第一章 ― 2― 2 ※1200文字
放課後、帰宅部の俺は真直ぐ家に帰る。バイトとかしないのかという疑問もあるだろうが、話が横道にそれるので、今回は置いておこう。今問題にすべきは、直哉のことだろう。
それにしても何で考えが足りないんだろうねと、電車の中で、俺はため息をつく。
確かに、俺はあいつが言うように、平石と仲の良い男を知っている。プライバシー保護のために田中ということにしておこうか。じゃぁ、何で俺は、田中の名前を知っているのかという話だ。直哉は、その友人の名前を言わずに去っていった。今夜くらいにその名前を告げるために、迷惑電話をかましてくるだろう。つまり直哉から聞いたわけではない。俺が、未来を知っているのでなければ答えは一つ、簡単なことだ。その田中君から先月こんな自慢メールを頂いた。
『女日照りの行来へ 幼馴染の彼女と付き合うことになった。今度良かったら一緒に遊びに行こうぜ』
嫌がらせの彼女画像も当たり前の用に添付してきたさ。
何で、平石が直哉を見てたって? 平石が見てたのは、直哉の隣にいた俺だ。もちろん、俺に特別に好意があったわけではない。まだ喋ったことも無いが、『彼氏の中学時代の友人』に興味があっただけだ。
そのことを、あの場で告げることもできたんだが、そうすると失恋の痛手から、道路に身を投げ出して大惨事ということにもなってしまうので、俺は話すのをためらったわけだ。というのは、軽い冗談で、実際は、失恋のショックでボケっとして道路に出てしまったところ、車に当たって、全治二ヶ月の骨折にあう程度なんだけどな。
しかし、夜の電話で彼氏のことを告げると、何でそのことを言わなかったんだと八つ当たりされ、険悪な雰囲気が二週間続くという茨ロードが待っている。
全く、世の中のこの不都合システムときたらふざけているのを通り越して、呆れざるを得ない。
そして、運命の夕方。ニュース番組を見ながら、奴の電話を取る。
「すまんすまん、行来か?」
「俺以外この電話に出る奴がいたら、ほぼ盗難されたものだから、警察に連絡頼むわ」
「よし、わかった。まぁそんなことはどうでもいいんだが」
どうでもいいのか。それなら、俺もお前の話はどうでもいいと言ってやりたい。
「あのさ、俺、名前をいい忘れていたわ」
「何の?」
聞きたくないなと思いつつ目線をテレビに向ける。そこには、有り得ない写真が映し出されていた。
「例のお前の友人の名前さ」
直哉の話など、俺の耳には入っていなかった。テレビの中の写真は、今日、上野で無差別殺人を起こした男の写真が報道されていた。
「ああ」
適当に相槌を打つ。俺は目を疑った。
「田中って言うんだ、頼んだぞ」
「ああ」
呆然としながら、俺は電話を切った。コンビニでぶつかったあの男だった。
まて、有り得ない……。有り得ないだろ……。
俺は右手で左肘を抱え、うめくように呟く。時間など気にもせずベッドの上に寝転んだ。額に手を当て、呪いの言葉を呟いて、俺は目を閉じた。