第四十八話 判断を、誰が背負うか
48話です。
朝、畑は回っていた。
昨日より、
ほんの少しだけ遅い。
誰かが怠けたわけではない。
誰かが失敗したわけでもない。
迷いが増えただけだ。
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「……これ、
誰が決める?」
水路の前で、
声が止まる。
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「昨日は、
皆で決めた」
「今日は?」
答えが出ない。
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午前。
小さな判断が、
積み重なる。
水を増やすか。
減らすか。
人を動かすか。
そのままか。
どれも、
重大ではない。
だが、
数が多い。
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「……決め役、
必要じゃない?」
誰かが言う。
その言葉に、
空気が変わる。
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「先生みたいな?」
誰も笑わない。
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集まりが開かれる。
自然発生だが、
全員が来る。
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「……分散は、
うまくいってる」
ベテランの男が言う。
「でも」
「時間がかかる」
否定は出ない。
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「じゃあ、
誰か一人?」
若い男が言う。
「代表を置く?」
沈黙。
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「それ……」
「先生、
戻るのと同じじゃない?」
セラが言う。
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「でも」
別の声。
「戻らないって
決めた」
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板が出される。
久しぶりだ。
三つ、書かれる。
一
完全分散
二
固定代表
三
交代制
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「一は?」
「遅い」
「二は?」
「集まりすぎる」
「三は?」
「……面倒」
正直だ。
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先生の板が、
思い出される。
判断が私に集まったら
村は止まる
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「……交代制」
セラが言う。
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「期限付きで」
「一日」
「いや、
半日」
言葉が、
少しずつ具体化する。
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「じゃあ、
今日の判断役は?」
空気が張る。
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一瞬の沈黙の後、
名前が出る。
「……セラ」
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セラは、
驚かない。
だが、
少しだけ呼吸が深くなる。
「……やる」
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午前後半。
判断は、
速くなる。
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「水、ここ増やす」
「理由は?」
「午前の蒸れ」
説明が、
短くなる。
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誰も反論しない。
だが、
全員が見ている。
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昼前。
小さなミスが出る。
増やした水で、
一角が少し重い。
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「……セラ」
誰かが、声を落とす。
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セラは、
すぐに言う。
「戻す」
理由も添える。
「午後、
日が落ちる」
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修正は、早い。
被害は、ない。
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だが。
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「……判断役、
きついな」
誰かが呟く。
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昼。
集まりは、短い。
「……どうだった?」
セラは、正直に答える。
「怖い」
笑いは起きない。
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「間違えたら、
全員に影響する」
「責任、
重い」
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ベテランの男が言う。
「……でも、
逃げなかった」
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午後。
判断役は、
続く。
小さな決断。
小さな修正。
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夕方。
畑は終わる。
いつもより、
少し早い。
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集まりが開かれる。
「……交代制、
続ける?」
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セラが言う。
「続ける」
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「理由は?」
「私一人に
集めないため」
誰も、反論しない。
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板に、
新しい一文が書かれる。
判断
→ 集めすぎると止まる
→ 分けすぎると迷う
→ 回すと、続く
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夜。
セラは、
一人で座っている。
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子どもが、聞く。
「……先生みたい?」
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セラは、首を振る。
「違う」
「先生は、
消えられた」
「私は……
明日、交代する」
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翌朝。
板に、
新しい名前が書かれる。
判断役:ロウ
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農村は、
一つ、形を作った。
王でもない。
先生でもない。
回る責任。
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だが、
それはまだ、
軽い。
この先、
判断が
血や欲に触れた時、
同じ形で回るとは限らない。
チョークには別先生が織りなすシリーズもあります。よろしければご覧ください。




