第二章 ― 3― 2 ※1233文字
○セーブ先
・頭:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日。
・左肘:能力に目覚めた日の夕方。四月第二週の火曜日。霧島が上野で殺人事件を起こした事を、テレビで知った直後に保存。
・左膝:平石行方不明ルート。放課後より前。四月第三週の火曜日。田中に平石がどうして来ていないのか聞くために、D組の前で保存。
・右つま先:一回目の高校卒業式後に保存。
・左つま先:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日昼休み。コンビニには行かず、寝て学校に来て直哉に平石を知っていると答えた後で保存。
・右肘:平石行方不明ルート。四月第三週の木曜日の朝。平石が車に乗って帰ったのを直哉が見た日。この日以降、平石は学校に来ていない。
・右膝:平石行方不明ルート。四月第三週の木曜日の放課後。校舎の屋上。平石に質問をする直前。
※基本的に何月何週は便宜上つけているだけで、作中では触れていない。
コツ、コツと車の窓を叩く。
俺は、録音したデータを残すため、あえて、右膝をロードしなかった。そして、今日、東雲が学校に来るように、全く同じ生活を今まで過ごしてきた。違いは、授業が終ってから俺は、報道部にはいかずにすぐ校門を出たことくらいだ。つまり、今、この時点からが、新たな未来に繋がる筈で、それを示唆するかのごとく、目の前の車の扉が開かれた。
「何の御用かしら?」
東雲が運転席の窓から顔を出す。
「話があるんですが、そこまでいいですか?」
俺は車の中に入るのを嫌い、向こうの交差点に見えるファーストフード店をさしていった。車の中に入れば身動きが制限され、体を触られる可能性が高まるだろうし、その点、店の中ならば闇雲に触ろうとして来ることもないと考えたからだ。余談だが、そこのファーストフード店は、放課後のうちの学校の生徒のたまり場になっていて、俺も過去に何度も利用したことがある。人目が多いからといって安心はできないが、車の中よりは数段ましだろう。
「いいわ」
もっと、渋るかと思っていたが、拍子抜けな事にあっさりと東雲は車を降りてきた。俺は少し間を取るために、車から離れる。
「あら、案内してくれるのではなくて? 狭間君」
驚きはしなかった。平石の周りにいる人間関係くらい調べないことも無いだろうと想定はしていたからだ。それより……。
「おっと、それ以上こちらに寄らないでください」
東雲が二歩こちらに歩んできたので、俺は三歩後ずさる。その端正な口を開いて、東雲は俺に話しかける。
「何か用事があったのではなくて?」
大人の貫禄からなのか能力者ゆえの余裕からかわからないが、微笑を浮かべている。
「なぜ、平石を夜逃げさせるんだ?」
俺は単刀直入に踏み込んだ。彼女を連れて店に向かうのはあきらめた。背中を向ければ何時触れられるかもしれないためだ。本当は、こんな場所で本題に入るつもりではなかったが、文字通り背に腹は変えられない。
「あら、そんなこと」
東雲は、胸元で組んでいた右手を、口元に持っていき何かを考えるような仕草を見せた。
「彼女の親御さんが、この町からでたがっているからよ」
涼やかな顔をして彼女は言う。改めて美しいなと思わされる凛とした顔だった。
「とぼけなくていい。あんたが仕組んだってことは、分かっているんだ」
「仕組んだ? 何のことかしら」
自然に意味が分からないというような表情を東雲は浮かべた。女って怖いなと思わざるを得ない。いや、東雲が尋常じゃないだけなのかもしれないが。女優顔負けの演技力だ。
「とぼけなくてもいいと言っただろ。あんたが平石の母親を操ったことは分かっている。俺は、何故そんなことをしたのかと聞いているんだ」
「あら、そんなこと」
彼女はまた、そう言った。失笑しつつ……。
「決まっているわ。ただの腹いせ」
何の躊躇も無く彼女はそう続けた。
「そんなことより、貴方、欠片の保持者かしら?」
東雲は、妖艶な微笑を浮かべていた。
その顔に、俺は鳥肌が立った。美しくもおぞましい顔に思えた。