第二章 ― 3― 3 ※907文字
○セーブ先
・頭:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日。
・左肘:能力に目覚めた日の夕方。四月第二週の火曜日。霧島が上野で殺人事件を起こした事を、テレビで知った直後に保存。
・左膝:平石行方不明ルート。放課後より前。四月第三週の火曜日。田中に平石がどうして来ていないのか聞くために、D組の前で保存。
・右つま先:一回目の高校卒業式後に保存。
・左つま先:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日昼休み。コンビニには行かず、寝て学校に来て直哉に平石を知っていると答えた後で保存。
・右肘:平石行方不明ルート。四月第三週の木曜日の朝。平石が車に乗って帰ったのを直哉が見た日。この日以降、平石は学校に来ていない。
・右膝:平石行方不明ルート。四月第三週の木曜日の放課後。校舎の屋上。平石に質問をする直前。
※基本的に何月何週は便宜上つけているだけで、作中では触れていない。
やはり、東雲に問いかけるんじゃなかったかなと少しばかり後悔し始めていた。風がやけに冷たく感じるのは、四月にしては寒い今日だけだというわけではなさそうだった。
それにしても、訳の分からないことを聞いてくる。
「欠片? なんのことだ?」
「あら。そちらこそ、とぼけなくて良いのよ」
さっぱり意味が分からない。
「能力の内容自体を話したくないのは分かるけど、奇跡の欠片持ちということまで否定しなくてもいいじゃない。欠片を持っていなければ私に『感情を操作できる能力』があるなんて結論にならないでしょう?」
何を言っているんだ、東雲は。
俺にはさっぱり意味が分からなかった。自分で能力のことを話しだしたこと自体も驚きだが、意味不明な単語を言われて、俺の頭の中は完全に困惑していた。
「おかしいわね。本当に知らないのかしら。まぁ、いいわ。それじゃ説明しあげるわ」
「説明? 何をだ」
「奇跡の欠片の事よ」
「どうでもいい。そんなどうでもいい話より、これ以上、俺や平石に関わらないでくれ!」
これ以上、東雲のペースに付き合っているとけおとされると思い、話を元に戻そうとした。
「あら、そんなことこそ、どうでもいいわ。私と貴方がここで出会った奇跡に比べればね」
「どうでもいいっていってるだろう。あんたが、これ以上、平石に関わるって言うならこっちにも考えがある」
俺は表情を変えないようにしてはいたが、背中のあたりは得体の知れない不気味さのせいで、びっしょりと濡れていた。
「わかったわ。じゃぁ、こうしましょう。貴方は黙って私の話を聞く。そうすれば、私はあの一家に関わるのは止めるわ。それでいいでしょう?」
「……何を企んでいる?」
「何も。ただ、私は、貴方に私の感動を知ってほしいのよ。何がそんなに奇跡的なことなのかを。それを知ってもらえれば、後の事はどうでも良いわ」
……。何か危険な気もするし、約束を守らないかもしれないが、話を聞くだけなら、悪い取引ではない気はする。というか、取引にすらなっていない。こちらが完全に得をするだけだ。それが、逆に怪しかったが、聞くだけなら何も起こりはしないだろう。
俺は、また後ろに一歩下がり、頷いた。東雲は細めて微笑しつつ話し出した。