第五十三話 夜を、管理する
53話です。
朝、畑に立つと、
誰もが少しだけ、緊張していた。
水は回る。
人も動く。
板も立っている。
――だが、昨日の「例外」が残っている。
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「……今日、
どうする?」
誰かが言う。
「昨日の、
あれ」
言葉を濁す。
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集まりが、自然に起きる。
今回は、
いつもより円が広い。
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ロウが、口を開く。
「……夜を、
このままにしない」
断定だった。
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「切る?」
「禁止?」
言葉が出る。
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ロウは、首を振る。
「それは、
夜を地下に送る」
沈黙。
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「地下に行った夜は、
もっと危ない」
誰も反論しない。
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ミラが言う。
「……じゃあ、
どうする?」
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ロウは、板に書く。
夜
→ 聞く
→ まとめる
→ 昼に渡さない
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「……渡さない?」
セラが聞く。
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「直接は、
渡さない」
ロウは続ける。
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「夜は、
感情の時間」
「昼は、
判断の時間」
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「混ぜるから、
壊れる」
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「……じゃあ」
誰かが言う。
「夜は、
意味ない?」
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ロウは、
即答する。
「意味はある」
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「夜は、
“兆候”を集める」
「数字になる前の声」
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空気が、変わる。
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「……兆候?」
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ミラが、
ゆっくり言う。
「夜の声ってさ」
「怖い」
「嫌だ」
「助かった」
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「まだ、
判断に使えないけど」
「無視すると、
遅れる」
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午後。
試しが始まる。
夜の声を、
紙ではなく、
板の端に、
小さく記す。
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夜の兆候
・水:不安
・休み:助かる
・倉:怖い
判断には、使わない。
翌日以降の確認項目として残す。
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「……これなら」
誰かが言う。
「昼は、
揺れない」
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夕方。
判断は、
いつも通り出る。
例外は、
出ない。
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だが、
兆候の項目が、
一つ、
確認される。
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「……倉、
怖いって出てるな」
「じゃあ、
明日、
先に見る」
それだけだ。
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夜。
人は集まる。
だが、
昨日と違う。
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「……これ、
昼に言わなくていいんだな」
「言わなくていい」
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「……でも、
消えない?」
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セラが答える。
「消えない」
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「溜める」
「明日の確認になる」
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子どもが、
板を見る。
「……夜の声、
小さいね」
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ロウが言う。
「小さくしないと、
昼を飲み込む」
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翌朝。
畑は回る。
判断は、早い。
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だが、
一つ、
違いがある。
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人の顔を見る時間が、
少しだけ、増えた。
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板の下に、
新しい一文が書かれる。
感情
→ 判断に使う
→ ×
感情
→ 兆候として保管
→ ○
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農村は、
夜を消さなかった。
だが、
昼にも入れなかった。
棚を作ったのだ。
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それは、
賢い。
だが同時に――
冷たい。
そして、
冷たい棚は、
いつか
溢れる。
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