『びん底眼鏡のオタク令嬢、麗しの騎士団を推していたら公爵様に見初められました』
リリアーナ・ベルンシュタイン侯爵令嬢。
社交界での彼女の評判は――。
「地味な令嬢よね」 「いつも分厚い眼鏡をかけているわ」 「髪も適当だし……」
そして、誰も知らない。
彼女が――。
「今日も麗しの騎士団が尊い……!」
重度の騎士団オタクであることを。
リリアーナの部屋には、騎士団の紋章入りグッズ。
騎士たちの活躍が載った新聞の切り抜き。
歴代騎士団長の肖像画。
さらには――。
「第三騎士団の副隊長様、今日も素敵……!」
推し騎士の似顔絵まで飾られている。
彼女は今日も社交界の片隅で、分厚いびん底眼鏡越しに騎士たちを眺めていた。
「はぁ……。麗しの騎士団……最高……」
そのとき。
「リリアーナ嬢」
「はい?」
声をかけてきたのは、公爵家当主。
アルベルト・クローディア公爵だった。
銀髪に青い瞳。
誰もが振り返るほどの美貌。
女性たちの憧れの的だ。
しかし――。
「……どちら様でしたっけ?」
「…………」
公爵の笑顔が固まった。
「私はアルベルト・クローディア公爵だ」
「ああ!」
リリアーナは納得した。
「騎士団の予算を増やしてくださった公爵様ですね!」
「……そこなのか?」
「はい! 素晴らしいお方です!」
公爵は少し嬉しそうにした。
だが。
「でも私は騎士団の皆様のほうが好きです!」
「…………」
公爵の笑顔が消えた。
その日から、公爵はなぜかリリアーナのことが気になり始めた。
ある日。
「リリアーナ嬢」
「はい?」
「その眼鏡を外したことはあるのか?」
「ありません」
「一度も?」
「推しを見るために必要なので」
「……そうか」
公爵は複雑な顔をした。
そして舞踏会の夜。
リリアーナは転んで眼鏡を落としてしまった。
「あっ!」
公爵が拾い上げる。
「これか?」
「ありがとうございます」
眼鏡を外したリリアーナの顔を見た瞬間――。
公爵は絶句した。
そこにいたのは。
大きく澄んだ瞳。
柔らかな頬。
長いまつげ。
可憐で愛らしい――美少女だった。
「…………」
「公爵様?」
「……君」
「はい?」
「眼鏡を外すと……そんな顔だったのか」
「変ですか?」
「違う」
公爵は顔を逸らした。
耳が赤い。
「……反則だ」
「?」
ところが本人はまったく気づいていない。
なぜなら――。
「あっ!」
リリアーナの視線が公爵の後ろに向く。
「騎士団の皆様!」
「…………」
公爵が振り返る。
そこには王国騎士団が勢ぞろいしていた。
「素敵……!」
リリアーナは目を輝かせる。
「今日も皆様、麗しい……!」
公爵は無言で彼女を見る。
そして思った。
(……私では駄目なのか)
麗しの騎士団には勝てない。
だが――。
(それなら、私が彼女の一番になればいい)
こうして。
騎士団オタクの美少女令嬢を巡り、麗しの公爵様の密かな恋が始まった。
ちなみに本人は――。
「公爵様って、騎士団の皆様と仲が良くて羨ましいです!」
「……そうか」
「はい!」
「……では、私も騎士団の一員になろうか」
「えっ!?」
公爵様、まさかの推し枠への加入を決意。
しかしリリアーナはまだ知らない。
彼女が一番熱心に推している騎士団員の中に――。
公爵様本人が変装して混ざり始めていることを。




