第二章 ― 2― 5 ※1334文字
○セーブ先
・頭:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日。
・左肘:能力に目覚めた日の夕方。四月第二週の火曜日。霧島が上野で殺人事件を起こした事を、テレビで知った直後に保存。
・左膝:平石行方不明ルート。放課後より前。四月第三週の火曜日。田中に平石がどうして来ていないのか聞くために、D組の前で保存。
・右つま先:一回目の高校卒業式後に保存。
・左つま先:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日昼休み。コンビニには行かず、寝て学校に来て直哉に平石を知っていると答えた後で保存。
・右肘:平石行方不明ルート。四月第三週の木曜日の朝。平石が車に乗って帰ったのを直哉が見た日。この日以降、平石は学校に来ていない。
・右膝:平石行方不明ルート。四月第三週の木曜日の放課後。校舎の屋上。平石に質問をする直前。
※基本的に何月何週は便宜上つけているだけで、作中では触れていない。
俺は、東雲が入った隣の応接室の隣に案内され、年齢と名前を聞かれる。相談ということで伏せたいと言うと、あっさりと了承してくれた。便宜上、狭間と名乗ることにしたが、弁護士は全く気にした風も無く、話を切り出してきた。
「狭間様は、どのようなご相談でいらっしゃったのでしょう?」
「携帯電話の請求なのですが、困ったことになってしまいまして、要望としては払わないようにできるか教えて欲しいのですが」
「要件としてはわかりました。どういった経緯か詳しく教えてください」
「実は先日、携帯をなくしてしまったのです。それで、後日、携帯は見つかって安心していたのですが、十万以上の請求がきてしまって、どうしたらいいのかと」
「つまり、無くしていた間に十万を超える額も電話を使われてしまったと?」
「そうなんです」
「無くした時に電話をとめられなかったのでうすか?」
「落としてから気付くまでに時間がかかったんだと思います。学校の落し物の中にあったので、学校内で無くしたと思うんですが、家で夜の八時位に充電しなければと思って無くしたことに気付いたんです。それですぐ電話は止めたのですが」
「学校では何時までは持っていたかということは覚えているんですか?」
「昼休みにつかったんで、それまでは確かに手元にあったと思うのです」
「なるほど。七時間ほどは通話ができた状況だったんですね。時間から考えますと、海外に電話をかけられたなども考えられますね。このことをご両親には相談されましたか?」
「いえ、先々月に電話代を使いすぎだと怒られていて、言い出しにくかったので。それで、内緒のまま請求をどうにかできないかと」
弁護士は、考える様子もなく即答した。俺もこんなくだらない嘘に弁護士をつき合わせていると思うと心苦しいので、即答してもらって早く終ってくれることは大歓迎だ。
「内緒のままということは難しいですね。それに、何かの犯罪に使われた可能性もありますので、警察に被害届を出されたほうが良いと思います。料金については携帯電話の契約会社との交渉によると思いますが、まず、支払うことになると思います。弁護士を挟んで交渉し金額を支払わなくてすむことになったとしても、弁護士代金を払うと同じような額になるので得策ではないと思います。もちろん、後に犯人が見つかった場合は、電話会社に払った金額を請求することはできます。何にしても、まず、ご両親に話してどのような対応をとるか決めたほうが良いと思います」
法律的な用語がもっと出てくるのかと思いきや、弁護士は懇切丁寧に俺に分かりやすく説明をしてくれた。俺は、申し訳ないと思いもこめて礼をすると、弁護士事務所を出た。まだ隣の話は終っていなかったので、事務所の前で平石の母親が出てくるのを待った。十数分して、慌てたように階段を降りてくる平石の母親を見つけると、わざとぶつかる。彼女はバックの中身をぶちまけ、俺は派手に転んでみせた。
「すみません」
俺は謝りながら、路上に散らばったバックの中の小物を拾うのを手伝う。
「気をつけなさいよ」
そういいながらも、俺の携帯をこちらに差し出しながら、平石の母親は言った。俺は深く頭をさげ、彼女のバックの中に入っていた俺の携帯を受け取った。