第五十九話 役が、欲になる
59話です。
朝、板の前に人が集まっていた。
理由は、単純だ。
線を引く役:交代制
その一行が、
**“見られる場所”**にあるからだ。
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「……今日は、誰?」
誰かが聞く。
ミラが、板を見る。
「……まだ、決めてない」
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「……やりたい人、いる?」
軽い問いかけ。
だが、
返事が早すぎた。
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「俺、できる」
若い男の声。
間髪入れず、
別の声も重なる。
「……私も」
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空気が、止まる。
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「……え?」
誰かが、戸惑う。
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「嫌われ役だぞ?」
「きついぞ?」
確認の声。
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若い男は、
肩をすくめる。
「……でもさ」
一拍。
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「決める側だろ」
その言葉が、
静かに落ちる。
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午前。
その日、
線を引く役は二人になる。
ミラと、若い男。
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「……二人?」
セラが、眉をひそめる。
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「一人だと、
重い」
若い男は言う。
「二人なら、
分けられる」
一理ある。
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判断は、出る。
逃がす場所は短め。
理由も明確。
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だが、
言い方が違う。
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「……今日は、
ここまで」
若い男の声。
少し、
張りがある。
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「理由は?」
聞かれる前に、
言う。
「制度だから」
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ミラの視線が、
一瞬だけ動く。
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昼前。
逃がす場所。
人が、少ない。
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「……今日は、
居心地悪い」
誰かが言う。
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「決まってるからな」
若い男が答える。
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その言い方に、
微かな違和感が走る。
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昼。
集まりが、
自然に起きる。
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「……今日の判断、
どうだった?」
誰かが聞く。
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「正しい」
「問題ない」
数字も、合っている。
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だが、
セラが言う。
「……気になった」
全員が、見る。
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「役を、
やりたがる声」
沈黙。
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午後。
線を引く場面が、
増える。
必要以上に。
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「……そこも?」
「……念のため」
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理由は、
いつも“制度”。
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夕方。
畑は、回る。
だが、
自由が減った感じが残る。
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夜。
逃がす場所。
ロウが、
若い男に声をかける。
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「……今日、
楽しかった?」
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男は、
即答する。
「悪くない」
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「理由は?」
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「皆が、
俺を見る」
その一言で、
ロウの表情が変わる。
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「……それ、
危ない」
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男は、
笑う。
「役だろ」
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「役は、
回すものだ」
ロウは言う。
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「でも」
男は続ける。
「欲しくなる役も、
ある」
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翌朝。
板の前に、
人が集まる。
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「……今日、
誰?」
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誰かが言う。
「……昨日の人、
上手かったよな」
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ロウが、
静かに言う。
「それ、
評価だ」
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沈黙。
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板の下に、
新しい一文が書かれる。
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役
→ 回す
→ ○
役
→ 欲しがる
→ 危険
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農村は、
次の段階に入った。
制度は、
守るために作った。
だが――
見られる制度は、
欲を生む。
次に起きるのは、
争いではない。
競争だ。
誤字脱字はお許しください。




