第一話 殺し
人が死ぬとはどういう事なのだろうか
悲しい事?つらい事?喜ぶ事?
きっとどれでもないだろう
動物が、魚が、虫が、植物が死ぬのと同じ
世界では普通の事
だから悲しい事でも、つらい事でも、喜ぶ事でもない
それは、当たり前のことなのだから
「おい、例の物は持ってきたのか」
どこかの倉庫らしき場所
らしきというのはその中には何も入っておらず、
鉄が錆びていて長い間放置されていた事が分かる
そんな所に男が二人
片方は髪を全て剃っており、服はスーツ
もう片方は、ロングコートに、ハット帽子でサングラス、マスクをつけており
顔は見えない
「例の物?」
ロングコートの男は知らないとばかりに手を振る
「とぼけるな、ここで取引する約束…だったろ?」
スーツの男は、銃を向ける
「それとも今ここで死ぬか?」
「死ぬのはゴメンだ、ほらよ」
ロングコートの男は、アタッシュケースを投げ渡す
「ふん、最初っから渡してれば」
ケースの中には、粉状の物、液体の物、それぞれがあった
一種の麻薬である
「じゃあな」
「おい、ちゃんと渡したんだ…お前も渡す物があるだろ?」
「さぁ?何の事だか、これは元々俺の物だったろ?」
そして、銃を放つ
胸の辺りに当たる
そして、男は倒れた
「この業界じゃ、当たり前の事だろ?人殺しなんてよ!」
そして、外に出て行く
「……」
スーツの男はポケットから携帯をとりだし、どこかへ電話をする
「例の物は手に入れた…相手?殺してやったよ」
『そうか、殺ってしまったのか』
「当たり前だろ…お前、少しおかしいぞ?」
『あぁ、そういえばそうだったな…なぁ、今日が何の日か分かるか?』
「今日?なんかあったか?」
『分からないなら教えてやるよ、今日がお前の命日だ』
ブツ、と携帯はきれる
(今日のあいつはおかしい、声もなんか…)
そこで、ロングコートの男の方から、音がする
「!?」
男の方を見る
倒れたまま、死んだままだ
「そんな馬鹿な事が…」
「もしもし」
後ろからの声
動くはずない
死んでいるのだから
じゃあ後ろからの声は?
倒れている男以外にいるはずない
「…了解」
後ろをゆっくりと振り返る
ロングコートの男は立っていた
胸には撃たれた後がちゃんとある
「なんで、死んで…」
「お前等の組織はもう壊滅させた、仲間と既に話しているはずだ」
ハッと、男は気付く
「そして、死んでいない理由、それは」
男はロングコートを脱ぐ
そこには、鉄で出来たスーツがあった
銃で撃たれた所はそこで止まっている
「う、うわぁぁぁぁ!!!」
スーツの男は狂ったのか、銃を乱射する
しかし、その全てが男には当たらなかった
その全てが外れていたのだ
そして、弾も尽きたのか、カチャカチャという音に変わる
「た、助けてくれ!なんでもするから!」
「この業界じゃ、殺しは当たり前だったな?」
男は、銃を取り出し、スーツの男の頭を狙う
「あばよ」
そして、銃を撃つ
スーツの男の頭に穴が開く
そして、力なく、前へ倒れる
男は、倒れた男に近づき、ケースを遠くに蹴る
そして、銃をまた撃つ
蹴って
仰向けにして
また撃って
眼も撃った
心臓も撃った
鼻も撃った
撃って
弾がなくなったら
男の爪を剥がして
内臓を取り出して
足を切って
手を切って
なにもかもをぐちゃぐちゃにして
気付けば、男は原形を留めていなかった
生臭い匂い
ぬるっとした感触
男にとってそれは、とても安心できる物だった
普通の人だったら発狂しかねないだろう
だが、この男にとってはそれら全てを感じられる事が
幸せだった
最高だった
まだ味わっていたい
しかし、幸せな時というのはすぐに去ってしまう
だから男は思う
<まだ殺したい>
その時、携帯がなる
男の携帯だ
「もしもし」
『始末は終わったか』
「あぁ、終わった」
『よし、その男の使える臓器は?』
「ない」
『また…悪い癖が出たか』
携帯の話し相手は呆れ気味に言う
「悪い癖?違う」
『あそこまで残虐にやるのに悪い癖じゃないというのか?』
「あれは遊びだろ」
『…まぁ、本来の目的は達したんだ、戻って来い』
そして携帯の電源を切る
ケースを持ち、町明かりのあるほうへ行く
男は、二階建てのビルに入る
エレベーターにのって、二階へ行く
二階につくと、血の匂いが脳にまで伝わる
「どうして俺をこっちにまわさなかった」
床には、沢山の死体
血に染まっていない所はないに等しいくらい周りが紅く
その空間にいたのは、三人
一人は、片目に切り傷が入っており、市販で売っている普通の服を着ている
もう片方は、メットを被っており、顔は見えず、服はTシャツ
最後の一人は、椅子にしばりつけられている
太っていて、髪はくしゃくしゃ、顔もくしゃくしゃだった
醜い…
「お前をこっちにまわすと、売れる物まで壊すからな」
片目に傷をつけた男が言う
彼等の着ている服は普通、だが色は
血の色だった
「とりあえず、このデブから取れる情報を取った…帰るぞ」
「おぃ…情報はいったぞ…はやく、はやくかいほうし」
バン、と銃を撃つ音
椅子に座っていた男は、肉塊と化していた
「おい」
片目に傷をつけた男が男に問う
「なんだよ」
「なぜこいつを撃った」
「そんな事か…簡単だよ、殺したかったから殺した」
ケースをメットの男に投げ渡す
「俺は本部に戻る、じゃあ」
そういって、エレベーターにのり、下の階へいく
「…俺達も戻るか」
片目に傷をつけた男は、その部屋に何かを置く
「後始末をしてからな」
エレベーターにのり、建物から出ると、ポケットからスイッチのようなものを取り出す
それを押すと、建物が爆発した
それを見て、携帯で写真をとる人、消防署に電話する人と、野次馬が来る
それに紛れて男達はその場を去った
町から遠く離れた所
そこは、廃墟しかなく、人がいる気配を見せない
男は、あるビルに入り、そこの一室に入る
ベッド、バスルーム、パソコン、
その中には、必要最低限のものしかなかった
男はパソコンの電源を入れ、プログラムを起動させる
画面に、男が映し出される
が、部屋の中が暗いのか、男は体系しか見れない
『やぁ、任務はどうだった?』
「成功した」
『そうか、CK、次の指令がくるまで待て』
そういうと、パソコンの電源は自動的に切れる
「CK…」
この組織では、一人一人にコードネームがつけられる
その前、つまり本名は捨てられる
この男のコードネームはCrazy Killer、その頭文字をとって呼ばれている
意味は【狂ってる殺し屋】
CK、男はそう聞くといつも思い出す
あの時の…
着ている服を脱ぎ、バスルームへ入り、シャワーを浴びる
その後、いつものロングコートを着て、ハット帽子を被り、サングラスをつける
そして部屋から出る
任務がない時はいつもこうして時間を潰している
暇な時間は自分にとって勿体ない時間と感じる
休む暇なんていらない
だって、自分にとって休まる時は
殺している時以外にないのだから