第一章 ― 2― 1 ※862文字
昼休みになった。授業の合間の時間に話しかけてこなかったところを見ると、本人的には、重大なことのつもりで、そんな短時間で終わる話ではないと考えていたからだ。俺にとっては、本当にどうでもいい話だったのだが。
食堂に行きながら、直哉は言った。
「D組の平石って知ってるか?」
平石ってのは、小柄で世間様的にはちょっと可愛いと言われる、高校一年生の女子だ。直哉よりは頭がよいが、客観的に見れば、そこら辺にいる一般的高校生である。
ここで、少し考える。『はい』でも『いいえ』でもこいつの恋愛イベントに付き合わされるのは間違いない。こいつの強引さは、ゲームの強制イベントも真っ青だからな。
「いや、全然知らんね」
無駄とは知りつつ、本当はすでに知っているが嘘をつく。
「それなら、教えてやる」
ああ、やっぱり始まったかと思いつつ、こいつの勘違い話に付き合う。
会話の流れだけかいつまんで言おう。
『最近視線がよくあうようになった。⇒気付けば、俺のことを見ているように感じる。⇒俺のことが好きなんだろう。⇒けっこうかわいいし俺も付き合ってみてもよい。⇒しかし、こちらから声をかけるのはちょっとリスクが伴う。⇒せめて好きだということを確定させてからにしたい⇒おまえなんとかしてくれよ。』
なんて身勝手な言い分だと抗議する俺の手をつかんで、そのまま直哉は、俺をD組に連れて行く。
「な、かなりかわいいだろ?」
ああ、そうだな、かわいいさ、かわいいよ、かわいいともさ。直哉搭載の色眼鏡かければな。
俺には、何十回見ても、かなりといえる顔立ちには見えん。俺だったら、もっと誰が見ても美人と思うような女子と付き合いたいんだがな。お前だって昔はそういってただろう。本当に人間って言うのはこうやって願望のレートを下げていくんだなと思わされる、よい一例だ。
「まぁ、がんばってくれ。俺がどうやってこんなことに協力できるというんだ?」
「お前の中学の友人が彼女と仲良いって話だからさ。そのつてを頼って確かめてくれよ」
また、しばらくし考えてから、俺はあいまいに答えた。
「……気が向いたらな」