運命なんてない。
運命を信じてる人は見ない方が…。運命を否定してる作品なので。
「日向子〈ひなこ〉ちゃんって、大学2年生なの?」
「そうだけど」
「どこ住んでんの?」
「福岡」
「うそっ、俺も福岡。偶然〜。あ、必然かあ」
──はあ?
ばかじゃないの?
「なんか、運命感じるんだけどー」
うわ、痛ー。
運命って。
朋美〈ともみ〉による強制合コン。
「イケメン集めたから、ねっ?」
何が
「ねっ?」よ。
イケメン?どこが。
頭空っぽのばか蛙ばっかりじゃない。
「ねえ、佐藤君」
「えッ!何!?」
「私、運命とか信じないタチなのよね」
「え?」
「運命運命って軽ーく言いまくる奴って、大嫌いなの」
「………へ?」
あーあ。
その声やめなさいよ、ばか丸出しだから。
「ばいばい。──席替えターイム!」
「へっ!?日向子ちゃ…」
運命って、何?
最近の奴ら、運命運命って言い過ぎじゃないの?
同じクラスになったら、
「運命」。
電車で毎日乗り合わせる男が落としたハンカチを拾ってくれたら、
「運命」。
運命の赤い糸なんてあったら、街中糸だらけじゃない。
人との出会いを全て運命で片付けるのは、確かに楽。
「貴方と私の出会いは運命なんだね」って言うと、とても綺麗だもの。
でも私は、そんな綺麗事言う奴にはなりたくない。
運命なんて、ないわ。
「日向子、席替え終わったよ?」
「え?あ、ごめん」
ばか蛙が座ってた席に座ったのは、男だった。
…いや、『男だった』ことは当たり前なんだけど。
なんか…、
特徴がない。
「平凡…」
「へへ、ごめんね」
「…!」
やばい。普通に口に出しちゃった。
目の前の男は、特に気に障った様子ではない。
「気にしないで。いっつも言われるんだ。君、名前は?」
「え、…日向子」
「日向子ちゃんか。可愛い名前だねー。僕、名津〈なつ〉って言うんだ。よろしく」
「…はあ」
名津。
…人懐っこい子。
名前ぴったり。
「ねえ、名津」
「ん、なあに、日向子ちゃん」
「日向子でいい」
「え、そう?じゃあ、日向子。…恥ずかしいかも」
「質問いい?」
「いいよ?」
「…蛙って、好き?」
「…ええ?えへへ、うん、嫌いではないよ」
「…ふうん」
「蛙嫌いなの?」
「ん…、嫌いではないよ、本物なら」
「本物?…へへ、日向子変なのー」
「何よ。…えへへ」
2人で、笑った。
何か判んないけど、何かおかしくて。
ばかっぽくて。
「気ぃ、あうのかな」
「うん、あうのかな」
「あうんだね」
「うん、あうんだね」
「じゃあ皆さん解散しましょーか!」
朋美の声。
「またね」
「うん、またね」
自然に、またね、って。
運命なんて信じない。
『運命』なんて物に頼りきるなんてばかみたい。
自分で、
開かなきゃ。
赤い糸は、
自分でつむがなきゃ。
『またね』は、
私が、
私自身でつむいだ言葉。
彼が、
彼自身でつむいだ言葉。
運命なんかに頼らない、
自分の、糸。