第五十五話 逃がす場所を、作る
55話です。
朝、畑は回っていた。
水も合っている。
人も足りている。
判断も早い。
――それでも、重い。
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板の端。
兆候の列が、
消されずに残っている。
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「……これさ」
誰かが言う。
「増え続けるなら、
どこかで
抜かないと」
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「消す?」
「使う?」
もう、その二択ではなかった。
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集まりが開かれる。
ロウが、
板を真ん中に持ってくる。
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「……逃がす」
短い言葉。
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「逃がす?」
「どこに?」
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ロウは、
板の外を指す。
「畑じゃない場所」
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沈黙。
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「……仕事じゃない?」
「判断もしない?」
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「関係しない場所だ」
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セラが、
ゆっくり言う。
「……それ、
無駄じゃない?」
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ロウは、
否定しない。
「無駄だ」
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空気が、動く。
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「……無駄を、
作る?」
ミラが、
眉をひそめる。
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「制度の外に、
何も生まない場所を
作る」
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午後。
試しに、
一角が空けられる。
畑でもない。
倉でもない。
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「……ここで、
何する?」
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「何もしない」
即答だった。
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「……喋る?」
「……座る?」
「……寝る?」
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「全部、
いい」
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最初は、
誰も来ない。
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「……サボりだろ」
囁きが走る。
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だが、
夕方。
一人、座る。
何もしない。
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次に、
二人。
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言葉は少ない。
だが、
表情が違う。
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夜。
その場所に、
小さな輪ができる。
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「……今日さ」
「……うん」
「……判断、
重かった」
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誰も、
板を見ない。
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誰も、
まとめない。
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「……ここで言ったこと、
昼に出る?」
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ロウが答える。
「出ない」
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「……じゃあ、
意味ない?」
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ロウは、
少し考えてから言う。
「意味が
ないことが
意味だ」
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子どもが、
そこに座る。
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「……先生、
ここ、
好きそう」
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セラが、
小さく笑う。
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翌朝。
畑は回る。
判断は、
昨日より軽い。
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板の端。
兆候の列が、
一つ、減っている。
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「……消えた?」
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「逃げた」
ロウが言う。
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板の下に、
新しい一文が書かれる。
感情
→ 整理する ×
感情
→ 流す ○
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農村は、
制度のために、
制度外を作った。
生産しない。
決めない。
評価しない。
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それは、
非効率だ。
だが――
壊れないための無駄だった。
誤字脱字はお許しください。




