第二章 ― 1― 8 ※1181文字
○セーブ先
・頭:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日。
・左肘:能力に目覚めた日の夕方。四月第二週の火曜日。霧島が上野で殺人事件を起こした事を、テレビで知った直後に保存。
・左膝:平石行方不明ルート。放課後より前。四月第三週の火曜日。田中に平石がどうして来ていないのか聞くために、D組の前で保存。
・右つま先:一回目の高校卒業式後に保存。
・左つま先:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日昼休み。コンビニには行かず、寝て学校に来て直哉に平石を知っていると答えた後で保存。
・右肘:平石行方不明ルート。四月第三週の木曜日の朝。平石が車に乗って帰ったのを直哉が見た日。この日以降、平石は学校に来ていない。
・右膝:平石行方不明ルート。四月第三週の木曜日の放課後。校舎の屋上。平石に質問をする直前。
※基本的に何月何週は便宜上つけているだけで、作中では触れていない。
異性から告白されるというイベントは、本来もっと感情が高まるものなのだろうか?
仮にそれが意中の人物でないにしても、相手が美男美女でなくとも、そして、その告白が別れの言葉の変わりだとしても。そんな感想を抱いているうちにも、平石の話は続いた。
田中と付き合い始めたのは、俺に振り向いて欲しかったからだ。
田中も全てを知って協力してくれた。
大分前に田中から俺宛にメールを出してもらって反応を伺ってみたが何も無かった。
もう駄目かなと諦めかけたところに、俺が報道部に来たことで、想いが再燃した。
冷たくすれば気になってもらえるかなと思って、昨日は追い払うそぶりをして見せた。
一緒に帰ってくれて嬉しかった。
これからずっと居ることができたなら、ちゃんと謝って告白するつもりだった。
話はこんな感じだった。
色々思うところはある。田中からメールをもらったのは、先週で大分前とは到底いえない。平石が勘違いしているか、田中が忘れていたかなのだろう。まぁ、そこは些細なことだろうが、なんか、俺が平石の感情に気付かなかったのが悪かったのかと思う反面、なんでこんな回りくどいことをしたのかと思わずには居られない。よしんば、気付いたとしても俺はどうもしなかっただろうと思う。
俺の中で、冷めたままそんなこんなを考えている間に、平石は返事はいらないと言い残し、先に屋上から降りていった。俺の人生初の告白を受ける場面は終わったみたいだった。おそらく、もう二度とないのだろう。だが、この体験をもう一度したいかと問われれば、迷わず否と答えるだろう。
こんな冷めた感情なのには理由がある。それは、平石の将来において、今告白してくれた感情など、いずれ消えていくものだったと俺が知っているからに他ならない。今さっき伝えてくれた彼女の言葉を借りて言うならば、『今までずっと好きだった、これからもずっと忘れないだろう』という言葉が、嘘とは言わないが、変わっていく感情だということは証明するまでも無かった。
きっかけはどうあれ、平石と田中はこの後ずっと付き合い続け、卒業後も同じ大学に行くために、受験勉強もがんばっていた。三年間の付合いの中で、二人の間に何があったかなんて俺が詳しく知っているわけでもないが、それなりの喧嘩とかもあったに違いないと思う。それでも、二人とも志望校に受かって卒業の日に一緒に校門を出てった姿は、俺には若干羨ましがったほどだ。
だから、平石を恋愛対象として見てはいないし、俺は平石には田中を見ていて欲しいし、このまま俺の恋人なんかになって欲しくはないとさえ、本気で思っている。もっとも、この告白後のシナリオとしては、そのまま平石はいなくなるのだから、そんな心配をする意味も無いが。
俺は、溜息をついてから平石の後を追って部室にむかった。それにしても、俺がこんなにもてるなんて有り得ないよなと訝しがりながら。