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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革農村編〜』  作者: くろめがね


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52/60

第五十二話 夜が、制度を壊す

52話です。

朝、畑は静かだった。


水は回る。

人も動く。

板も立っている。


――全部、正しい。


それなのに、

空気が薄い。



「……昨日さ」


誰かが言いかけて、

口を閉じる。


夜の話は、

昼に持ち込まない。


それが、

暗黙の了解だった。



午前。


判断は、淡々と出る。


「水、ここ維持」

「人、二人移動」

「倉、触らない」


理由もある。

数字も合う。



だが、

一人の男が、動かない。



「……どうした?」


ロウが聞く。



「……昨日、

 夜に聞いた」


一瞬、空気が止まる。



「……何を?」



「水、

 多いって」



ミラの視線が、

一瞬だけ動く。



「……誰から?」


男は、答えない。



ロウが、

静かに言う。


「それは、

 夜の話だ」



「でも」


男は続ける。


「……夜の方が、

 本音だろ」



沈黙。



午前の作業が、

少し遅れる。


誰も責めない。

だが、

判断が割れ始める。



「昼は正しい」

「夜は本音」


「じゃあ、

 どっちが上?」


誰も、答えられない。



昼前。


集まりが、

予定より早く開かれる。



「……線、

 引かないと」


セラが言う。



「昼と夜」

「制度と本音」


言葉にすると、

急に重くなる。



ミラが、

小さく言う。


「……昨日、

 謝った」


視線が集まる。



「夜に」


正直な声。



「昼の判断、

 正しかった」


「でも……」

「人の顔が、

 残った」



誰も否定しない。


だが、

ロウが言う。


「……それを

 昼に持ち込むと」



「判断が、

 揺れる」


事実だ。



午後。


一つ、

明確な越境が起きる。



水を減らす判断が、

出る。


理由は、

昼の数字。



だが、

夜に聞いた声が、

残る。



「……少しだけ、

 残せない?」


誰かが言う。



ミラが、

答えに詰まる。



正しいのは、

減らすこと。


だが、

夜に聞いた「怖い」が、

頭から離れない。



「……」


一拍。



「例外」


ミラが言う。



その瞬間、

空気が変わる。



「例外?」

「どこまで?」



「……今日だけ」



午後の作業は、

回る。


だが、

歯切れが悪い。



「……あれ、

 特別扱いじゃない?」


囁きが走る。



夕方。


畑は終わる。


昨日より、

少し遅い。



集まりが開かれる。


今度は、

重い。



ロウが、

はっきり言う。


「夜が、

 昼に入った」



沈黙。



「一回なら、

 いい」


誰かが言う。



「でも」


ロウは続ける。



「二回目から、

 制度じゃなくなる」



セラが、

深く息を吸う。


「……じゃあ、

 夜は、

 切り捨てる?」



誰も、

即答できない。



子どもが、

ぽつりと言う。


「……先生なら、

 どうした?」



誰も、答えない。



夜。


人は集まる。


だが、

昨日より静かだ。



「……昼に、

 言われた」


「……夜の話、

 出たって」



本音が、

本音を呼ぶ。



だが、

その流れが、

昼を壊しかけていることを

全員が、うっすら感じている。



翌朝。


板には、

いつも通り、役割が書かれる。



だが、

その下に、

誰かが書き足している。


小さな字。



例外

→ 優しさ

→ 積むと

→ 崩れる



農村は、

分かった。


夜は、

人を守る。


だが――

昼に混ぜると、

制度を溶かす。


ここから先は、

選択だ。


夜を切るか。

昼を壊すか。


あるいは――

第三の線を引くか。


チョークシリーズは、他の先生の物語もありますので、よろしければご覧ください。

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