第一章 ― 4― 1 ※1593文字
○セーブ先
・頭:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日。
・左肘:能力に目覚めた日の夕方。四月第二週の火曜日。霧島が上野で殺人事件を起こした事を、テレビで知った直後に保存。
・左膝:平石行方不明ルート。放課後より前。四月第三週の火曜日。田中に平石がどうして来ていないのか聞くために、D組の前で保存。
・右つま先:一回目の高校卒業式後に保存。
※基本的に何月何週は便宜上つけているだけで、作中では触れていない。
手記を書き始めてから、能力に目覚めた日の四度目の朝。やる気も無く、ただ、流されるように学校に着き、挨拶をし、昼休みを迎える。
「D組の平石って知ってるか?」
「……ああ、知っている」
直哉の問いに、答えるのもかったるい。
「何だ、知っていたのか、なら話は早い」
「早くない、断る。お前の色恋沙汰に付き合うつもりは無い」
そう断っても、このイベントは強制的に続く。本当にこの世界の仕組みを作った奴を呪ってやりたい。
「そう言うなよ。あのカメラを構えた姿を見たら、お前だって間違いなく惚れるさ」
「そんなことは、ありえない」
「じゃぁ、賭けようぜ。お前が報道部に入って彼女に惚れたら、俺の勝ちだ。お前は、その想いを断ち切って彼女と俺との仲を持つ。お前が惚れなかったら、彼女に興味が沸かなかったと言うことで、お前にはどうでもいい相手なんだから、彼女と俺との間を取り持つ。どうだ?」
「どうだもこうだもない。どの道、俺が仲をとりもつんじゃないか。そんな馬鹿な賭けに乗るわけ無いだろ」
「そんな事言うなよ。彼女は俺のことが好きなんだよ……」
その後、延々と直哉の勘違い話を聞かされる。
「だからさ、報道部には入らなくてもいいから、お前の友達から、彼女の気持ちを聞いてみてくれよ」
そう言って、直哉は食堂を出て行った。
俺は、一体どうしたらいいんだろうな。時間を行き来することができる能力を手に入れたからといって、世の中の不条理さは、どうやったって変わらないらしい。
退屈な日常を何とかしようと思って、ちょっと変わったことをしたら、理不尽が倍返しになって襲ってきやがる。俺が、コンビニに寄っただけで、何で殺人事件やら夜逃げやら窃盗やらが起きなければいけないんだ。風が吹けば桶屋が儲かるばりに、全然関連性が無いことが、さも必然の用に起こりやがって。
起こるならわらしべ長者のように、良い事方に回るように起これってんだ。これじゃ、どこの部に入ったところで、何も得るものは無いんじゃなかろうか?
部活動と言えば、平石はどんな気分で、今、報道部に仮入部しているんだろう。
夜逃げしないこのルートにしたって夜逃げする何かしらの原因を、この時点で、一家のうちの誰かが持っているだろう。そうじゃなきゃ、一週間後と言う早い段階で夜逃げなんて無いだろうからな。
まぁ、平石がそののことを知っているとは限らないか……。
俺の中で平石へ申し訳ないという気持ちが、どこかにあった。このルートなら俺は平石に迷惑をかけていない。単純に考えれば、そう、割り切っても問題なかったはずだ。しかし、俺は、割り切れなかった。平石のためにも、やはり、平石家に起きたことを知っていたほうが良い気になっていた。このまま、夜逃げしないルートを進んでいくにしても。
俺は、左つま先にこの時点をセーブすると、頭を触って『ロード』と呟いた。
もう、回数を書くのもやめよう。能力に目覚めた朝に戻ると、自転車に乗って俺はコンビニにたどり着いた。内心で霧島や、窃盗犯になってしまう男――いいかげん呼びづらいから橘にしよう――に詫び、絶対この後元に戻すと誓いながら、平石家夜逃げのフラグを再度立てる。
そして、直哉に平石のことを知らないと告げて、D組で平石を確認する。
「な、かなりかわいいだろ?」
そうかもしれないな。俺もなんか、色眼鏡をかけたくもなってきたさ。かわいくないことも無い、かわいいかもしれない、きっとかわいいのだろうさ。
「まぁ、がんばってくれ。俺がどうやってこんなことに協力できるというんだ?」
お約束の言葉を答える。
「お前の中学の友人が彼女と仲良いって話だからさ。そのつてを頼って確かめてくれよ」
また、しばらくし考えてから、俺はあいまいに答えた。
「……気が向いたらな」
もちろん俺は、田中に話を聞く気なんて、無かった。自分で何とかするさ。放課後、俺は仮入部届けを持って、報道部部室の扉をたたいた。