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召喚聖女はケモノです!?

作者: 裏山かぼす
掲載日:2026/04/01

実は他に書いている「同人女の異世界召喚」という作品ですが、なんと書籍化しています。

web版とはちょこちょこ違いがあるので是非購入して読んでみて下さい!

感想を書いていただけたらとても喜びます!

https://sutekibooks.com/items/book018-2/

 ――聖女。

 この世界においてその存在は、異世界より招かれし聖なる乙女のことであり、国に幸福をもたらすとされている。

 そしてこの世界、異世界アストロスに存在するクリスタロス王国で、今まさに聖女召喚が行われようとしていた。




「――母なる太陽と父なる月よ、そして宵闇の賢者たる星々よ。クリスタロスの地に住まう民草の声を聞き、導きたまえ!」


 筆頭魔術師の朗々たる詠唱が完成すると同時に、聖女召喚の魔法陣は眩い光を発し始め、陣を成す魔石チョークがあまりの高負荷に悲鳴の代わりに煙を上げる。高濃度の魔力のせいでキィンと耳鳴りのような音が響く。


 眩い輝きが魔法陣の中央に集まり、収縮し、より輝きを増して――。

 ぱぁんと弾けて、白い煙が上がった。


「やった、成功だ!」


 白い煙は召喚成功の証拠。その場に居た者は皆一様に目を輝かせ、煙が晴れ聖女が姿を現すのを今か今かと待つ。


 そうして、煙の中から現れたのは――。


 黒くて大きい、毛むくじゃらだった。


「何この……何?」


 魔術師の一人が呟いた言葉は、この場にいる全ての人の気持ちを代弁したものであった。

 ネコでも、クマでも、タヌキでもないその獣は、キョトンとした様子でブラウンの瞳を一番近くの人間――筆頭魔術師に向けていた。


 大きさは犬のコーギーくらいだろうか。ずんぐりむっくりな体型のその生き物は、やや短足気味の体型で手足は太く、熊のものと形状こそ似ているものの短い爪がにょっきりと生えている。何より特徴的なのはその長く太いしっぽだ。体長と同じかそれ以上の長さで、手足と同じくらい太い。

 被毛は黒一色ではなく毛先が白っぽいため、白黒グレーのモザイク柄のように見える。毛艶自体はあり野生っぽくはないが、ボサボサの毛質のせいかお世辞にも触り心地が良さそうとは言い難い。長毛でも短毛でもない中間くらいの毛量だが、耳の毛だけは少し長く、ぴょいんと伸びて特徴的なシルエットになっていた。

 顔つきは極東の島国に生息しているタヌキという生物にどことなく似ているが、瞳は猫っぽく、色合いや大きめの獣ということもあってか、人によっては怖いと感じてしまうだろう。


 その正体は「ビントロング」という生物なのだが、この世界の住人にそのことを知る者は居なかった。


「ええと……君が聖女様……?」


 筆頭魔術師が一歩近づきそう呼びかけるも、人語での返事は返ってこない。代わりに、ム゛〜……という低い声が返ってくる。犬ほどではないにしろ、毛を逆立てて顔をムキッとしかめているところから、威嚇されているのは確かなようだった。


 筆頭魔術師は二の句を継がず三歩下がった。


「せ……聖女ではないかもしれないが、聖獣が召喚されたのかもしれない! そこの、早く鑑定機を起動させるのだ!」


 召喚された聖女と結婚する予定だった第二王子は困惑しつつも声を上げ、先程この場全員の気持ちを代弁した魔術師に指示を出す。


 魔術師があわあわと用意していた鑑定機を荷台で移動させようとするが、荷台を動かすゴロゴロという音に驚いた獣は弾かれたように――と言っても四足歩行の獣にしてはかなりスローリィな動きだが――駆け出すと、背後の女神像に登り、あっという間に頭の上まで到達してしまった。不敬な! と神官長が叫ぶも、獣に人語は分からないのか、じっと人間達を見つめるだけであった。


 仕方ないのでそのまま鑑定機を起動し、なんとか対象を測定するためのレンズにその姿を収める。

 頼む、聖獣であってくれ。魔術師の呟いた独り言に第二王子は心の中で激しく同意した。


 鑑定結果が水晶パネルに表示される。そこに書かれた文字を、魔術師は震える声で読み上げた。


「異世界から召喚された……聖女、です……」


 第二王子は膝から崩れ落ちた。


「ス、スキルは!? スキルはどうなんだ!」


 背後に星空を背負っていた騎士団長が我に戻るや否や、慌てて鑑定機に駆け寄り鑑定結果を見る。

 幸いにも、スキル一覧には「治癒の奇跡」や「豊穣の奇跡」といった、過去に召喚された聖女同様のスキルがずらりと載っている。中には見た事のないスキルもあったが、それは聖女にはよくある事なので気にはならなかった。


 安堵した騎士団長は大きく息を吐くと、良かった……本当に……、と様々な感情の入り交じった呟きを漏らした。


 しかし、遅れて水晶パネルを覗き込んだ神官長が言う。


「名前が表示されない、だと……?」


 否。正しくは、表示されているが、幾つもの文字が重なっていて読めない、という状態だった。


 聖女の恩恵を受けるには、契約者と聖女が互いに名を告げ、魔術的な契約をしなければならない。

 名を告げると言っても双方が互いの名を理解していれば問題は無い。過去に喋れない聖女が召喚された時は、鑑定機で読み取った名前を使って契約した前例もある。


 だが、今回はそれが出来ない。何せ今回の聖女は物言わぬ獣なのだ。名前を聞き出そうにも、人の言葉が喋れないので意思疎通が不可能である。


「あまり使いたくはないですが、やむを得ません……記憶の写し水をここに!」


 万が一に備えて用意していたマジックアイテムを持ってくるよう、神官長は部下に指示を出す。

 記憶の写し水とは、対象の体の一部を沈め、そこに顔を浸けると対象の記憶を覗き見ることの出来る不思議な水のことである。あまり長時間記憶を覗き見続けると意識が対象の記憶とシンクロしてしまい、自我が曖昧になってしまう危険性を孕んでいるものの、背に腹は代えられない。


 幸いにも獣から落ちたらしい体毛が床に落ちているのを見つけた神官長は、部下の神官が準備した桶にその体毛を落とす。たった一本の毛しか落ちなかったはずだが、妙に水面が揺れた。


 一度深呼吸をしてから、神官長は桶の水に顔を浸けた。




 ――神官長の目に映った光景は、現代日本のとある家であった。

 獣の視界は、台所に立っている飼い主らしき人物をじっと見つめている。洗い物でもしているのか、じゃあじゃあと流水の音が聞こえている。その他にも、コロコロ、リィンリィン、と神官長が聞いたことの無い虫か生き物の鳴き声や、木の葉を揺らし通り過ぎていく風の音も。

 獣は賑やかながらもどうしてか静かに感じる環境音を聞きながら、女性の姿をじいっと眺めていた。「一人遊びに飽きちゃったなぁ。飼い主、構ってくれないかなぁ」なんて期待を込めて。


 しばらくすると飼い主は気がついたのか、破顔して赤ちゃんに呼びかけるような猫なで声で獣に話しかけた。デレデレである。


「ん〜? どちたの〜?」


 声をかけられたからか、獣は起き上がり、ぽてぽてと台所のフェンスの前に移動すると、犬のようにお座りする。


 本来野生動物である獣がこんな愛玩動物じみた行動を取るのは、時々遊びに来る「おねえちゃん」こと、飼い主の母が飼っている犬の影響だ。シーズーという犬種らしい。

 犬にあるまじき賢さで、煮干しの美味しい部分だけ食べる方法や、踏まれるまでバレない嫌がらせおしっこの仕方、人間から可愛がってもらえる愛想の振る舞いやしつこい下等生物(犬)のあしらい方を獣に教えた、自称人間の大先輩である。

 人語を話せていれば歴史に名を残していたであろう賢者のおねえちゃんの指導により、獣は人間との暮らし方を身につけていたのであった。


「あら〜お座りしてお利口ちゃんだねぇ! こんなお利口ちゃんはどこの可愛いちゃんだっけ? 可愛いからおいしおいしあげちゃおっかなぁ?」


 おいしおいし。それは獣にとって美味しい食べ物のことであり、飼い主がおいしおいしと言う時はそれが貰えるのだということを理解していた。

 食べたくて食べたくて、獣はいてもたってもいられず、つい立ち上がってフェンスに手をかける。登ろうと思えば登れるが、ここを登ると怒られるのでやらない。獣にはおねえちゃんの次に賢いという自負があるのだ。


 神官長の自我は、徐々に獣の記憶と同一化していく。


 だからこそ、理解した。

 獣が「ドチタノー」と「オリコウ」と「カワイイ」を自分の名前だと思っていたことに。


 ちなみにもらったおいしおいしはサツマイモだった。

 それがなんともまぁ甘くておいしいこと! とろとろでねっとりしてて味が濃くて、いくら食べても食べ飽きない! しっとりほくほくした「いもも」もアマエッコは好きだったが、この「やきいも」は格別である。「やぎみるく」や「おみかん」、「しゃしゃみ」と同じくらい、ナニチタの大好きなおいしおいしだ。


 飼い主から毎日おいしおいしをもらって、いっぱい遊んでもらって、なでなでしてもらって。春になったら花を見るために一緒にお出かけして、夏になったら川や海で水遊びをして、秋になったら山でお散歩して、冬になったらおこたで一緒にねんねして。

 親離れというものを忘れてしまうほど、めいっぱい愛情を注いでもらって幸せに過ごしていた。


 しかしある日。飼い主がお風呂に入ったまま出てこなくて寂しくなったバブチャンは、お風呂場の扉をいつものように前足で器用に開けて、お風呂に入っている飼い主を確認した。


 いつもなら「こぉれ、このわるいこめ。今日はしゃんぷっぷじゃないからお風呂入れないの!」と言うはずなのに、今日は静かだった。

 飼い主はお風呂に入ったままねんねしていた。いつもならぺろぺろしたり、なでなでを前足で催促すれば起きるはずなのに、その日は何をしても起きなかった。びゃあんと鳴いても、甘噛みをしても、飼い主がイイコをなでなでしてくれなかった。


 どうすれば飼い主は起きてくれるんだろう? 飼い主に抱っこっこしてほしいのに。肩乗りでもいいよ。おんぶっぶでも。

 ねえ飼い主。起きてよ。




 ざぱりと顔を上げる。随分と長い時間水に顔をつけていたと神官長は思っていたが、実際のところは十秒程度しか経っていなかった。

 脇に置いてあるタオルを手に取るでもなく、桶の中の写し水をぼんやりと見つめる。顔から垂れる幾つもの雫が水面に波紋を作った。


「……神官長? どうされましたか?」


 不審に思った神官が声をかけるも、神官長の返事は鈍い。ようやくタオルを手に取って顔を拭いたかと思ったら再び動きを止め、小さく肩を震わせる。


「何が見えたのですか?」


 心配そうに声をかけた神官の耳に、鼻をすする音が届く。その音の主はもちろん、神官長である。


「……何でもない。彼女は家族に愛されたお嬢さんだった。そして……彼女が真実を知る前に我らに喚ばれたのは、きっと神の慈悲だったのでしょう。それだけのことですよ」

「いや何を見たんですか本当に」


 タオルで顔を覆ったままさめざめと泣き始めた様子に、彼の見た光景を知らぬ部下の神官は、崇拝に近い感情を抱いていたはずの神官長相手に初めてドン引きした。

 余談だが、今まで神官長に心酔し過ぎて問題行動も多かった神官だったが、この日を境に精神的に独り立ちしたのか言動に落ち着きが見られるようになり、他者との衝突等で隠れがちだった面倒見の良さや地頭の良さを発揮するようになった結果、人々に慕われる評判の良いエリート神官となるのだが、それはまた別のお話。


「聖女様の名前は分かったのか?」


 騎士団長の問いに、神官長は静かに頷く。


 覗き見た記憶の中。春になると、飼い主の女性は花咲く木の前で、毎年決まってこう言っていた。


 この花はね、君の名前の由来になっているんだよ。花が散る様子が儚いから短命のイメージもあるけれど、この木自体は人間と同じくらい長生きなんだ。


 ――その花の名は、確か。


「聖女様の名は――」


 ソメイヨシノ。日本では最も多く植栽されている、最も馴染み深い桜の一種。

 そこから取って。


「ヨシノ様、と申します」

ご清覧いただきありがとうございました!

ブクマや評価、続きが読みたいコメントが多かったら長編版を書くシリーズです。

そうでなくても書く予定はありますが、評価やコメントが多ければ多いほど早く執筆します。


おおビントロング、体臭がポップコーンの匂いだと言われているけど実際は個体によってポップコーンじゃなくて炒り豆っぽい匂いがすることもあるかわいいちゃん。飼育できるもんなら飼育したい動物No.1、柔らかめの箒っぽい手触りの毛並みとしっとりぺったり肉球のワイルド&キュートちゃん。どうしてあなたはそんなに可愛いの?

そんなビントロングへの感情が暴走した結果生まれました。

俺、億万長者になったら首都圏に近い田舎に広い土地と平屋を買って、ビントロング専用飼育部屋と庭にビントロング用のアスレチックを作って、国内CB個体のビントロングをお迎えして、毎食ごとに違う新鮮な果物をあげておやつにササミやゆで卵をあげるんだ……。


ちょっと面白そうじゃん? と思った方はブックマークをよろしくお願いします!

いいねや評価、レビュー、感想等も歓迎しております!

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