で。天井から、糸でつるされているようにふわふわと。
黄色いパジャマ姿で台所に立ちつくしたまま、亜矢はごしごしと目をこすった。
「落ち着け。これは何かの間違いだ。コップが飛ぶわけないじゃない」
虚ろな声で、ぼそっと呟く。恐怖に負けないように、ぐっと両手を握りしめる。深夜二時を指す時計の音が、やたら大きく感じた。
夜中、ノドが乾いて目を覚まし、台所に水を飲みに来ただけなのに、なんだってこんな怪奇現象に遭遇しないといけないのか。それに怖い事は怖いけれど、なんだか微妙に地味だし。
「なんだ、私の家じゃ、夜な夜な食器の妖精さんがパーティーでも開いてるのか。じゃなきゃ、私の頭の方がどうかしたのかも……」
とりあえず、自分がどんな人間だったのかおさらいしてみる。
名前は亜矢。職業女子高生。十六才。短い髪はちょっとだけ染めた茶色、目は黒。最近頭を打った覚えも、超能力に目覚めた覚えもない。となると、ますます意味が分からない。
「助けて、ニュートン……」
「なんだそりゃ。ああ、そうか。万有引力か。リンゴが落ちたってね」
思わず呟いた言葉に、いきなり返事が返ってきて、亜矢の鼓動は間違いなく数秒止まった。
この台所に、自分以外の誰かがいる。
浮いていたコップが、透明な綿に沈みこむようにゆっくりと流しの上に着地した。その時、初めて亜矢は気付いた。今まであまりにも色が薄くて気付かなかったけれど、淡い輪郭の半透明な男が、コップをつかんでいることを。
「ふええ、重い! やっぱり幽霊って力ないんだなあ。楽に持ち上げられるのは紙くらいか」
筋肉痛を防ごうとしているように、その幽霊は右手をぶらぶらさせた。
年は亜矢と同じくらい。ツヤツヤとした赤銅色の髪。黒い瞳は、幽霊とは思えないほど輝いていた。人間、死んだっておもしろいことぐらいいくらでも見つけら れると信じているように。結構カッコいい男だった。ひょっとしたら芸能関係のニュースに、不幸にも事故かなんかで亡くなってしまったジャニーズとして名前 が有るかも知れない。
格好は一応着物だけれど、白い着物の右袖と裾には、紺の線でファイアパターンまで描かれている。幽霊の癖に、額の三角の布は付けていない。この男、生前はきっと生活指導の先生ににらまれていたに違いない。もっとも、閻魔様が規制をゆるくしたのかも知れないけれど。
固まっている亜矢に体を向けて、幽霊は軽く片手をあげた。
「あ、どうも。お邪魔してます! 幽霊で~す!」
亜矢は無言で調味料入れから粗塩をワシづかみにした。そして幽霊にむかってバッと投げ付ける。
「チッ、外したわ」
「ちょ! まかないで、問答無用で清めの塩をまかないで!」
「黙れ。こっちは散々ビビッてたのに、第一声が『お邪魔してます』だあ? どんだけウザい幽霊よ。ああ! しかもこれ沖縄土産にもらった高級塩じゃない! 最悪。もったいない!」
「もったいないって。俺の存在高級塩以下か」
さすがに少しムッとしたような幽霊に、亜矢は人差し指を突き付けた。
「うるさい。幽霊だったらジトッと恨みがましい目ぐらいしてみせなさい」
「幽霊が暗いっていうのは偏見だ! 食べ物を洗わない不潔なアライグマとか、働き者のナマケモノだっているかも知れないだろ!」
「そんな情熱的なナマケモノがいてたまるか。大体人の家に不法侵入とはどういう量見? おとなしく塩浴びて消えろ、ナメクジのように」
「軟体動物と一緒にすんな。確かに骨はないけれど!」
言い争いに疲れた亜矢は、腕組みをして霊をにらみつけた。
どうもこの幽霊は、生きている者と見ればネチネチ怖がらせて殺そうとする、ホラー映画に出てくるようなモノとは違うらしい。まあ、それはいいとしても、なんで見た事も無い男の幽霊が、人の台所で筋トレめいた事をしているのか。
「で、なんであんたはここにいるの?」
何か、幽霊に祟られるような事をしたか? 心当たりがないか過去の記憶をチェックしてみる。
少なくともお供えを横取りしたりお墓に落書したり、バチが当たりそうな昔話チックなイタズラはした覚えは無い。言い寄ってきた男子を手酷くフッた事はあるけど、そいつがフられた悲しみで自殺したなんて話は聞かないし。そもそも、この幽霊はその全然男子と似ていない。
考えこむ亜矢に、霊はニヤニヤと笑みを浮かべた。
「あれ、覚えてない? 昨日の事だけど」
「覚えてって……」
昨日はいつもの通り学校行って、適当に授業受けて、皆としゃべって。でもって、友達の花穂と帰り一緒に近くのリサイクルショップに行って。指輪買って……
頭の中に流れていた映像に、そこでストップがかかった。
一昔前の洋楽のCD。丈夫そうだけれど何の飾りもない麻のバッグ。けばけばしい色をしたインテリア用のおもちゃ。そんなのが並ぶ中古ショップで、亜矢は銀色の指輪に目をつけたのだった。男女兼用の物で、ほとんど模様のないシンプルなデザインが気に入った。
「見てよこれ、私の指にピッタリ!」
「何それ。指輪? ぴったりって、それ買う気?」
花穂は大げさに顔をしかめてみせた。
「いいじゃない。似合ってるでしょ?」
「でも中古品だよ? 前に誰が持ってたかわからないよ?」
レジにむかいながら、亜矢はニコッと笑って見せた。
「心配症ね花穂は。まさか、霊が取り憑いてるとかあるわけないじゃん」
「まさか…… あった? そんな事あった?」
「よーやく気付いた?」
よろよろとテーブルにしがみついた亜矢に、幽霊は、おもしろそうにニヤニヤ顔をむけてくる。
亜矢は何だかいつかチャンネルを回したときに目にしたアメリカのアニメを思い出した。悪巧みしては失敗する、憎めない狼がこんな笑い方をしていたっけ。
「そ。俺はあの指輪に憑いてきたの」
「チッ、あのお店、変なモノ売り付けて! 慰謝料よ、慰謝料!」
亜矢は自分の部屋にダッシュする。
床にのクッションを蹴り飛ばし、ファッション誌が散らかる机から、銀色の指輪を掴み取った。そして外に投げ捨てようと窓の鍵に手をかける。
「ただでさえ大変な学校生活をこれ以上乱されてたまるか! 処分する!」
「ちょ、待って、待って、捨てないで!」
ついてきた幽霊が、窓に手を伸ばす。ぐっ、と押さえつけられた窓は、のりづけされたように硬くなった。
「あんた、さっきコップ持ち上げるだけではあはあ言ってたのに、なんで窓押さえられるのよ!」
「火事場のなんとやら! 必死なんだこっちは! ちょっと、ちょっとでいいから話を聞いてくれって!」
なんだか痴話ゲンカみたいな幽霊のセリフに急に冷めてしまい、亜矢は大きくため息をつく。
「あのねえ。そうやって化けて出るって事は、どうせ誰かに殺されたんでしょうけど。はっきり言って私には一切関係の無い事だから。あきらめて成仏して。でなきゃ、他の人に取り憑いて。てか、自分を殺した犯人に直接とり憑けばいいじゃないの」
「いやあ、俺もできたらそうしたいんだけどねぇ」
なぜかお化けはバツが悪そうに言った。
「実はさ。覚えてないんだよね。今までの事」
「はあ?」
「いや、だからさ。自分の名前も、どこで何してたのかも、誰に殺されたかも、皆、全然、きれいさっぱり、何にも覚えてないの」
「何よそれ?」
「たぶん、死んだショックだと思うんだけどね。ほら、誰かに襲われて死にかけたとか、でかい事故に遭ったとか、あんまりひどい体験すると脳が心を守るために記憶を消すっていうじゃん? あれだと思うんだ」
そもそも脳がないじゃないか、という突っ込みはともかく、まあ、死なんて究極の嫌な事だから、心を守るために死んだ瞬間を忘れる、というのはわからなくもない。
「そのノーテンキな所を見ると、記憶を消してまで守んなきゃいけないくらい、かよわい心してるとは思えないけどね」
自分でも辛口だと思う意見を言えば、霊は苦笑した。
「言ってくれるね。こう見えても、すっげー不安なんだぜ? 気がついたらいきなり指輪に閉じこめられてて、店に並べられてたんだから」
そう考えればまあ、かわいそうだと思えなくもない。
「指 輪の中は居心地いいけど、中に入ってる間は外の事はまったくわからないしな。それにどうも、この指輪からあまり離れた所へは行けないらしくてさ。ちょうど 糸で繋がれているみたいなもんで。窓から投げ捨てられたりしたら、俺、誰かが拾ってくれるまでドブだかゴミ捨て場だかを延々(えんえん)うろつくハメになるわけよ」
名無しの幽霊は、大げさにショボンと肩を落としてみせた。
確かにそれは気分的に嫌な物がある。冷たい雨の夜なんか、ゴミ袋の横で体育座りするはめになったら、気が滅入って仕方ないだろう。
第一、道行く人の心臓にとっても、よろしくない。
「だからさ、お願い! しばらくここにいさせてくれ。な?」
幽霊は、両手を勢いよく合わせて見せた。普通ならパンと音がする所だけど、さすがに何の音もしなかった。
「そう言われてもね。最後まで面倒みきれないなら、生き物を飼っちゃダメって母さんに言われてんのよね」
「大丈夫。生き物じゃないから。死に物だから。もう最後迎えてるから」
「それはそれで問題だと思うけど」
むこうも必死に売り込みを始めた。
「食費いらないし、朝洗面台もトイレも占領したりしないから」
「う~む」
「ほ、ほら、俺こんなだから、あなたにゃ指一本触れられないし。ただ、見るだけだよ。色々と」
その言葉を聞いて、亜矢はごそごそと引き出しを漁り始めた。
「確か、金属用のヤスリがどこかにあったはずだわ。あれでこの指輪、切れるかしら」
「じょ、冗談だって。プライバシーは守る。さっきも言ったけど、指輪の中に入っている時は外の様子が見られないんだ。な、頼む!」
泣きつかれて、亜矢は考えこんだ。
仲良くなった気はないけど、こうやって話をして知合ってしまった以上、指輪を捨てるのは気が引けなくもない。なんとなく、祟られそうでもある。かといって、自分に取り憑かれるなんてまっぴらだ。
「分かった。こうしてあげる。私の友達に、莉子っていうスピリチュアルっていうかオカルト好きな奴がいるから、その子に面倒みてもらいなさいな」
「いや、それは断わる。他の奴の所に回されるなんて真っ平だ」
その言葉には、ちょっと力が入っていた。
「ん? なんでよ。悪い話じゃないと思うけど」
幽霊は、じっと亜矢を見つめた。生きている間はもっとキレイだったに違いない茶色の瞳で。そして、内緒話をしようとするように顔を近づけてきた。本当だったら唇が亜矢の耳に触れるほどの距離に。
「好きに、なったから。お前の事が」
いきなりとんでもない事を言われ、亜矢の心臓が一拍分高まった。
「は、はぁ?」
答えた言葉は自分でも情けない事に少しうわずっていた。
「霊になったのがどんな感じか、生きてるお前にはわからないだろうな」
静かな、低い声が耳元で囁く。
「体は冷えて、目の前が真っ暗で。怖くても、震える足さえないんだぜ。ああ、このまま消えちまうんだろうな、って思った」
頬の真横でかすかに霊が笑う気配がした。
「でもさ。お前が指輪を手に取ったとき、なんかフッとあったかくなったんだ。そんで、闇が薄まったと思った。で、気がついたらお前が微笑んでたってわけ。そんな事あったら、普通は惚れるだろ? どうせなら、好きな人の家に居候したいと思うさ」
そう言うと、レイはスッと体を離した。
亜矢はしばらくそのままの格好でかたまっていた。ぽかんと開けっ放しになっていた口をゆっくり閉じる。小さく肩が揺れ始めた。そしてその揺れはだんだん大きくなる。
「ぷ、ふはははは! まさか幽霊に告られるとは思わなかったわ」
「あ~、ふいたな、笑ったな!」
「悲恋ね。ロミオとジュリエットがうらやましく思えるくらいの悲恋だわ」
亜矢はまじまじと幽霊を見つめた。
「あなたが生きてれば考えなくもないけどね。幽霊じゃあ。死が二人を分かつまでって、もう完全に分かたれているじゃないの」
「う……」
自分でもむくわれない恋だという自覚はあるらしい。幽霊は見えない銃に撃たれたようによろけた。
「それに、『彼氏は幽霊です』なんて言った所で誰が信じてくれるのよ」
幽霊はこっちに背中をむけて、、「いいんだ…… どうせ、俺なんか……」とか何かボソボソ呟いていたが、しばらくして気を取り直したようだった。うつむいた顔を上げて、きょろきょろと辺りを見回す。
「そういえば、これだけ大騒ぎしているのにだれも出てこないな? 家族は?」
「母さんは出張。父さんは死んだわ。仏壇、見なかった?」
「あ、ああ。悪い事聞いちまったな」
顔を曇らせたレイに、フッと遠い目をして見せる。
「別に。お父さんは死んじゃったけど、私に大切な事を教えてくれたわ。いいえ、ある意味父親の親友にかしら」
「へえ、死してなお遺る教えか。どんな?」
「『他人を信じるな。まず自分の利益を確保せよ』」
「何だ、そのせちがらい教えは」
「本当の事よ。お父さんはねえ、親友に騙されて借金背負わされたあげく自殺したの」
「あ、ああそうなんだ」
「何よう、その顔は。どうせ『そんなマンガみたいな事あるんだ』とでも思ってるんでしょ」
まさしくそう思っていたのだろう。幽霊は微妙な顔をした。
「まあ、借金は返し終わったけどさ。子供の頃、夜な夜な聞いたドア蹴っ飛ばす音と怒鳴り声が恐くてね」
亜矢は、遠い目であさっての方を見た。唇からふふふふ、と隙間風のような笑い声がもれる。
「おかげで貯金ないと怖い怖い」
「結構壮絶な人生送ってるな、お前」
「まあね。あ~、なんとかして大金欲しいわ。かと言って、あなたから家賃取れるわけもないしねえ」
「ま、あの世にお金は持っていけませんけどね」
ケッケッケ、と笑う幽霊を、亜矢はマジマジと見つめた。
それにしても、本当によく笑う、変わった幽霊だ。と言っても普通のお化けがどんなのか詳しく知らないけれど。イメージとしてはもっとこう、恨みがましい顔をしている物ではないか。それこそ、震え上がるほど……
「ふ、ふふ、ふふふふ!」
いい事を思いついた亜矢は、さっきよりも力強く笑った。
「いいわ。家に置いといてあげる」
「い、いや…… それは嬉しいけど、明らかに何か企んでるだろその笑い」
軽く体を引いた霊の言葉を無視して、亜矢は歌うように続けた。
「ね~え、世の中恨みを抱えている人が多い。そう思わない?」
「え? まあ、恨みを抱えてない人なんていないだろうね」
「そこで、私達の出番ってわけよ」
「『達』とな!? なんか嫌な予感がするんだが!?」
「恨みを持つ人から依頼を受けて、その人の憎らしい人をあんたが威しつける。正真正銘の呪い代行! 名付けてレンタルゴースト! 略してレンタゴーストね!」
「ちょっと待て、俺レンタカー扱いかよ! ヤだよ。そんな事したら俺地獄に落ちそうな気がする」
「ふん、あなた、さっきこの指輪から少ししか離れられないっていったわよね」
亜矢の瞳がキランと輝いた。
「あ、なんすかその邪悪な笑みは」
「あなたが協力してくれないなら仕方ないわ。あの指輪、石にくくりつけて海に沈めてあげる。きっと、魚やカニが友達になってくれるわよ」
「なんだその極悪な脅しは! 俺に選択権ねえじゃねえか! 鬼、悪魔、地獄に落ちろ!」
「おほほほほ! その鬼だか悪魔だかに惚れたのは誰かしら。それに地獄に落ちそこなった奴に言われても悔しくないわね。他人に弱みを見せたアンタが悪いのよ」
「ううう」
「それに、ちょっとばかりダークな仕事していれば、あなたがなんで殺されたのか、分かるかも知れないわよ。お金の報酬の他に、情報の報酬ももらえばいいのよ。依頼主にあなたの顔を見てもらって、覚えがないか、聞いてみるの」
しゃべっているうちに、亜矢にはだんだんそれが名案に思えてきた。
「もちろん、あなたの事を殺した犯人ともぶつかるかも知れないけど、そうそう可能性は高くないと思うわ。なにもしないよりはマシなんじゃない? 自分が何者なのか、知りたくないの?」
幽霊はふざけた表情を引っ込めた。半透明の唇を噛み締める。
「それは…… 知りたい。俺が何をしていたのか、誰とどんな生活していたのか」
深刻な、追い詰められたようなその顔に、亜矢は胸を突かれた。
記憶喪失になった事のない亜矢は、それがどんな感じなのか分からない。けれど、きっとひどく不安な物に違いない。自分を愛してくれた人の名前は? 嫌いだった人の名は? 好きな食べ物は? 趣味は? そんな物がごっそりなくなるのだ。
たぶん、目が覚めた時いきなり海のド真ん中に浮かんでいたら同じような気分になるかも知れない。自分がどこから来たのか、ここがどこなのか、なんでここにいるのかすらわからないのだから。
亜矢はレンタルゴーストの提案をした事に、少し罪悪感を覚えた。なんだか、不幸な幽霊を利用しているのに気が引けなくもない。
「ま、亜矢の言う通りだな。それに、今ここで自分の過去を考えても仕方ないし」
幽霊は笑った。感じているだろう不安を上手に押さえ込んで。
「そうだな。あんまり危ない事しないって約束するなら手を貸してやってもいいよ」
「ようし。これでめでたくレンタルゴースト結成ね。よろしく、レイ」
「レイ? 何それ」
「名前よ、名前。あんたの。名無しじゃ不便でしょう。幽霊のレイ。漢字は辛口端麗の麗でもお礼の礼でもご自由に」
「レイ、レイか。悪くないな」
どうやら、気に入ってくれたらしい。名無しの幽霊改めレイはウンウンとうなずいた。
「じゃあ、これからよろしくね」
何となく手を出してしまってから、亜矢はちょっと気まずく感じた。幽霊に握手ができるわけはないのに。なんか、マヌケな事をしてしまった気がする。
そんな亜矢の気持ちを知ってか知らずか、レイはいたずらっぽく笑って握手をするマネをしてくれた。
初めて触った幽霊の手は、こすった下敷きやふうせんに手をかざした時のような、ぬるい静電気のような手触りだった。