第一章 ― 1― 2 ※832文字
しばらくして、俺は朝から何も食べていなったことを思い出した。なんのことはない、ただ腹がなっただけではあるが。出かけに際に取ってきたテーブルの上の朝食代で何かを買おうとコンビニに入ろうとする。入り口の前に立とうとする瞬間、携帯がなり、それにつられて、俺の体は入り口正面にたつも、視線はポケットのほうへと向いていた。
ドすっ!
コンビニの自動ドアが開いた瞬間、俺は出てきた何かと正面からぶちあたった。倒れ際、それが、サラリーマンであり、電話をしていたことが分かる。起き上がりながら、すみませんと謝るのと、向こうがうわっというのが同時だった。彼の手には携帯がなかった。かなり遠くに飛ばされたみたいで、こっちの謝罪など眼中に無い形相で、それを取りに走り出した。勢いで俺も、その後を追いかける。
俺が追いついた時には男は、電話を再開していて、こちらのことは眼中に無かった。一応、謝り続ける俺をうざいという感じで、手をふり追い払おうとしていた。入り口からアタッシュケースを持った別の男性客が訝しそうにこちらを見て、係わり合いにならないようにといった感じで、そそくさと、立ち去っていく。
俺はアホらしくなって、その場を離れることにした。もちろん、そのコンビニに入る気も全くなくなっていた。大体よそ見をしていた、俺も悪いが、電話をかけて意識散漫になっていた向こうも悪いはずだ。俺だけ、もやもやした気分になるなんてのは、腑に落ちないといわざるを得ない。
と、そこまで思って、俺は、思い出した。そうだ、電話だ。俺にもかかってきていたなと思いつつ、取り出す。もちろん、もうコールはしていなかったが、画面を切り替えて、着信履歴を見る。『高橋直哉』とある。なんて、間の悪さだ直哉のやつ。俺は悪態をつきながら、携帯をしまった。かけ直す気分にもならなかった。どうせ、学校にいけば会う奴だ。あと、ちょうど目の前に、違うチェーンのコンビニが見えたのもでかい。俺は、気分を切り替えて、そのコンビニの中に入った。