第四十九話 判断役が、嫌われる
49話です。
朝、畑は静かだった。
配置は決まっている。
水路も確認済み。
判断役の名が、板に書かれている。
判断役:ロウ
それだけで、
空気が一段、硬い。
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「……今日、
ロウか」
誰かが言う。
声に、感情はない。
だが、
重さがある。
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午前。
作業は、順調だ。
水も回る。
人も動く。
だが、
判断が一つ入るたび、
視線が集まる。
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「ここ、
人、減らす」
ロウが言う。
理由も、添える。
「午後、
余る」
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正しい。
だが、
外された側の表情が、
わずかに曇る。
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「……なんで、
俺じゃなくて、
あいつ?」
声は、
小さい。
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昼前。
もう一つ、判断が入る。
「倉の作業、
一人削る」
理由は明確だ。
「在庫、
足りてる」
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「……じゃあ、
俺、
何する?」
外された男が言う。
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ロウは、
即答しない。
少し考えてから言う。
「……休め」
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空気が、
ぴしりと鳴る。
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「休め?」
男の声が、低くなる。
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「今、
人、余ってる」
事実だ。
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「……楽してるって
思われる」
男は言う。
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ロウは、
視線を外さない。
「思われても、
いい」
その一言が、
決定的だった。
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昼。
集まりは、短い。
だが、
視線が刺さる。
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「……正しいけどさ」
誰かが言う。
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「気分は、
良くない」
否定は出ない。
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午後。
作業は続く。
だが、
声が減る。
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「……ロウ、
今日、
多いな」
冗談めかして言う者もいる。
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ロウは、
笑わない。
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夕方。
畑は、
予定通り終わる。
無駄もない。
問題もない。
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だが、
拍手はない。
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集まりが開かれる。
誰かが、
ついに言う。
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「……正直に言うと」
全員が、顔を上げる。
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「ロウ、
嫌われ役だな」
笑いは起きない。
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ロウは、
静かに答える。
「……分かってる」
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「判断役、
やめたい?」
セラが聞く。
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ロウは、首を振る。
「やめない」
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「理由は?」
「誰かが
やらないと、
回らない」
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沈黙。
だが、
重い。
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誰かが、呟く。
「……先生、
これ、
一人で背負ってたんだな」
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ロウは、
初めて視線を落とす。
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「……先生は」
一拍置く。
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「嫌われる前に、
消えた」
誰も否定しない。
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夜。
ロウは、
一人で座っている。
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セラが、隣に来る。
「……大丈夫?」
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ロウは、
苦笑する。
「正しいと、
嫌われる」
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「それ、
先生も言ってた?」
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「言ってない」
ロウは答える。
「でも、
分かってたと思う」
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翌朝。
板に、
新しい文字が書かれる。
判断役
→ 正しい
→ 嫌われる
それでも
→ 回す
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農村は、
初めて知った。
制度は、
人を守る。
だが同時に――
人を孤立させる。
ここから先、
判断は
知識だけでは
足りなくなる。
チョークには別の先生が織りなすシリーズもあります。よろしければご覧ください。




