第二章 ― 1― 1 ※1008文字
○セーブ先
・頭:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日。
・左肘:能力に目覚めた日の夕方。四月第二週の火曜日。霧島が上野で殺人事件を起こした事を、テレビで知った直後に保存。
・左膝:平石行方不明ルート。放課後より前。四月第三週の火曜日。田中に平石がどうして来ていないのか聞くために、D組の前で保存。
・右つま先:一回目の高校卒業式後に保存。
・左つま先:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日昼休み。コンビニには行かず、寝て学校に来て直哉に平石を知っていると答えた後で保存。
※基本的に何月何週は便宜上つけているだけで、作中では触れていない。
俺は、校舎の正面玄関を出たところに居た。
目の前では、卒業生たちが、色々な所で集まり、記念写真を撮っている。文芸部の部長が俺を呼んでいた。面倒くさいなと思いながら右つま先を触りつつ『セーブ』と呟いた。
「おい、行来。何してんだ早くこいよっ!」
卒業記念という心境には程遠い。明日からは浪人生活だ。
何百日もかけての受験勉強が無駄になったことが虚しくて仕方なかった。何回も何回も冬期講習を受講し、志望校の試験も何度も受け直した。しかし、結果は変わらなかった。どう足掻いても、不合格の三文字は変わらなかった。
俺の努力が足りなかった訳ではない。受けるたびに変わるテスト問題。それなのに、掲示板に張り出される、合格者の受験番号は変わらない。俺の人生は、すでに決まっていると運命に宣告されたといって間違いないだろう。
思えば、こうなる兆候はあった。数字あて宝くじ。あのくじのあたり数を覚えて買った事がある。はずれた。もちろんあたりの数字は変わっていたが、少なくても、同じ人間が当たっているとは、俺は考えていなかった。何回も買えば、ランダムで自分も当たるだろう位に思っていた。
だが、今度の受験のことで、俺は悟った。人生は、決まっているのだと。
「何、不景気な顔をしているんだよ、先行ってるぞ」
直哉が後ろから、鞄を叩きつけてきた。こっちの気も知らないで陽気な奴だ。校門のあたりで後輩が直哉を待っていたが、その中には女も混じっている。もてたいという奴の当初の願望は満たされたようなのだが、彼女を作る気は無いらしい。どうもピンとくる娘がいないらしい。どうも、平石の事が未だに気になっている、結構女々しい性分だというのは、俺だけが知っている事実だ。
「悪いな、待たせた」
俺は、気をもんでいる文芸部部長に謝って、写真におさまった。
ひとしきり、卒業後の開放感を味わいつつ、その裏では寂寥感がじわじわと襲ってくる。女子の泣き声がそれを助長させる。俺は、何一つ面白いことが起きなかった学校を見上げ、少しため息をつき、校舎を出ることにした。この後、友人と待ち合わせて遊びに行くことになっていたのだが、皆、部活のほうに挨拶に行ったりして、俺だけが少し時間をもてあましていたからだ。この空気の中にいるのも嫌だったので、そこらへんをぶらついて暇をつぶすつもりだった。
校舎を出た瞬間だった。
俺の体は、宙を待っていた。眼下にトラックが見える。
そして、何も見えなくなった。