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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革農村編〜』  作者: くろめがね


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50/60

第五十話 嫌われ役を、増やす

50話です。

朝、畑はいつも通り回っていた。


水も足りている。

人も余っている。


――それでも、

空気は軽くない。



板に書かれた名前を見る。


判断役:ロウ


誰も、声を出さない。



「……今日も?」


誰かが、ぽつりと言う。



ロウは、板を消した。


白く、何も残らない。



「今日は」

ロウが言う。

「俺じゃない」


ざわめき。



「じゃあ、誰?」

「決まってない?」



ロウは、板に三つ書く。


判断

・水

・人

・倉



「分ける」


短い言葉。



「水は、ミラ」

「人は、セラ」

「倉は、俺」


視線が動く。



「……それ、

 ズルくない?」


冗談めいた声。



ロウは、否定しない。


「楽になる」



午前。


判断が、分散する。



「水、ここ増やす」


ミラが言う。


理由も短い。



「人、二人外す」


セラが言う。


説明は、簡潔。



「倉、今日は触らない」


ロウが言う。


それだけ。



視線は、散る。


昨日までのように、

一箇所に集まらない。



昼前。


不満は、出る。


だが――

向きが違う。



「……水、多くない?」

「ミラの判断か」



「……休み多くない?」

「セラだな」



誰も、

一人に集中させない。



「……倉、

 仕事少なすぎ」


「ロウだな」



誰かが、苦笑する。


「……分散すると、

 文句も分散するな」



昼。


集まりが、自然に起きる。


板の前に、三人が立つ。



「……どうだった?」


セラが聞く。



ミラが言う。


「楽じゃない」



ロウが言う。


「でも、昨日より

 軽い」



誰かが言う。


「……誰が悪いか、

 分からない」



セラが答える。


「それでいい」



午後。


一つ、判断が衝突する。


水を増やした結果、

倉の乾きが遅れる。



「……水、

 やりすぎ?」


ミラが言う。



ロウが答える。


「倉、

 今日は我慢する」



「……文句、

 来るよ?」



ロウは、肩をすくめる。


「来たら、

 分担」



夕方。


畑は、

予定通り終わる。


昨日より、

少し遅い。


だが――

誰も孤立していない。



集まりが開かれる。


誰かが、言う。



「……嫌われ役、

 増やしたら」


一拍置く。



「嫌われにくくなった」



笑いが、

小さく起きる。



ロウが言う。


「……先生、

 これ、

 やってなかったよな」



セラは、首を振る。


「一人で

 背負ってた」



「だから、

 消えた」


沈黙。



板に、

新しい一文が書かれる。


嫌われ役

→ 一人

→ 壊れる


嫌われ役

→ 分担

→ 続く



夜。


子どもが、聞く。


「……先生、

 これ見たら、

 怒る?」



セラは、少し考えて答える。


「笑う」



翌朝。


板には、

三つの名前が並ぶ。


水:ミラ

人:セラ

倉:ロウ



農村は、

また一つ、賢くなった。


正しさを、

人から剥がした。


その代わり――

制度が冷たくなった。



だが、

冷たい制度は、

人を長く守る。


チョークには別の先生が織りなすシリーズもあります。よろしければご覧ください。

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