第一章 ― 4― 6 ※1757文字
○セーブ先
・頭:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日。
・左肘:能力に目覚めた日の夕方。四月第二週の火曜日。霧島が上野で殺人事件を起こした事を、テレビで知った直後に保存。
・左膝:平石行方不明ルート。放課後より前。四月第三週の火曜日。田中に平石がどうして来ていないのか聞くために、D組の前で保存。
・右つま先:一回目の高校卒業式後に保存。
・左つま先:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日昼休み。コンビニには行かず、寝て学校に来て直哉に平石を知っていると答えた後で保存。
※基本的に何月何週は便宜上つけているだけで、作中では触れていない。
夜、八時十二分。時間通りだ。俺はスピードを落とし、丁度改札を出てきた彼女に声をかける。
「あれ、平石じゃないか。今、帰りか?」
頭の中で何度も繰り返してきた演技が、ぎこちなくなかったか不安な一瞬。それが、杞憂で終わった瞬間。平石は、振り向き様、大きく目を開き言葉に詰まる。一呼吸あけてから、平石は返事をした。
「なんで、こんなところに居るの? もしかして、後ろつけてきた?」
「そんな暇じゃない。たまたまだ。自転車、この駅に止めてあったんだ。今日、電車が止まったから、ここまで着てさ」
内心、汗を出しまくりながら、表情は崩さない。
「びっくりしたわ。ストーカーかと思ったよ」
正解。空間ではなく時空間を追ってきている違いはあるが。今朝のD組の前まで『ロード』で戻り、報道部入部イベントをこなし、今度は下駄箱で別れ、平石が改札を出てくる八時十二分までここで待ち構えていたわけだ。
少し青くなっていた平石に、心の中で深く謝る。表面上はあくまでもおどけた感じで続けるのだが。
「そんなに驚かなくてもいいだろう。声かけて軽く後悔だな」
「悪かったわ。で、ストーカー君はどのあたりまでついてくる予定なのかしら?」
少し元気を取り戻した平石は、嫌味っぽく尋ねてきた。平石と仲が悪くなるフラグは避けられないのかと焦りつつも、俺は事前に考えていた帰宅ルートを教える。もちろん、なるべく平石の家の近くまで進みつつ、自宅に帰るのに不自然ではない道だ。
「あれ、途中まで一緒じゃない。仕方ないけど、途中まで一緒に行く?」
スムーズに事が運んだと、小躍りしたいくらいだ。ここで、追い払われたらどうするかといろいろ考えていたことが無駄になったが、大歓迎だ。
「そうだな」
と自転車を降りて、平石の隣を歩き始めた。
自転車の籠に平石の荷物を預かりながら、俺は考えてきた話題を振ろうとする。
「狭間君、少し変わったよね?」
あっさりと出鼻をくじかれた。
「中学のときは、自分から話かけてくるタイプじゃなかったよね」
「そうか?」
「そうだよ。ずっと休み時間になっても自分の席から立ち上がらなかったし、化学部の部室でも隅でひっそりとしていたじゃない」
「そうだったか? 別に黙りこくってたと言うつもりも無いけどな」
「そうかもね。不思議と周りに人が居ないって事はなかったわ。そのくせ、自分から人に声かけることはほとんど無いのよね」
何か、絡まれているような、喧嘩を売られているような気がするのは、俺の気のせいだろうか?
「狭間君は知らないだろうけど、書道部の部室に行く途中で私は、何回も化学部の部室で一人でいる狭間君を見かけてたのよ。それで、話しかけようと中に入ろうとすると、必ずすぐ人が集まるのよ」
そんな事がある分けないよな。俺の中学時代だぞ?
何をどう間違ったらそんな有名人みたいなことが起きるんだ?
誰かと勘違いしているんじゃなかろうか?
俺の頭にハテナマークがひらひらと舞い始める。誰か別人と勘違いしてないかと、のど元まで出かけるが、そこは我慢する。
「あ~あ。思い出してきたら、腹が立ってきたわ」
何だ、この理不尽なフラグなたちかたは……。どうやっても、運命とやらは平石と俺を険悪なムードにしたいらしい……。
「そういえば、何で平石は書道部に入ったんだ? 高校では報道部なのに? いやむしろ、何故高校で書道続けないんだ?」
何とか雲行きを変えるため。話題をそらそうとするが……。
「別に好きで書道部に入ったわけじゃなかったから止めただけよ。何か文句ある!?」
逆にそれが逆鱗に触れることになった。本当に訳が分からない……。釣り目になった平石の剣幕に俺は、もう何と言っていいか分からない。
「大体、いつでも狭間君は、間が悪いのよ。さっきだって急に声かけてくるし、唐突に報道部に入部してくるし、なんで、もっと早く行動しないのよ。本当にタイミングがなってない」
早いとか、タイミングとか何のことだ。誰か教えてくれ。
「お、落ち着け、とりあえず、分かったから」
そんな言葉位で落ち着かないだろうと思っていたが、なだめるためにもそういわざるを得なかった。
「…………」
忽然として、平石のその口から言葉が漏れなくなった。俺の言葉に反応したわけではない。背中で何かガサガサと音がした途端に、平石は言葉を失い、俺の右腕にしがみついていた。