第四十六話 先生がいない教育
46話です。
朝、畑に板が立った。
先生の字ではない。
少し歪んだ字。
だが、
内容は分かる。
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今日の確認
・水
・人数
・余り
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「……誰が書いた?」
セラが聞く。
ベテランの男が、少し気まずそうに言う。
「……俺」
誰も笑わない。
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作業は、自然に始まる。
配置は昨日と同じ。
だが、
確認が一つ多い。
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「水、ここ足りてる?」
「歩数、合ってる?」
「余り、出てない?」
先生がいた頃より、
言葉が増えている。
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午前。
子どもたちが、
小さな輪を作っている。
「昨日の数、覚えてる?」
「うん」
「じゃあ、今日は?」
簡単な計算。
紙はない。
指と地面だけ。
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「……先生みたいだな」
誰かが言う。
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セラは、首を振る。
「違う」
全員が見る。
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「先生は、
答えを出してた」
「今は、
出してない」
沈黙。
だが、
否定はない。
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昼前。
一つ、判断が分かれる。
水を増やすか。
減らすか。
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「昨日は……」
「いや、今日は暑い」
「でも、人数は……」
議論が起きる。
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誰も、結論を急がない。
これが、
先生がいない教育の特徴だった。
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「……試す?」
セラが言う。
全員が見る。
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「全部じゃない」
「一部だけ」
小さな賭け。
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午後。
結果が出る。
水を増やした場所は、
少し良い。
だが、
他は変わらない。
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「……増やしすぎなくて、
良かったな」
誰かが言う。
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夕方。
板に、追記がされる。
今日の結果
・一部増 → ○
・全体増 → ×
字は、また違う。
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夜。
集まりが開かれる。
先生はいない。
だが、
全員が話す。
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「今日、
うまくいった?」
即答はない。
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「……派手じゃないけど」
「壊れてない」
「昨日より、分かる」
それで十分だった。
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ベテランの男が、言う。
「……俺さ」
全員が、顔を上げる。
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「先生がいたら、
聞いてたと思う」
沈黙。
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「でも、今日は」
「聞かなくて済んだ」
誰も否定しない。
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子どもが、言う。
「……先生、
いなくても
いい日あるね」
大人が、少し笑う。
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板の下に、
一文が足される。
教育
→ 答えを渡す
→ ×
教育
→ 試させる
→ ○
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翌朝。
畑は回る。
昨日より、
少しだけ早い。
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誰かが言う。
「……これ、
続けられるな」
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農村は、
確かに一歩進んだ。
先生がいなくても、
教育は続く。
だが――
先生が消えた理由は、
まだ語られていない。
チョークの世界は他にもありますので、よろしければご覧ください。




