花火を見て、また来年
「また無くなってる……。
綾斗、あんたでしょ?」
「そうだけど。うん、あのおはぎは美味しかった」
和風の戸棚を漁っていた少女が、低い声で少年に問い掛ける。少年は悪びれることなく、笑顔で答える。
「俺、本格的な和菓子って苦手なんだよ。羽月、いつもおはぎみたいなのにしてくれ」
「……綾斗、茶道部の和菓子は部費から買ってるんだよ! 勝手に食べないでっていつも言ってるじゃん!」
「俺も部員なんだけどー」
「幽霊部員でしょうが!」
ひとしきり言い合った後、二人は畳の上で向かい合った。少女の前にはお茶を点てるための道具が並んでいる。
「ってか、毎日来てんだから幽霊部員じゃなくね?」
「お茶も飲まずにお菓子ばっか食べてる人に言われても。
それとも、このお茶飲む?」
「う……」
少年は少し後ろに後ずさる。どうしても飲みたくないようだ。少年の目が宙をさまよう。
少年が甘党だと知っている少女は何も言わずに、そんな彼の姿を眺めていた。
二人は幼なじみだ。お互いの扱い方は熟知している。しかし、今日の少年の様子はどこかおかしい。普段なら、彼はお菓子を食べた後は直ぐに帰ってしまうのに。
いつもよりぎこちない二人を、いろどりの光が照らし出す。
二人の顔が窓の外を見た。暗い夜空にいくつもの、満開の花が咲く。
『……』
咲いては散り、咲いては散る。儚い光の花を二人はしばらく見つめていた。
「そういえば、花火大会だったね。誰かと行かなくて良かったの?」
少年は少女の言葉に答えずに、少女の方に向き直った。
「……あの、さ」
「なに?」
「来年は二人で行こう。……花火」
二人の背後でまた花が咲いた。いくつも、いくつも。
少女はしばしの沈黙ののち、笑顔で頷く。
「いいよ。でも、綾斗がお茶を飲んでくれたらね」
そして、煎れ終わったお茶を差し出す。少年はそれを掴むと一口で飲み干した。少女はその想定外の行動に目を丸くする。
「結構なお点前で」
この話を最後まで読んで下さってありがとうございます。初挑戦の恋愛小説でしたが、いかがだったでしょうか。少しでも楽しんでいただければ幸いです。
補足ですが、以前の三題噺に出てきた少年少女とこの二人は別人です。