第九話 売れる畑、売れない人
第九話です。
都市との取引は、すぐに「当たり前」になる。
塩がある。
鉄がある。
酒も、少しだけ増えた。
畑は、よく回っている。
収量も安定している。
――なのに。
「……売れないな」
リーアが、ぽつりと言った。
「何が?」
セラが聞く。
「人」
空気が、一瞬止まった。
⸻
問題は、市場で起きた。
都市の商人が、再び来た。
前回より人数が多い。
荷車も大きい。
「いい畑だ」
「作物は、買う」
「でも……」
視線が、村人に向く。
「人は、いらない」
はっきり言った。
「雇いは?」
セラが聞く。
「不要」
「女は?」
「……条件次第」
笑いは起きなかった。
⸻
広場で、話し合いが開かれた。
「畑は売れる」
「作物も売れる」
「でも、人は売れない」
「じゃあ、どうする?」
「……置いていく?」
その言葉に、誰かが息を呑んだ。
「誰を?」
「……余ってる人」
余っている、という言葉が、
初めて人に使われた。
先生は、板を出した。
作物:価格あり
労働:価格あり
人:価格なし
「都市は、管理できるものしか買いません」
「人は?」
「管理できません」
沈黙。
⸻
その夜、空気は重かった。
布は敷かれたが、
話し合いは長い。
「夜、出れば?」
「……誰が?」
「都市向けに」
「それ、畑より安いよね」
「知ってる」
笑いが、出ない。
一人の女が言った。
「私、行ってもいい」
視線が集まる。
「畑より、値段が付くなら」
「……戻れる?」
「分からない」
先生は、口を開かなかった。
止める理由が、ない。
⸻
翌朝。
畑は、変わらず動いている。
だが、人数が一人減った。
「売れた?」
誰かが聞く。
「……売られた」
言い直しは、なかった。
セラが先生の隣に立つ。
「先生」
「はい」
「これ、失敗?」
先生は、少し考えた。
「いいえ」
「……じゃあ何」
「現実です」
⸻
昼。
港の少年が、先生に近づいた。
「……畑は、売れるんですね」
「はい」
「人は?」
先生は、答えなかった。
少年は、それを答えとして受け取った。
⸻
夕方、板が立てられる。
先生は、静かに書いた。
売れるものが増えるほど
売れないものが目立つ
村は、豊かだ。
だが、全員ではない。
笑いは、減った。
エロは、取引に近づいた。
選択は、重くなった。
それでも、
畑は回る。
教育は、
正しい問いを与える。
答えまでは、
用意しない。
誤字脱字はお許しください。




