第一章 ― 3― 7 ※1172文字
○セーブ先
・頭:能力に目覚めた日の朝。四月第二週の火曜日。
・左肘:能力に目覚めた日の夕方。四月第二週の火曜日。霧島が上野で殺人事件を起こした事を、テレビで知った直後に保存。
・左膝:平石行方不明ルート。放課後より前。四月第三週の火曜日。田中に平石がどうして来ていないのか聞くために、D組の前で保存。
・右つま先:一回目の高校卒業式後に保存。
※基本的に何月何週は便宜上つけているだけで、作中では触れていない。
何で一回目と目の前で起きた事件に差は無いはずなのに、平石のところで差異が出てくるのだろうか? いや、そんなことは無い、差はあったはずだと、もう一度、俺は頭の中で整理してみる。
一回目や二回目でも、三回目でも――正確に言えば、今回の事件と言うわけではないが――上野の事件は起きなかった。コンビニの事件も両方とも犯人は逮捕されたからだ。
っと、ここで、俺は先入観に気付いた。そうか、一回目のコンビニの事件の顛末を俺は見ていないではないか。犯人が捕まったというのは、俺の思い込みだ。本当は、一回目は犯人が捕まっていないのではないか?
でも、犯人が捕まらなければ、上野の事件が起こるはずだ……。
結局考えても分からない。実地で見てみるしかないと、俺は、またまたまたまた、能力に目覚めた日を『ロード』した。
正確に一回目や二回目の再現はできないので、俺は最初からコンビニに入らず、影でこそこそ、中の様子を探ることにした。時間が来て、アタッシュケースを盗んだ男が中に入る。続いて、霧島が中に入る。店員が霧島に注意して、そこで差異が生じる。俺がそこに居ないのだから当然だ。まず定員がレジに戻り、アタッシュケースを盗んだ男が、アタッシュケースを持ったまま店員に話しかけている。そして、店員にアタッシュケースを預けると、そのままコンビニを出た。
俺のショックを想像してもらえるだろうか? 後頭部を巨大な鈍器で殴られたようにめまいを覚えた。
俺は、上野の事件を防ぐつもりでここにきて、それを防いだ。が、今度は、窃盗犯を作り出していたのだ。俺が関わらなければ、その男は今見たように、善良な心で、アタッシュケースを店員に預けていたのだ。それを、店の中に俺が居て店員に声を翔れない状況になっていたがために、魔が差してアタッシュケースを盗んでいったのだ。そして、この男が留置所に連れて行かれたことが原因で、平石の家はああなってしまったのだろう。
…………。
そうだ……。ショックを受けている場合ではない。
本当にこんなことをして何になるのか分からないが、俺は、この男の後をついて行くことにした。また今朝に戻り、そして、寝て学校に行けば、何の問題もなくなることは確かなのだ。上野の事件も、コンビニの事件も、平石の家もみんな元通りで。俺がこれを調べていることには、何の意味も無い。正真正銘、俺の自己満足だ。周囲に迷惑ばかりを振りまいての……。
そう考え、もう追いかけるのをやめようと思った時に、男はビルの中に入っていった。ふと見ると、弁護士事務所と看板があった。続いて、他の客らしき女も階段を登っていく。男がドアを開けて弁護士事務所に入り、次いで女性が中に入ったのを見届けてから、俺は、戻ることにした。このまま、学校に行っても遅刻となるので、それを避けるために、ロードをすることにした。
……頭を抱えて。