第二章 ― 1― 7 ※1106文字
○セーブ先
・頭:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日。
・左肘:能力に目覚めた日の夕方。四月第二週の火曜日。霧島が上野で殺人事件を起こした事を、テレビで知った直後に保存。
・左膝:平石行方不明ルート。放課後より前。四月第三週の火曜日。田中に平石がどうして来ていないのか聞くために、D組の前で保存。
・右つま先:一回目の高校卒業式後に保存。
・左つま先:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日昼休み。コンビニには行かず、寝て学校に来て直哉に平石を知っていると答えた後で保存。
・右肘:平石行方不明ルート。四月第三週の木曜日の朝。平石が車に乗って帰ったのを直哉が見た日。この日以降、平石は学校に来ていない。
・右膝:平石行方不明ルート。四月第三週の木曜日の放課後。校舎の屋上。平石に質問をする直前。
※基本的に何月何週は便宜上つけているだけで、作中では触れていない。
本当に、俺は思った。世の中って言うのは、何がどう転ぶか分からないものだ。ただ、気持ち悪くてうずくまったことが、平石の琴線に触ふれ、こうして平石が自ら失踪に関して喋りだすなんて、少しも考えはしなかった。
「……全部さよならって、何だ?」
俺は驚いた風を装って、階段を一段上る。
「……っ!」
平石は、自分で何を口走ってしまったか、今気付き、慌てて口元を押さえた。
「……」
俺は、無言のままもう一段上る。平石が俺を見下ろしていたが、しきりに首を振っていた。また、俺が一段上ると、もうその場に居続けることに耐えかねたのか、きびすを返し屋上へと走っていってしまう。
「おい、平石!」
俺は慌てて屋上へと駆け上がると、平石を呼び止めた。まさかとは思うが、その慌てぶりが俺の想像をよからぬほうに導いたからだ。
しかし、それは杞憂だった。屋上の真ん中で、平石はこっちを向いて、俺を待っていたようだった。
「私、やっぱり狭間君には言っておかないと駄目だ」
「……田中に……じゃなくてか?」
平石は、深く頷いた。
「私、今日ここから居なくなるんだ」
「何をいっているんだ?」
「父さん、社長だったんだけど……。会社つぶれちゃって。厳しい取立てに耐え切れなくなって夜逃げ……」
やはりなと思う一方で、俺の中には激しい違和感が湧き上がってくる。しかし、それがどこから来た違和感なのか考える暇も無く、平石は続ける。
「あそこに、黒い車見えるでしょう。あれ、夜逃げ屋さんが用意した車なの」
例の角に止まっている車をさして、平石は一息つく。
「……夜逃げ屋ってなんだ……」
「弁護士さんがそういうのを組織していて、うちも助けてもらうことになったの」
弁護士って、あそこの弁護士事務所か? 俺の頭には平石の母が入っていった弁護士事務所が頭に浮かぶ。それでも話の腰を折るわけにはいかなかったので、その疑問は、封印した。
「だから、今日でお別れ。本当は、授業が終わったらすぐにってことだったんだけど、狭間君と少しでも話したくて、部活終わるまでにしてもらった」
「確かにそういうことなら、ストーカー対策も万全ということだな。心配しないでって伝えたかったわけか」
「そうじゃない! 言わなかったら後悔すると思っってしまったから、今さっき、そう思ったから、言うよ]
平石は、一回だけ深呼吸をした。
「私、狭間君が好き」
彼女は、真剣のようだった。
「おい、また昨日の続きか? 二度目は引っかからないぞ?」
俺の言葉に涙を流して首を振っていた。紛れもなく本気だということが伝わってきた。
それでも平石には悪かったが、どことなく虚しい気持ちに、俺は襲われていた。
「お前、本気か? 田中と付き合っているんじゃなかったのか?」