第五十一話 冷たい制度と、温かい裏口
51話です。
夜。
畑は暗く、
板も見えない。
判断役の名前も、
今日は誰の目にも入らない。
⸻
「……今日は、
早く終わったな」
誰かが言う。
誰も否定しない。
⸻
制度は、うまく回っている。
水は足りている。
人は余らない。
倉も崩れない。
――昼は。
⸻
夜になると、
人は集まり方を変える。
中央ではない。
板の前でもない。
⸻
倉の裏。
水路の影。
家と家の隙間。
⸻
「……今日さ」
小さな声。
⸻
「休み、
多くなかった?」
囁き。
⸻
「セラの判断だろ」
「でもさ……」
言葉が、濁る。
⸻
「……昼は言えないよな」
誰かが苦笑する。
⸻
「言ったら、
制度になる」
それが、
今の共通認識だった。
⸻
別の場所。
ミラの横で、
女が座っている。
⸻
「……水、
多かった」
「うん」
「倉、
怒ってた」
⸻
ミラは、
すぐ答えない。
⸻
「……昼は、
正しかった」
「でも?」
⸻
「夜は、
謝りたい」
その言葉に、
女は少し笑う。
⸻
「……制度、
冷たいもんね」
⸻
さらに別の場所。
ロウのところに、
若い男が来る。
⸻
「……今日、
仕事、
少なかった」
「倉、
触らなかったからな」
⸻
「……楽だった」
正直な声。
⸻
ロウは、
一瞬黙る。
⸻
「……昼は、
言えないな」
「言ったら、
判断になる」
⸻
二人は、
黙って座る。
⸻
夜は、
誰も決めない。
だが、
誰かが聞く。
⸻
「……嫌だった?」
「……少し」
「……助かった?」
「……正直、
かなり」
⸻
答えは、
板には書かれない。
⸻
セラは、
一人で歩いている。
昼の判断。
夜の囁き。
両方が、
頭に残る。
⸻
「……先生」
誰もいないのに、
名前が出る。
⸻
「あの人さ」
自分に言う。
⸻
「昼の顔しか、
持ってなかった」
⸻
夜。
集まりが、自然に起きる。
だが、
公式じゃない。
⸻
誰かが言う。
「……昼は、
制度」
「夜は?」
「……人」
⸻
笑いは起きない。
だが、
否定もない。
⸻
子どもが、
そっと言う。
「……先生、
夜、
どうしてたんだろ」
⸻
セラは、
答えられない。
⸻
翌朝。
畑は回る。
板には、
いつも通り、
役割が書かれる。
⸻
水:ミラ
人:セラ
倉:ロウ
⸻
誰も、
夜の話を持ち出さない。
⸻
だが、
全員が知っている。
昼の制度だけでは、
人は保たない。
⸻
板の端に、
小さく書かれる。
誰が書いたか、
分からない字。
⸻
制度
→ 昼
本音
→ 夜
⸻
農村は、
次の段階に入った。
正しさの外側で、
感情が流れ始めた。
それは、
崩壊の兆しでもあり、
継続の潤滑油でもある。
チョークシリーズは、他の先生の物語もありますので、よろしければご覧ください。




