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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革農村編〜』  作者: くろめがね


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47/60

第四十七話 先生が残した、穴

47話です。

朝、畑は回っていた。


昨日より、少し早い。

無駄も少ない。


誰も声高に褒めない。

だが、

手応えはある。



「……問題、ないね」


誰かが言う。


その言葉に、

微妙な沈黙が挟まる。



「問題がない、

 ってことが……」


続きが、出てこない。



午前。


板には、

昨日の記録が残っている。


水:一部増

人数:変化なし

余り:微


数字は、正直だ。



子どもが、板を見て言う。


「……先生がいた頃と、

 あんまり変わらないね」


その一言が、

静かに刺さる。



「……そうだな」


誰かが答える。



「じゃあさ」


別の声。


「先生、

 必要だった?」


空気が、止まる。



誰も怒らない。

だが、

誰も軽く流せない。



セラが、ゆっくり言う。


「……必要だった」


即答だった。



「でも」


一拍置く。



「今、

 いない方が

 回ってる」


事実だった。



昼前。


集まりが開かれる。


今回は、

全員が自然に来る。



「……これ、

 偶然じゃないよな」


ベテランの男が言う。



「先生はさ」

「教えない日を作った」

「いなくなる日も作った」


言葉が、

一つずつ並ぶ。



「最初から、

 ここまで

 想定してたんじゃないか」


誰も、否定しない。



「……だったら」


若い女が言う。


「なんで、

 消えたの?」



沈黙。


答えは、

まだない。



午後。


作業をしながら、

皆が考えている。


先生は、

何を見ていたのか。


どこで、

限界を見たのか。



「……先生さ」


誰かが言う。


「最後に、

 何か言ってた?」



セラが思い出す。


「……

 “教えない日は必要”

 って」



「それだけ?」


「……それだけ」



夕方。


子どもが、

倉の奥から何かを見つける。


「……これ」


古い布に包まれた、

一枚の板。



文字は、薄い。


だが、

読める。



教育が回り始めたら

私は、邪魔になる


判断が私に集まったら

村は止まる


沈黙。



「……書いてたんだ」


誰かが、呟く。



板の裏に、

さらに文字がある。



だから

私は、消える


これは、放棄ではない

引き継ぎだ



誰も、すぐに声を出せない。



セラが、ようやく言う。


「……先生、

 自分のこと、

 道具だと思ってたんだ」



ベテランの男が、

歯を食いしばる。


「……勝手だな」


だが、

怒りは弱い。



夜。


集まりは、静かだ。


だが、

誰も帰らない。



「……先生が残した穴ってさ」


若い男が言う。



「知識じゃない」

「手順でもない」



「判断を、

 引き受ける場所だ」


その言葉に、

全員が頷く。



「今は、

 分散してる」


「だから、

 回ってる」



「でも……」


誰かが、続ける。



「詰まった時、

 誰が引き受ける?」


沈黙。



先生がいた場所。

誰も立たなかった場所。


そこが、

“穴”だった。



翌朝。


畑は回る。


昨日より、

少しだけ遅い。



誰かが言う。


「……考えすぎか?」



セラは、首を振る。


「考えないと、

 詰まる」



板の下に、

新しい一文が書かれる。


判断は

集めすぎると止まり

分散しすぎると迷う



農村は、

次の問題に直面した。


先生が消えた理由は、

理解した。


だが――

**先生がいない“最後の役割”**だけは、

まだ埋まっていない。


チョークには別の先生が織りなす他のシリーズもあります。よろしければご覧ください。

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