第二章 ― 2― 2 ※1725文字
○セーブ先
・頭:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日。
・左肘:能力に目覚めた日の夕方。四月第二週の火曜日。霧島が上野で殺人事件を起こした事を、テレビで知った直後に保存。
・左膝:平石行方不明ルート。放課後より前。四月第三週の火曜日。田中に平石がどうして来ていないのか聞くために、D組の前で保存。
・右つま先:一回目の高校卒業式後に保存。
・左つま先:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日昼休み。コンビニには行かず、寝て学校に来て直哉に平石を知っていると答えた後で保存。
・右肘:平石行方不明ルート。四月第三週の木曜日の朝。平石が車に乗って帰ったのを直哉が見た日。この日以降、平石は学校に来ていない。
・右膝:平石行方不明ルート。四月第三週の木曜日の放課後。校舎の屋上。平石に質問をする直前。
※基本的に何月何週は便宜上つけているだけで、作中では触れていない。
俺は戻ってくるなり、いつもの眩暈に襲われた。と同時についさっきの事を思い出すように確かめ底知れぬ恐怖を感じ、その場に倒れた。次に気づいた時は保健室のベッドの上だった。
「大丈夫?」
保健の先生に声をかけられ俺はゆっくりと体を起こす。
「すみません。ちょっと昨日の夜ねつけなかったんで」
「大丈夫そうね。顔色も戻っているようだし、五限目はじまっているから、終わるまでは寝ていきなさい」
その言葉に従い、俺は体を寝かせ目を閉じた。
どうでもいい昔話を思いだしていた。
俺は中学三年の時に週間少年漫画を読むのを止めた。読み続けていた連載漫画が終ったからだ。ただ、それでも気になっている漫画が一つだけあり、そのために友人にちょっとだけ借りるというような事をしていた。
ある日の事だった。友人に雑誌を貸してくれと頼み、その場で一つの漫画だけを読んで返した。そいつは不思議に思ったんだろう、俺に話しかけてきた。
「金でも忘れたか?」
「いや、俺が読んでいた漫画の連載が終ったから、読むのをやめたんだ。ただ、後一つだけ気になる漫画があるから読ませてもらったわけだ」
「終った漫画って何だ?」
二年くらい続いたその漫画はどちらかといえばマイナー漫画で、そいつは読んでいなかった。俺が読んでいた漫画の名前を教えても興味なさそうに空返事をした後、その雑誌の看板漫画は読まないのかと聞いてきた。それはバトル物で、購入者のほとんどはその漫画を読むことを目的にこの雑誌を買うのだから、当然の質問といえた。
「何ていうか、能力系のバトル漫画って、結局、そのバトルの状況次第で、勝敗が決まるじゃん? それで、その状況ってのが、作者のご都合主義すぎて嫌なんだよな。じゃんけんでパーはグーに勝つはずなのに、この状況のときだけ、グーでパーを貫けるみたいな理不尽さが何とも合わない。だから読んでないんだ」
「でも、昔の強さがインフレ起こしていくようなバトル漫画よりはましだろ?」
「いや、そっちのが俺には分かりやすかったよ。まぁ、前シリーズのボスが、新シリーズで雑魚っぽくなるとかそういうのはなんだかなぁとは思うけどな。能力系のバトルだって、結局、どんどん強力になっていって、結局、相手倒すのが状況次第ってのが現状だから、どっちもどっちだ」
「そんなもんか? ただ殴りあったり、エネルギー波だしてどんぱちやったりするより、無敵な能力の敵を倒すとかのほうがよっぽど燃えないか?」
「俺に言わせれば、最強の能力なんて作者の気に入った能力だと思うぜ」
「それは、ストーリ的には関係ないだろ?」
苦笑してからそいつは続けた。
「敢えて聞くが、狭間的にはどんな能力が最強だと思う? それがでてきたら、お前の言う通り面白くなくなったと思ってやるから教えろよ」
「いや、自動で発動する能力や、意識的に発動させる能力があるから何とも言えんな。それこそ自動的に発動する能力なんて状況次第だし」
「じゃあ、意識的な奴でいいよ」
「それなら、相手の感情を無条件で操作できる能力があったらそれが最強だろ。敵が自分から負けてくれれば労せずに勝ちだからな」
「何だそれ。つまんねぇな。もっと、こうあるだろ。時間を止めるとか、瞬間移動とか」
「いや、ないない。相手を攻撃しようと思った瞬間に、戦意をなくさせることができる能力があったらそれが最強だよ」
そんなことを思い出し、俺の体はまた震えだした。
セーブ時点を決めて、記憶だけを持ってその場にいつでも戻る能力。俺の能力は、要約するとこうだ。
だから、この震えは、記憶から想起された恐怖からきているのは言うまでもない。
つまり、今、平石との別れを思い出して恐怖している。
あの場面で、そんな恐怖するようなことがあったのだろうか? という疑問が聞こえなくも無い。
その問いに答えようと思う。平石と別れる時、俺は夜逃げの真相を聞こうとしていた。その気持ちが急速に萎えた。今、客観的にそれを思い出してみても、俺がその気持ちを萎えさせるなんてことは有り得ないことだ。だが、実際には萎えた。何故萎えたのか? 俺にはこうとしか考えられない。
萎えたんではなく、萎えさせられたんだと。
……その考えが浮かんだ時から俺の体の震えは止まらなくなっていたのだった。