第一章 ― 1― 3 ※786文字
三十分後、俺はいつものように教室に入り、おはようと周りに声をかけ、席に着いた。
「おい、何で電話でなかったんだよ」
「電車の中だったからな」
このやりとりは、通算何度目になるんだろうなとうんざりする。
「直哉、話の途中だぞ、勝手に決めちまうがいいのか?」
向こうで、直哉の友人がいい加減にしろよといわんばかりに、こっちに声をかけてくる。
「まて、今行くから」
そう答えてから、俺のほうに向き直ると、話し出す。
「ちょっと、いい話だからさ。後でな」
目配せして、窓際のほうに戻っていく。そのいい話とやらが、百パーセントくだらない話で終わるのは、未来が分かっていなくても断言できる。だいたい、こいつがいい話とやらを持ってきたためしがないのだから。
そうだ。こいつがどんな奴だかということを話さないといけないな。
高橋直哉、中学三年から教室が一緒になり、友人として付き合いだした。どちらかといえば体育会系の女好きな奴で、もてたいという邪な理由で―本人曰くすごくまっとうな理由で―バスケ部にこの間入部した。ルックスもそれほど悪いわけではないが、彼女は今のままでいったらできない。社交性もある。俺の学校での情報源の三割はこいつからだ。
一方、俺の性格はといえば、大分内向的になってきた。中学卒業まではそうでもなかったのだが、人生に飽きてきたせいだと俺は思っている。どちらかといえば文系タイプな人間だが、全部赤点すれすれ人間なので、区分する意味も無いと思われる。諦めが悪いのと、少しばかり責任感があるのが、長所でもあり欠点でもあるところだ。外見については、普通とだけはいっておきたい。取柄は特には無いが、特殊能力が使えることは最初に書いたとおりだ。どんな能力かは、あえて伏せているが、勘のいい人ならもう気づいていると思う。まぁ、続きを読んでいただければ分かると思うので、ここでは説明しないで先に進もうと思う。