第一章 ― 1― 1 ※777文字
俺は目を開いた。能力に目覚めた日の朝だった。
夢の中で能力の説明をしていたので、その日起きた時は、我ながらなんて幼い夢を見るんだと思いつつ、頭を右手でこづいて、小さい声で単語を呟いていた。
今日はそんなこともなく、俺は火曜で学校もあるがベッドに入り込んだ。両親はともに早くから会社に行っていたし、電車が事故って一時間ほど不通になるのを知っていたからだ。
ちなみに言っておくが、俺にはつかずはなれずの魅力的な幼馴染やら、優しくかわいい妹やら、できる美人の姉なんていうのはないので、そこらへんを期待している奴らがいたらさようならだ。世の中そんな便利にできていたら苦労しない。
さて、ベッドに入りながら俺は考えていた。このまま寝た後に学校に行っても、普段と何の変わり映えの無い、日常が待っている。それは間違いない、分かっていた。かといって、一時間程度の降って沸いた時間では、特別に何かをすることもできないだろう。
事実、俺の選択肢の中には《寝る、漫画を読む、ゲームをする、テレビを見る、予習をする》しか現れていなかった。しかし、漫画もゲームもテレビも、すでに内容は知っている。改めてするまでも無い。予習は、正直したくなかった。というか、今の現状がすでに予習を終えた身だしな。
そうすると、もう寝るしかないわけだが、それでは、折角書き始めた手記の最初としては物足りない。
結局、俺は面倒なのを我慢して立ち上がると、いつも通りの時間に家を出た。
十分後、俺は駅を超えて線路沿いに歩いていた。学校までというのではない。各駅停車で五駅、三十分もかかる道のりを、一時間でいけるはずも無い。ただ、普段とは違うことをしようと歩いていただけだ。
まぁ、こんなことでダイヤモンドのように硬い変わらぬ日常が、どうこうなるとは思ってもいなかったが、少なくとも、気分は変わるだろうと思ってのことだった。