第六十一話 派閥は、声から生まれる
61話です。
朝、畑は回っていた。
水も足りている。
倉も動いている。
板も、いつも通り立っている。
――だが、立ち位置が少し違う。
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「……あっち、
多くない?」
誰かが言う。
視線の先。
板の近く。
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「……昨日、
話してた人たちだ」
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声は小さい。
だが、
確かに“固まり”がある。
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午前。
判断は、抽選で決まった役が出す。
内容は正しい。
理由もある。
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だが、
反応が違う。
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「……まあ、
そうだよね」
頷く声。
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別の場所。
「……ちょっと、
固くない?」
小さな違和感。
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昼前。
集まりが起きる。
自然発生。
だが、
輪が二つできる。
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「……抽選、
続ける?」
一方の輪。
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「公平だし」
「変えない方がいい」
即答が続く。
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もう一方。
「……でも、
効率、
落ちてない?」
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「上手い人、
使った方が」
声は低い。
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誰も、
「派閥」とは言わない。
だが、
論点が固定され始める。
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「……先生なら」
誰かが言いかけて、止まる。
もう、
使いづらい名前だ。
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午後。
判断が一つ、
詰まる。
水の配分。
数字は、微妙。
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抽選役が、
慎重に言う。
「……維持」
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一方の輪が、
頷く。
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もう一方。
「……攻めないんだ」
小さな声。
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「……昨日なら、
増やしてた」
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夕方。
畑は終わる。
だが、
会話が残る。
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逃がす場所。
二つの輪が、
少し離れて座る。
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「……最近さ」
一方。
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「判断、
無難すぎない?」
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もう一方。
「……でも、
壊れてない」
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言葉が、
交差しない。
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ロウが、
中央に立つ。
珍しい。
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「……聞いていいか」
全員が、
そちらを見る。
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「どっちが正しいか、
決めたい?」
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沈黙。
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「……違う」
誰かが言う。
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「自分たちのやり方を、
通したい」
正直だった。
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ロウは、
深く息を吸う。
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「……それが、
派閥だ」
言い切り。
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空気が、
固まる。
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「派閥は」
ロウは続ける。
「争いから生まれない」
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「声から生まれる」
「納得から生まれる」
「“私たち”から生まれる」
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夜。
板の下に、
誰かが書いた字がある。
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抽選派
効率派
小さな字。
だが、
消されない。
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子どもが、
それを読む。
「……名前、
ついたね」
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セラが、
静かに言う。
「ついた瞬間、
戻れない」
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翌朝。
畑は回る。
だが、
声が分かれる。
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同じ判断に、
違う頷き方。
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板の前。
線を引く役:抽選
その下に、
誰かが小さく書き足す。
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※見直し検討
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農村は、
一線を越えた。
争っていない。
怒ってもいない。
だが――
立場が生まれた。
それは、
制度よりも
しぶとい。
誤字脱字はお許しください。




