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白と黒と灰色と

作者: 真叉風巳

 お読みいただきありがとうございます!真叉風巳です。

 今回は現代物に挑戦してみようかと思います。

 それではどうぞお読みください!

 2011/6/4 PM.10:10

 …コンビニから1人の男が出てくる。彼の名は「山田やまだ 輝希てるき」17歳。彼は6時間の勤労という活動を終了し、帰路につく。家はこの場から歩いて数分といった場所に位置している。彼は反対車線を挟んだ向かいにあるビルの隙間にあるもの(・・)を見つける。


(…またか。)


 彼は呆れたように下を向き、大きなため息を吐き出す。彼が見たもの(・・)は人ではなかった。普通の人ならあれをこう呼ぶだろう。


 『悪魔』と。そいつは体中を黒い体毛に覆われ、鋭い牙と爪にコウモリのような黒い翼の生えたもので、ある時には神々しさを感じるときもある。たまに天使のような正反対のハトのような翼の生えた白い衣を身に着けたものを見ることもあるが今日はまだ見ていない。輝希はもう一度同じビルの隙間に視線を戻す。しかし、そこには先程の悪魔の姿はなく、代わりにシルクハットをかぶりステッキを持った紳士がその隙間から出てくるところだった。


 輝希は自らの目を疑い、もう一度そのビルの隙間を見る。やはりそこには悪魔の姿はなかった。


(…気のせい…かな?)


 輝希は何も考えることなく帰路を進む足を進め始めた。






 2011/6/4 PM.10:15

 輝希は家であるアパートの一室に帰り着き、いつも鍵のかかっていないドアを開けて中に入る。揃えられた2足の靴の隣に自分の靴を並べてリビングへと向かう。


「ただいま。」


 リビングのきれいな机の上に並べられた食事と、その机に座っている2人の男女が輝希の瞳に映る。男は「さくら 白水はくすい」女は「たちばな 僑華きょうか」。2人共輝希の幼馴染みで、輝希と共にこの部屋に住んでくれている。


「おかえり。」


「おかえり、テル。」


 2人の言葉が輝希に向けられ、輝希は荷物をソファの上に置いて食卓につく。


「じゃ、食べましょうか。」


 僑華がそう言い、3人が声を揃えて言う。


「「「いただきます。」」」


 3人は箸を握り、雑談に興じながら食を進める。今日あった出来事を3人で笑い合いながら語り合った。たくさんかまえられていた食事も数分の内に無くなり、食後も3人で語り合っていた。


 輝希は今日見た悪魔の事を話した。2人には天使と悪魔が視えることを話していて、2人はそんな自分をいつも気にかけてくれている。


 輝希は昔イジメを受けたことがあった。理由は『悪魔が視える』という言葉を虚偽だと疑われたためだった。「嘘つき」と蔑まれ、時には暴力を受ける事もあった。だが白水と僑華だけは輝希の言う事を信じたのだ。輝希は2人を信じ自分の見たものを全て話す事を誓い、白水と僑華はどんなことがあっても輝希と共にいると誓った。


 今日見た悪魔は合計3体。霊も見たが、数分程度でいつも通り消えていた。ビルの隙間で見た悪魔のことも話し、そこから出て来た男の事も輝希は隠すことなく話した。白水が頭を掻きながら言う。


「何だそいつ?怪しすぎるだろ。そいつはこれまで見たこと無かったのか?」


 輝希は首を横に振り、見たことが無いことを白水に伝える。白水は少し考えたが諦めてリビングの端にあるテレビにリモコンを向けて電源を点ける。


「テル、他に特徴とか無かったの?」


 僑華が輝希に尋ね、シルクハットとステッキ、それから紳士のような服装以外の特徴を思い出す。


「…そうだな…確か髭は生えてなかった。それから、左手の親指以外の指に金でできた指輪をはめてた気がする。後…服の袖から少しだけ見えたんだけど、右手首に金色の腕輪もはめていたような気がする。」


「なぁ…テル、それってこいつか…?」


 突然白水がそう言い、テレビの画面に映る人物を指差して輝希に尋ねる。輝希と僑華は白水の傍に近寄ってテレビの中の人物を見る。その人物は左手に4つの指輪をつけ、シルクハットをかぶりステッキを持ったマジシャン『ヴェリウス』だった。髭は生えてなく、白い肌に赤い髪、そして淡く煌めくブルーの瞳が観客達に向けられていた。ヴェリウスはステッキを一振りし、空気中に焔を発生させる。そして今度は左手で指を鳴らし、焔を一瞬で消し去る。誰もいない所から女性を出現させたり、自分の入った箱に無数の剣を突き立ててその中から平然と現れるショーまで見せた。ヴェリウスの顔には笑みが溢れ、それを見る者全てを魅了していた。


 だが、輝希には違う映像が見えていた。彼に天使と悪魔が群れをなして襲い掛かり、彼はそれを平然と焔で消し去り、ステッキで殴り倒すことまでしていた。彼が箱の中に入ると天使と悪魔はその中に吸い込まれ、彼がもう一度現れた時には天使と悪魔の姿は消えていた。何も無い所から出現させた女性はジャグリングをしながら彼の討ち損ねた天使と悪魔を倒していた。


「テル…?」


 僑華が輝希に声をかけた。輝希は自分の体が震えていることに気がついた。畏怖の念を抱いているわけではない。もちろん寒いからでもない。ドキドキしている。心臓が高鳴り、鼓動が速くなるのを感じた。初めて自分と同じものが見える人を見つけた。会ったわけではないが、自分が間違っていないということを証明してくれたのだ。

 僑華が心配そうに輝希の瞳を覗き込む。輝希は少し興奮したようにテレビの中でマジックを見せる彼が自分の見た男だという事を話した。そして彼は悪魔と天使を傍にいる女の人と共に倒していることも話した。2人はとても驚き、彼にもう一度出会う方法を考えたがその方法が3人の頭の中に浮かぶことは無かった。

 何故なら彼は世界ツアーの真っ最中である世界一のマジシャンであり、明日に中国へ飛び立つそうだ。自家用機を使用する彼に会うことはできないとわかった輝希は少々落胆したが、明らかにこれまでとは違う喜びに溢れていた。いつもなら寝る時間になってもそれは収まることなく、その日は全く眠ることなく夜が明けた。






 2011/6/5 AM.7:00

 いつも通り僑華より少し遅く起きた白水が寝着のままリビングにやって来る。寝癖がまだ残っていて後ろ髪が少しハネている。


「テル~、てめぇその顔は寝てねぇだろ?」


 白水は僑華の作った料理を運ぶ輝希に向かって言う。僑華にも言い当てられたので少し複雑な気持ちになったがすんなりと白状した。


「あ~…うん。さすがに眠れないよ。昨日あんなことがあったらね。」


 少し微笑みながら言う輝希を見た白水は「仕方ねぇなぁ」と言いながら許した。僑華と全く同じ行動をとった部分が輝希の笑いを誘った。


 3人分の弁当を作り終えた僑華が席に着き、3人で声を揃えて言う。


「「「いただきます。」」」


 それぞれが自分の前に並べられた食事へと箸を伸ばして食べてゆく。最初はテレビのニュースを見ながら悪魔や天使が見えたら輝希が言っていくような形だったが途中から臨時ニュースが入った。


 ニュースキャスターが暗い表情で渡された紙片を淡々と読んでゆく。ニュースキャスターのすぐ横には血にまみれ、舌を出してポーズをとっている男が映し出された。


『臨時ニュースです。アメリカの刑務所に有名な殺人鬼"ロキ"が侵入し、死刑囚10人が死亡した模様です。現在"ロキ"の手にかかって死亡した死刑囚の数は274人になり、FBIの捜査が続けられていますが未だに手がかりとなるものは掴めていないようです。…"ロキ"は―――――』


 ニュースキャスターは"ロキ"の起こした事件を事細かに説明していく。僑華がテレビをぼんやりと眺めながら呟く。


「…死刑囚だけを殺す殺人鬼って言われても安心できないのにね。」


 僑華の言葉に輝希と白水も同意し、食事をすぐに片付けた。


 僑華が皿洗いをしながら輝希と白水に言う。


「ごめん2人共、先行っててくれない?昨日友達から一緒に学校行こうって誘われてるから。」


「テルがいいなら問題ねぇけど…。」


 白水は制服に着替えながら輝希に尋ねる。輝希は頷いて言う。


「別にいいよ。…というか昨日言わなかったな?何でだ?」


 輝希は自分の荷物をリビングに置き、白水の準備を待つ。


「忘れてたのよ。一応何かあったら連絡してきて。」


 僑華は輝希にそう言うと弁当を輝希に手渡す。「ついでにお願い」と言って白水の分の弁当を輝希に渡し、ベランダに洗濯物を干しに行く。


(何か変だな…。)


 その姿をぼーっと眺めていた輝希に準備を全て終わらせた白水が傍に来て言う。


「良い嫁になるだろうな。」


 白水の言葉に輝希は同意し、弁当を白水に手渡して荷物を持つ。


「「じゃ、お先に~。」」


 白水と輝希が手を振りながら僑華にそう言い、僑華も手を振り返す。2人はリビングから出て玄関で靴を履き、輝希が扉を開く。白水は傘立てにいつも置いてある竹刀を包んだ緑の袋を取り出して右手に持つ。


「…いるかそれ?」


「毎朝俺に降りかかる災難を知ってるじゃねぇか。」


 白水は輝希の問いにそうとだけ答えるとポケットのバイクのキーを取り出して階段へと向かう。


アレ(・・)はお前のせいだろ。」


「だからこそだよ。ケジメは自分でつける。」


 輝希はため息を吐いて階段を疲れたように降りる。


「俺に迷惑かかってんじゃねぇか。そこはどうなんだよ?」


 白水はバイクのキーを差し込み、エンジンをかけてヘルメットを被る。輝希は後ろに載せられているヘルメットを被って白水の後ろに乗る。白水の竹刀はいつも通り後ろに乗る輝希が持っていた。


「まぁ気にするなよ。一応お前は何もしてないしな。」


 白水はバイクを運転し、アパートの駐車場から外に出る。


「ん?…あれが僑華の友達…かな?」


 白水がアパートを出たすぐ先にいる女の子を見て言う。その女の子は俺たちと同じ高校の制服を着ていて、学校指定の黒い鞄を体の前で持って誰かを待っていた。髪は黒く、肩あたりまで伸ばしていて白いリボンでひとつにまとめられていた。


 白水には少女が見えた通りのそのままの姿が見えていた。しかし輝希には女の子の首にとぐろを巻いた巨大な蛇が見えていた。


(悪魔…なのか!?)


 輝希は自分の目を疑い、見えていることに気づかれないように女の子から目を背けた。輝希は自分の背に向けられる女の子の視線を感じていたがあえて無視をした。


 白水のバイクが高校に到着し、殺気を放つ男達…合計10人が白水のバイクの前に立ちはだかる。白水はバイクから降りて男達の前に立つ。白水は竹刀を袋から取り出して竹刀の切っ先を胸の高さで止める。


「さて…戦るか。」


 白水がその言葉を発すると10人の男達が白水に攻撃を放つ。ある者は殴りかかり、ある者はバットで白水の頭を狙う。脚を払いにゆく奴までいたが、それら全てが白水が竹刀を一閃しただけで後ろへ吹き飛ばされた。


 白水は様々な訳があって毎日戦いを挑まれている。その為常に竹刀を持ち歩く事にしている。


 白水は竹刀を肩にのせて振り返り、言う。


「よし、行くぞ。テル。」


「ハク………」


 輝希の顔からは完全に血の気が引かれており、輝希が見つめる先を白水は見た。


「ん?あれくらい楽勝だぜ?」


 白水は自分の下へ向かって来る数十人を超える男を見て呟いた。しかし輝希は白水に自分が視えたものをそのまま話した。


「違う…あいつらの上に蛇の悪魔がいる。それも全部だ。しかも僑華の友達にも同じ蛇の悪魔が上に視えた。」


 白水が輝希の言おうとしている事に気が付き、口を開く。


「…って事は……」


 うわ言のように呟いたその言葉を輝希が続ける。


「僑華が危ない…。」


 白水はすぐにバイクを反対側に向け、男達に向かう。


「テル!頼んだ!」


 白水は輝希に竹刀を手渡して運転に集中する。輝希は群がる男に一切の手加減無しに攻撃を叩き込んだ。


 すると蛇の悪魔が男達から離れ、学校の外へ一直線に向かう。悪魔が離れた男達は地面に倒れ、気絶していた。


 輝希は白水に向かって叫ぶ。


「ハク!悪魔が逃げる方向を言う!俺の支持に従ってくれ!」


 輝希はそう叫ぶとすぐに悪魔の後を追うようにルートの支持をした。


(僑華…無事でいろよ…!!)


 輝希の視えるものに対してある行動をとったのは2人共これが初めてだった。2人はどう表現すればよいのか分からない不安にかられていた。






 2011/6/5 AM:7:30

 2人は悪魔の後を追い、1つの廃ビルの前に辿り着く。2人はバイクを停車し、他のビルの影に隠れるようにして悪魔の入って行った廃ビルを見つめる。その廃ビルの前には男が数人…いや、悪魔に操られた(・・・・・・・)男が数人廃ビルの入り口を見張っていた。悪魔達は中に入って行った後、すぐに出てきて地面に開いた底が見えないほど黒い穴の中に入って行った。

 その様子を見ることができていた輝希は白水にその様子を伝える。


「…しゃーねぇな…突っ込むぞ。」


 白水は近くにあった鉄パイプをつかんで言う。輝希はしっかりと頷いて白水よりも先に男達の前に出て行く。


 数度かの打撲音の後、輝希と白水はビルの中に入る。ビルの中にはさらに多くの悪魔に操られた者がいたが、僑華の姿と僑華を待っていた少女の姿もあった。

 僑華は白いチョークで描かれた魔方陣のようなものの上に寝かされていた。僑華を待っていた少女は倒れたコンクリートの柱の上に座っていて、ひどく妖艶な笑みを浮かべていた。


「――――――――。」


 少女が何を言ったのか2人には分からなかった。しかし少女の言葉の後、輝希と白水を囲んでいた男たちが殴りかかってきた。2人は突然の攻撃に一瞬たじろいたが背中を合わせて迫り来る男たちを殴り、蹴り…少しずつ僑華の方向へ移動する。しかし何度も押し寄せる攻撃の波に押され、輝希が腹に一撃を食らう。輝希は一瞬だけひるんだが、すぐに体勢を立て直す。


「テル!?大丈夫か!?」


 白水が声をかけたが輝希に返事ができるほどの余裕はなかった。輝希は防戦一方になりながらも何とか敵の攻撃をいなして致命傷を避ける。少女は少し驚いたような顔をして俺たちに言う。


「何、あんた達?アルカナやどっかの組織じゃないの?」


 今度ははっきりと聞き取れた。いや、最初に話したのは日本語ではなかったのかもしれない。その間にも悪魔に操られた人間は2人に攻撃をし続ける。苦し紛れに白水が答える。


「アルカナって何だよ!?てめぇ僑華に何かしたら許さねぇぞ!」


 白水の言葉を聞いた少女は大きな声で笑う。


「ハァ?何それ!?アハハハハハハ………!能力が何ひとつないのに私に勝負を挑んできたわけ!?バッカじゃないの!?死んで!!――――――!!」


 少女は笑いながらそう言うと最後にさっきと同じように2人に聞き取れない言語を発した。するとそれを聞いた悪魔達が白水の体を狙って飛び掛る。もちろん白水はその光景が見えていないので防御をする素振りを見せようともしない。


「ハク!!」


 輝希はそう叫んで白水の体を全力で突き飛ばす。白水の体は宙に浮き、周囲の人達を巻き込みながら豪快に転んだ。


「いってぇ…何しやがんだテル!」


 白水はそう聞き返したが輝希はそこにはいなくなっており、その場には巨大な土壁が残っていた。


「そこまでだレヴィアタン。」


 土壁の上から男の声がする。土壁の上には輝希とあのマジシャン、ヴェリウスが乗っていた。


 声の主はヴェリウスのようだ。土壁を元の平らな地面に戻しながら言う。


「そこの君、これを右手でも左手でもいいから指にはめてくれ。」


 ヴェリウスは白水にそう言って金色の指輪を投げる。白水は慌てながらも受け止めてそれを右手の薬指にはめる。その指輪には青色の宝石がついていて裏側には「KNIGHT(ナイト)」と彫られていた。


「君はこっちだ。」


 ヴェリウスは輝希にそう言って黄金の腕輪を手渡す。輝希はそれを両手で受け取ってしっかりと左腕にはめる。


「うわっ!?何だこいつら!?」


 白水は突然そう叫んだ。白水の目にはこれまで見えていなかった悪魔が見えるようになっていた。ヴェリウスはステッキを一振りして土壁の付近にいた蛇の悪魔を消し去った。


「その指輪のおかげだ。君達は『選ばれた者』なんだ。その理由は後で説明しよう。まずは君達の友達を助けなくてはならないからね。」


 ヴェリウスはシルクハットに手をかけてそう言う。白水と輝希はヴェリウスを信頼できる人だと判断し、2人は少女を…いや、少女にとり憑いた悪魔を睨む。


「いくら新人といってもさすがに分が悪いかもね。今日は帰らせてもらうわ。次会う時にはベルフェゴールも連れて来るわよ。」


 少女にとり憑いた悪魔はそう言うと地面に黒い穴を開けてそこに入って行く。少女は僑華の上に倒れ、気絶した。


「ふぅ…これで一段落ついたかな。」


 ヴェリウスはそう言うとステッキを軽く振って紅茶ポッドとカップを何もない所から取り出して注ぎ始める。ヴェリウスはコンクリートの柱の上に座り、ヴェリウスは事の次第を説明しようとする。


「…さて、一体どこから話せばよいのかな?何が知りたい?」


 ヴェリウスは悪戯っぽい笑みを浮かべて2人に尋ねる。2人はとりあえず悪魔の事について尋ねた。するとヴェリウスは紅茶を一口飲んでから答え始める。


「そうだな…まぁこれを見てくれ。」


 ヴェリウスは地面をステッキで3つの円を描く。3つの円は横一列に並び、真ん中の円だけ2つと交わり、その両端の円は真ん中の円に交わるような形で描かれた。ヴェリウスはその両端の円に『天界』、『魔界』と書き、真ん中の円に『現界』と書いた。ヴェリウスはステッキで言っている箇所を指し示しながら言う。


「真ん中の『現界』。これは私達が生きているこの世界そのものだ。そして右側の『天界』。これは神とその使いである天使達が暮らす世界だ。死人の魂が還る場所でもあり、水と雲と神殿によって造られている。最後に左側の『魔界』。これは悪魔という神に逆らった者達が造った世界だ。『魔界』は炎と大地によって造られている。『天界』と『魔界』は対立していて、両者共にお互いの世界を滅ぼそうと考えている。

 天使と悪魔は人間の近くにいると少なからず影響を与える。悪魔は人を悪の方向へ、天使は人を善の方向へ…。そのどちらかへ偏る事はこの世界にあってはならない事なんだ。この世界は善と悪の狭間、つまり中間にある。善へ進むと愛が無くなり、悪へ進むと良心が無くなる。」


 ヴェリウスはそこで口を閉じ、また一口紅茶を飲む。そして右の円と左の円から中心の円に向かって矢印を描いて説明を再開する。


「この2つの世界は直接的な干渉ができない造りになっている。『魔界』から『天界』へと悪魔を送り込みたいと思えば、一度『現界』に出現した後『天界』への道を通って行く必要がある。逆もそれと同じようになるんだ。

 さっき君たちが見たのは『魔界』から来た悪魔さ。とは言っても君には昔から視えていたようだけどね。」


 ヴェリウスは輝希を指差して言った。ヴェリウスは2人に尋ねる。


「ところで、君達。私についてくる気はないか?」


 ヴェリウスの問いに輝希が答えようとしたが2人の間に白水が入って聞き返す。


「待て。…貴方の目的は何ですか?何故俺達を誘うんですか?」


 ヴェリウスはステッキの先でシルクハットを少し上に向ける。その行動は白水の目を見て言うための行動だった。


「そうだな。私は『天界』と『魔界』から来る天使と悪魔を滅することを目的とする『黄金の暁会』という組織に加入している。他にも多くの組織が天使と悪魔を滅するために動いているが、中でも私たちの組織は最も天使と悪魔を滅している。

 君達を誘うのは、君達の霊力が常人の何倍もあるからだ。霊力とは天使と悪魔に対抗するために『現界』の生物全てが持つエネルギーだ。霊力はその指輪や腕輪でさらに大きくなるが、子供の時から天使と悪魔を見ていたのは霊力が段違いに大きかったからだ。

 まぁ一度私達の会合に参加してから決めるといいさ。」


 白水は輝希を不安そうな目で見つめる。輝希は頷いてヴェリウスに言う。


「…分かりました。あの、僑華も連れて行っていいですか?」


 輝希の問いにヴェリウスは驚いて答える。


「いや、大丈夫だ。2人には私が結界をかけ、私の部下に守らせておくから安心しなさい。」


 ヴェリウスは紅茶を飲み干し、コンクリートの柱から立ち上がる。


「心配はいらない。それに時間も止まる(・・・)からな。」


 ヴェリウスがそう言った瞬間風がピタリと止んだ。宙を漂っていた葉がその位置から少しも移動しなくなり、近くにいた虫も動かなくなる。


「疑問は全て会合の場で答えよう。自分の腕輪、指輪に触れて転移ワープと唱えてくれ。」


 それを聞いた2人は指を腕輪、指輪に触れ、目を瞑って呟いた。


「「転移ワープ。」」


 2人が目を開けた時2人は様々な金属、宝石で装飾が施された大きな赤い扉の前に立っていた。2人の近くにヴェリウスの姿はなく、数十人の人々が巨大な円卓を囲んで座っていた。座っている人々はかなり多く、瞬時に数えることはできなかった。しかしある共通点は見つかった。

 椅子に腰掛けている者は金色の腕輪を身につけ、その後ろで控えている者は金色の指輪を身につけていることだった。

 そこで雑談していた人々の内、白衣を着てサンタのような髭を生やした老人が輝希と白水に目を向けて言った。


「やぁ、初めまして。…右の君はそこの椅子へ。左の君はその椅子の後ろに立ちなさい。」


 2人は老人の言葉に素直に従い椅子に座る。その後すぐにヴェリウスとその助手の女の人が到着して全ての席が埋まった。


 ヴェリウスが口を開く。


「さて、まずは自己紹介から始めようか。」

 お読みいただきありがとうございました!

 いかがでしたか?

 連載するかどうかはまだ決めていませんが、楽しんでいただけるだけでも幸いです^^

 感想よろしくお願いします。

                             真叉風巳

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