第一章 ― 3― 2 ※788文字
「平石が、四日間着てないんだ」
おいおい、未練たらたらだな、人の彼女だと言うのに。
「それが?」
無関心を装い俺はいった。内心は焦っていたのだが。
「お前、調べてくれ」
苦虫を噛み潰したように、直哉は言った。
「おいおい、勘弁してくれよ。とばっちりで恨まれるのはごめんだ」
まぁ、そう言われるのは、奴も想定内だったのだろう。この間のことを謝りながら、再度頼んでくる。
「お前、人の彼女じゃないか、放っておけよ」
「いや、そうじゃないんだ。そんな気持ちがないかといったら、正直に言えばあるが、それだけじゃない」
「ほう、じゃぁ、何だ?」
俺は尋ねた。俺の知る未来では、平石が休むって話は無かったし、明らかに何かでフラグが立てられた気がして、俺の焦りは大きくなっていった。
「いや、先週の帰り、学校を出る時に彼女を偶然見かけたんだが……」
「それで?」
「校門を出てちょっといった角で、待ち構えていた背広の男と車に乗ってどこかにいってしまったんだ。その時は、家からの迎えかなんかだと思ったんだが。というのも、彼女は電車通学だったからな。でも、今、思い返してみれば、あの翌日から、彼女は来てないんでな、気なるんだよ」
こないだのコンビニの件でこんなことが起こったんだろうが、かといって、今の聞いた話と例の事件とがどう結びつくのか、俺にはさっぱりわからない。
「D組の奴らも担任から風邪だとしか聞いてないらしくてな、例の彼氏からそれとなく話を聞いてきてくれよ」
「それは、まぁ構わんが、お前も変な奴だな。どうでもいいことじゃないか」
「それはそうだが、なんかこう、胸につっかえがあるというか、気持ち悪いだろ?」
その感覚は、俺にはよく分かる。
「しかたない、骨を折ってやるけど、後で文句言うのは無しだぜ。それと今度何か奢れ」
奴は頷くと自分の席に戻っていった。おめでたい奴だと俺は自嘲する。半分以上俺のせいだと言うのにな……。