第二章 ― 3― 4 ※1202文字
○セーブ先
・頭:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日。
・左肘:能力に目覚めた日の夕方。四月第二週の火曜日。霧島が上野で殺人事件を起こした事を、テレビで知った直後に保存。
・左膝:平石行方不明ルート。放課後より前。四月第三週の火曜日。田中に平石がどうして来ていないのか聞くために、D組の前で保存。
・右つま先:一回目の高校卒業式後に保存。
・左つま先:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日昼休み。コンビニには行かず、寝て学校に来て直哉に平石を知っていると答えた後で保存。
・右肘:平石行方不明ルート。四月第三週の木曜日の朝。平石が車に乗って帰ったのを直哉が見た日。この日以降、平石は学校に来ていない。
・右膝:平石行方不明ルート。四月第三週の木曜日の放課後。校舎の屋上。平石に質問をする直前。
※基本的に何月何週は便宜上つけているだけで、作中では触れていない。
「何、難しい顔をしているのかしら。そんな難しい話ではないわ」
話の事なんてどうでもよかった。俺は、彼女がこっちに来ないかだけを注意していた。
「もっとも宗教じみたというかファンタジーな話だから、荒唐無稽に感じるかもしれないけど」
「なんでもいいから先を続けてくれ」
やれやれと首を振り東雲は続ける。
「最初に造物主は、奇跡の球と言うものを創った。この球を持つ人間は、あらゆる奇跡を起こせるようなるはずだったのだけど、人間には過ぎた力だと考え直して、粉々に砕いてしまわれた。その欠片が、奇跡の欠片。ここまで話して、本当にわからないとでもいうのかしら?」
本当も何も、荒唐無稽も何も、俺にはどうでも良かった。東雲が言っていることが本当かどうかなんて興味もないし、内容を理解しようとも思わない。とりあえず、嘘八百な感じはひしひしとと感じるが。
「いちいち、話をきらなくていいさ。続けろよ」
「残念。まだしらばっくれるようね。ならもう少し話すわ」
俺は、何か不思議な感じを覚え始めつつあったが、本当にそんなものがあるのかと考え始めたかといえば、そんなことはない。東雲がこんなくだらない話をしだしたかということに、疑問を感じ始めていたわけだ。
「球の分体である欠片は、一つの欠片で一種類の奇跡しか起こせない制限されたものとなったわ。それでも、造物主は満足しなくて、球のように手で持てば奇跡が起こると言う使用方法じゃなくて、欠片に触れた人間に溶けて、その本人しか奇跡を起こせないように直されたの。そして、欠片が体に入った人間は、瞬間に、今さっき言ったことが、すっと天啓のように分かり、奇跡の能力が使えるようになる。その欠片の状態で、ようやく満足して、全宇宙、時空、次元に散らばさせた。そして、私やおそらく貴方の体に入ったというわけ」
一呼吸してからさらに東雲は話す。
「それで、なぜ、私が奇跡的といったか分かったかしら?」
「全然」
俺は素直に答えた。
「奇跡の欠片は、無数にあるわ。何個に別れたかも分からない。それでも、全宇宙、時空、次元に散らばった欠片の二つが、こうしてめぐり合うなんて、ありえないことよ。この宇宙にだって、数多の星が散らばっているのだから。分かるかしら?」
彼女は本当に感動しているのか、少し声を上ずらせ、頬を上気させていた。
「……」
そんな東雲に俺は、見惚れていた。
「さぁ、こっちに来て、狭間君」
俺はその言葉の意味を理解する前に、断りにくい感じを覚え、ふらふらと前に進んでいた。
「私の奇跡の欠片は『感情』。人の感情を読み取ることができ、五感に訴え感情を操作することができるわ」
彼女は目の前までやってきた俺を、抱きしめた。強くきつく。ああ、なるほど。自分の話を聞かせること自体が目的だったのかと考えるも、そんなことはどうでも良くなっていた。東雲の柔らかく細い抱擁の前では。
「教えて、貴方の能力は?」
「俺は……」
……………………。